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第二十二話 襲撃
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俺達は、ホワイト先生、ミリオン編集者、デンゼル先生、中央大劇場のオーナー、それぞれに挨拶をしてサロンを出て馬車に乗り込んだ。
デンゼル先生はマライアと同じくほろ酔い加減だったけど。
俺は長編を改稿しつつ、ミリオン編集者からの連絡を待つことになった。
今は馬車の中。
ダリルは自分の馬に乗って来てたから、馬車の後ろを馬で追走している。
「……ん~? ここどこぉ~?」
あ、馬車の中に入るなり寝てしまっていたマライアが目を覚ました。
「マライア、ここは馬車の中よ。眠いのならそのまま寝てて良いのよ?」
俺は優しくマライアに語り掛ける。
「ううん。このまま起きてるわ。エルシー、さっきはごめんなさいね。私、嬉しくて嬉しくて。我慢が効かなくなっちゃったの……」
酔いは覚めてるみたいだけど、眠そうなマライアは、軽く頭を振って目を覚まそうとしている。
「私も嬉しかったわ。前回サロンへ行って、マライアが通っているのが、演劇の専門学校だと分かったから」
単行本本編にもあとがきにも書かれていなかった情報だったからな。余計に嬉しかったよ。
「しかも今回はデンゼル先生に実力を認められて、中央大劇場のオーナーにも気に入られてるから、新しいパンジー役に決まったみたいなものよね?」
マライア本来の願いが叶って行くのは素直に嬉しい。本当に嬉しい。
今頃、ロウフェル神も喜んでいるんだろうな。
「ジュリア! どうした!?」
馬車の後ろからダリルの声が聞こえた。
「ジュリア」はダリルの愛馬の名前。賢い雌の駿馬なんだ。
と言うか、ジュリアに何かあったのか?
「トニー! 少し止まってちょうだい! ダリル……いえ、ジュリアに何かあったみたいなの!」
俺が呼び掛けると、すぐに馬車が止まり、トニーが御者席から降りて、ダリル達の様子を見に行く。
「何があったのかしらね」
マライアも気になったらしく、馬車から降りる。
一人で待ってるのは嫌だし俺もダリル達が気になったから、護身用の杖を持って馬車から降りた。
外に出ると街灯なんて無いのに、月明りと星明りの光で、辺りの様子が良く見えた。
ここは大踊りに通じる十字路に近い道。前回神殿に行った帰りに襲われた道から近い場所だ。
辺りを軽く見回してから、馬車の後ろに向かう。
……? そんなに遅い時間でもないのに人通りが全く無いなあ?
「ダリル! ジュリアに何かあったの!?」
駆け足でダリルとジュリアの側まで着くと、トニーが携帯用のランプを持って、ジュリアの様子をじっくり観察していた。
「エルシーまで来ちゃったのか……ジュリアが急に立ち止まっちゃったんだよ」
ジュリアは立ち止まっているけど、何やら興奮しているようにも見える。
時々、ブルルッと言う鳴き声を出している。
「……むっ?」
トニーがジュリアの足の一点を見つめて、そっと手を伸ばし、何かを掴んで、引っ張る仕草をした。
「何か見付けたの?」
マライアが問うと、トニーは顔を強張らせて、
「針……です」
と言った。
――その瞬間。
「みんな! 気を付けて! 誰かが僕達を狙ってる!」
ダリルの大声が響いた!
俺もマライアもトニーも、当然ダリルも臨戦態勢になる。
「殺気みたいなものを感じたんだ。相手がどこにいるかは分からないけど、気をつけて……!」
ダリルも俺もトニーも、辺りに何かの気配がないか探る。
でも、マライアは……、
「見えなくても分かるわよ! 馬車の影に隠れて近付いて来てるわね!」
高らかに言い放った。
「……チッ」
微かに舌打ちが聞こえた。
それも馬車が進行していた方向からだ。
大通りに向かう十字路からこの道に入って来たんだな。
多分だが、俺がエルシーに転生する切っ掛けになった、馬車の転倒を起こさせたヤツだろう。
ダリルがジュリアから離れて腰に巻いていた剣ホルスターから小ぶりの剣を抜く。
トニーはメリケンサックにも似た武器をポケットから出して両手にはめる。
俺は杖を構える。マライアはなんだか良くわからない体術? らしき構えを取る。
更に口の中で何やらぶつぶつ唱えている。きっと呪文だと思う。
「針は……一度しか使えないと言うのに……」
複数……三人……かな? の足音と共に低い女の声が聞こえた。
こちらに向かっている。
ダリルがトニーの隣に立ってマライアと俺に、
「あまり前へ出過ぎないで」
と言って振り返りつつ軽く笑った。
きっと俺とマライアを安心させる為に余裕ぶって見せたのだろう。
ダリルはすぐに正面を向いて、足音の方向を見る。
「三人くらいなら、ダリルとトニーなら楽勝だと思うわよ」
俺はマライアを安心させる為に言う。
前回は昼間とは言え六人。
今回は月と星明りで周囲がはっきり見えるとは言え、あの針を使った相手がいる。
どうなるかは分からないけど、マライアに余計な心労は掛けたく無い。
しかし、ついにご対面ってワケかな? 馬車を転倒させた相手本人と。
見えてきた姿は――長く赤い髪をなびかせて、悠々とこちらに歩いて来る女の姿。顔は仮面で隠されていて見えない。
その女に付き従うように、女の左右を歩く細身の男が二人。
相手の出方を見るように、トニーとダリルは動かない。
「俺達に用があるんだろ? さっさとこっちに来い!」
挑発するようにトニーが相手に呼び掛ける。
「恐れ慄いているのか? 僕の馬を狙った卑怯者め!」
ダリルも相手を挑発する。
ぴくり、と女の肩が震えたが、歩く速度は変わらない。
「エルシーお嬢様。マライア様の後ろに。あの者達の狙いはおそらくエルシーお嬢様です」
トニーの冷静な言葉に応え、俺がマライアの後ろに隠れる。
と――
「光の精霊よ。あの小娘の目に入ってやりなさい!」
女が呪文らしきものを唱えた。
あ、あの小娘。って俺だよな! 不味いぞ!
俺は両目を庇いつつ瞼を、ぎゅっと閉じると、
「光の精霊よ。エルシーを守って!」
マライアの声が呪文を唱えた。
マライアの魔法はしっかり発動したようで、俺の回りが光に包まれる。
目を閉じていても分かる。瞼越しにまで入って来る眩く優しい光だ。
守られてる。って感じがする。
続いて、
「月光の精霊よ。仮面の女の目に入って!」
ま、マライア連続で呪文を!
よく分からないけど、大丈夫なのか!?
しかし、少し遠くで「ぎゃっ」と女の、叫び声がした。
「上手く行ったぁ!! エルシー、もう目を開けて良いわよ!」
その声に、恐る恐る目を開けると、男達はトニーとダリルとそれぞれ交戦を始めており、仮面の女はよろよろとした足取りで逃げようとしていた。
「行くわよー!」
マライアは俺を置いて女を追って駆け出した。
「あっ! マライア! 深追いは危険よ!」
俺もマライアを止めるべく走り出す。
しかしマライアはフォーマル用の、踵の高いハイヒールだからあんまり速度が出ていない……。
トニーと交戦しているのは長剣を持った男だが、トニーのほうが動きは早く、剣が当たらず苦戦している。
トニーはトニーで剣の間合いまで入れず、防戦気味だ。
ダリルはと言うと……あっ! 短剣使ってる相手に苦戦してる!?
俺は咄嗟に護身用の杖のボタンを押し、先端から数本の釘を出した状態でダリル達とすれ違いざまに、短剣を持った男の尻を杖で思い切りぶっ叩いた。
「――ぐわゔっ!」
短剣を持っている男の、汚い悲鳴が辺りに響き渡った。
うん。そりゃ、痛かろうよ。
釘バットで尻をぶっ叩かれたようなものだからな。
で、俺は振り返らずにマライア追い駆ける。
「マライア! 深追いしちゃ――ってどうしたの!?」
マライアが馬車から少し先まで走って、地面にへたり込む。
「足……捻っちゃった……」
あ~……ハイヒールで走ったりするから……。
あ! 仮面の女は!?
俺は仮面の女がいた場所を見るが、既に影も形も無い。
逃げられてしまったか……。
「えっと……」
振り返ると、
「……ぐ! ……ゔ!」
あ、尻を抑えたまま、ダリルに縄で縛られて、地面に座らされた男が呻いている。
短剣を使っていた男だ。縄はジュリアの鞍にでも、着けていたんだろうか。
ダリルはトニーに加勢している。
二対一だからすぐに勝負が着いて、トニーが男を抑え込むと、ダリルが俺とマライアのほうに走っ……いや、馬車の御者席に駆け上がって、縄を取り出しトニーのほうに取って返す。
で、残りの男を縛り上げて、終わりだ。
俺はマライアに肩を貸すと、馬車に乗り込ませ、トニーとダリルのほうに歩いて行く。
……あ、やっぱりあった。
護身用の杖に仕込まれていた釘がまだ苦しげな表情の、縛り上げられた男の近くに落ちていた。
ワイアット……改めて、こんな凶悪な武器をエルシーお嬢様に持たせるなよ。
まあ、仕込まれていた釘は先端でなくて平な頭の部分が出て来るから、殺傷能力は低いだろうけど。
釘バットは俺が以前生きていた世界の、むかぁ~しの不良とかが使ってた凶悪な武器だ。
普通のバットのグリップの部分から上に何十本もの釘を打ち込んだ代物だ。
しかし、釘バットを知らなくても、こんな凶悪な護身用の仕込み杖を思い付いて発注するなんて……ワイアットは本当に色んな意味で有能だなあ。
俺は杖から外れてしまった釘を拾って馬車に戻った。
なんで、釘を回収したかと言うと、明日明るくなってから、誰かが釘を踏んで怪我をする可能性があるからだ。
さて、ジュリアも平気みたいだし、ダリルはここから一番近い自警団の詰所に人を呼びに行くみたいだ。
縛り上げた男達の見張りはトニーに任せてる。
しかし、あの仮面の女……俺が知ってる人みたいに思えるけど、顔は仮面で見えないし、声も聞いたことないけど。
う~ん。屋敷に帰ってたらゆっくり考えてみるかな……。
(続く
デンゼル先生はマライアと同じくほろ酔い加減だったけど。
俺は長編を改稿しつつ、ミリオン編集者からの連絡を待つことになった。
今は馬車の中。
ダリルは自分の馬に乗って来てたから、馬車の後ろを馬で追走している。
「……ん~? ここどこぉ~?」
あ、馬車の中に入るなり寝てしまっていたマライアが目を覚ました。
「マライア、ここは馬車の中よ。眠いのならそのまま寝てて良いのよ?」
俺は優しくマライアに語り掛ける。
「ううん。このまま起きてるわ。エルシー、さっきはごめんなさいね。私、嬉しくて嬉しくて。我慢が効かなくなっちゃったの……」
酔いは覚めてるみたいだけど、眠そうなマライアは、軽く頭を振って目を覚まそうとしている。
「私も嬉しかったわ。前回サロンへ行って、マライアが通っているのが、演劇の専門学校だと分かったから」
単行本本編にもあとがきにも書かれていなかった情報だったからな。余計に嬉しかったよ。
「しかも今回はデンゼル先生に実力を認められて、中央大劇場のオーナーにも気に入られてるから、新しいパンジー役に決まったみたいなものよね?」
マライア本来の願いが叶って行くのは素直に嬉しい。本当に嬉しい。
今頃、ロウフェル神も喜んでいるんだろうな。
「ジュリア! どうした!?」
馬車の後ろからダリルの声が聞こえた。
「ジュリア」はダリルの愛馬の名前。賢い雌の駿馬なんだ。
と言うか、ジュリアに何かあったのか?
「トニー! 少し止まってちょうだい! ダリル……いえ、ジュリアに何かあったみたいなの!」
俺が呼び掛けると、すぐに馬車が止まり、トニーが御者席から降りて、ダリル達の様子を見に行く。
「何があったのかしらね」
マライアも気になったらしく、馬車から降りる。
一人で待ってるのは嫌だし俺もダリル達が気になったから、護身用の杖を持って馬車から降りた。
外に出ると街灯なんて無いのに、月明りと星明りの光で、辺りの様子が良く見えた。
ここは大踊りに通じる十字路に近い道。前回神殿に行った帰りに襲われた道から近い場所だ。
辺りを軽く見回してから、馬車の後ろに向かう。
……? そんなに遅い時間でもないのに人通りが全く無いなあ?
「ダリル! ジュリアに何かあったの!?」
駆け足でダリルとジュリアの側まで着くと、トニーが携帯用のランプを持って、ジュリアの様子をじっくり観察していた。
「エルシーまで来ちゃったのか……ジュリアが急に立ち止まっちゃったんだよ」
ジュリアは立ち止まっているけど、何やら興奮しているようにも見える。
時々、ブルルッと言う鳴き声を出している。
「……むっ?」
トニーがジュリアの足の一点を見つめて、そっと手を伸ばし、何かを掴んで、引っ張る仕草をした。
「何か見付けたの?」
マライアが問うと、トニーは顔を強張らせて、
「針……です」
と言った。
――その瞬間。
「みんな! 気を付けて! 誰かが僕達を狙ってる!」
ダリルの大声が響いた!
俺もマライアもトニーも、当然ダリルも臨戦態勢になる。
「殺気みたいなものを感じたんだ。相手がどこにいるかは分からないけど、気をつけて……!」
ダリルも俺もトニーも、辺りに何かの気配がないか探る。
でも、マライアは……、
「見えなくても分かるわよ! 馬車の影に隠れて近付いて来てるわね!」
高らかに言い放った。
「……チッ」
微かに舌打ちが聞こえた。
それも馬車が進行していた方向からだ。
大通りに向かう十字路からこの道に入って来たんだな。
多分だが、俺がエルシーに転生する切っ掛けになった、馬車の転倒を起こさせたヤツだろう。
ダリルがジュリアから離れて腰に巻いていた剣ホルスターから小ぶりの剣を抜く。
トニーはメリケンサックにも似た武器をポケットから出して両手にはめる。
俺は杖を構える。マライアはなんだか良くわからない体術? らしき構えを取る。
更に口の中で何やらぶつぶつ唱えている。きっと呪文だと思う。
「針は……一度しか使えないと言うのに……」
複数……三人……かな? の足音と共に低い女の声が聞こえた。
こちらに向かっている。
ダリルがトニーの隣に立ってマライアと俺に、
「あまり前へ出過ぎないで」
と言って振り返りつつ軽く笑った。
きっと俺とマライアを安心させる為に余裕ぶって見せたのだろう。
ダリルはすぐに正面を向いて、足音の方向を見る。
「三人くらいなら、ダリルとトニーなら楽勝だと思うわよ」
俺はマライアを安心させる為に言う。
前回は昼間とは言え六人。
今回は月と星明りで周囲がはっきり見えるとは言え、あの針を使った相手がいる。
どうなるかは分からないけど、マライアに余計な心労は掛けたく無い。
しかし、ついにご対面ってワケかな? 馬車を転倒させた相手本人と。
見えてきた姿は――長く赤い髪をなびかせて、悠々とこちらに歩いて来る女の姿。顔は仮面で隠されていて見えない。
その女に付き従うように、女の左右を歩く細身の男が二人。
相手の出方を見るように、トニーとダリルは動かない。
「俺達に用があるんだろ? さっさとこっちに来い!」
挑発するようにトニーが相手に呼び掛ける。
「恐れ慄いているのか? 僕の馬を狙った卑怯者め!」
ダリルも相手を挑発する。
ぴくり、と女の肩が震えたが、歩く速度は変わらない。
「エルシーお嬢様。マライア様の後ろに。あの者達の狙いはおそらくエルシーお嬢様です」
トニーの冷静な言葉に応え、俺がマライアの後ろに隠れる。
と――
「光の精霊よ。あの小娘の目に入ってやりなさい!」
女が呪文らしきものを唱えた。
あ、あの小娘。って俺だよな! 不味いぞ!
俺は両目を庇いつつ瞼を、ぎゅっと閉じると、
「光の精霊よ。エルシーを守って!」
マライアの声が呪文を唱えた。
マライアの魔法はしっかり発動したようで、俺の回りが光に包まれる。
目を閉じていても分かる。瞼越しにまで入って来る眩く優しい光だ。
守られてる。って感じがする。
続いて、
「月光の精霊よ。仮面の女の目に入って!」
ま、マライア連続で呪文を!
よく分からないけど、大丈夫なのか!?
しかし、少し遠くで「ぎゃっ」と女の、叫び声がした。
「上手く行ったぁ!! エルシー、もう目を開けて良いわよ!」
その声に、恐る恐る目を開けると、男達はトニーとダリルとそれぞれ交戦を始めており、仮面の女はよろよろとした足取りで逃げようとしていた。
「行くわよー!」
マライアは俺を置いて女を追って駆け出した。
「あっ! マライア! 深追いは危険よ!」
俺もマライアを止めるべく走り出す。
しかしマライアはフォーマル用の、踵の高いハイヒールだからあんまり速度が出ていない……。
トニーと交戦しているのは長剣を持った男だが、トニーのほうが動きは早く、剣が当たらず苦戦している。
トニーはトニーで剣の間合いまで入れず、防戦気味だ。
ダリルはと言うと……あっ! 短剣使ってる相手に苦戦してる!?
俺は咄嗟に護身用の杖のボタンを押し、先端から数本の釘を出した状態でダリル達とすれ違いざまに、短剣を持った男の尻を杖で思い切りぶっ叩いた。
「――ぐわゔっ!」
短剣を持っている男の、汚い悲鳴が辺りに響き渡った。
うん。そりゃ、痛かろうよ。
釘バットで尻をぶっ叩かれたようなものだからな。
で、俺は振り返らずにマライア追い駆ける。
「マライア! 深追いしちゃ――ってどうしたの!?」
マライアが馬車から少し先まで走って、地面にへたり込む。
「足……捻っちゃった……」
あ~……ハイヒールで走ったりするから……。
あ! 仮面の女は!?
俺は仮面の女がいた場所を見るが、既に影も形も無い。
逃げられてしまったか……。
「えっと……」
振り返ると、
「……ぐ! ……ゔ!」
あ、尻を抑えたまま、ダリルに縄で縛られて、地面に座らされた男が呻いている。
短剣を使っていた男だ。縄はジュリアの鞍にでも、着けていたんだろうか。
ダリルはトニーに加勢している。
二対一だからすぐに勝負が着いて、トニーが男を抑え込むと、ダリルが俺とマライアのほうに走っ……いや、馬車の御者席に駆け上がって、縄を取り出しトニーのほうに取って返す。
で、残りの男を縛り上げて、終わりだ。
俺はマライアに肩を貸すと、馬車に乗り込ませ、トニーとダリルのほうに歩いて行く。
……あ、やっぱりあった。
護身用の杖に仕込まれていた釘がまだ苦しげな表情の、縛り上げられた男の近くに落ちていた。
ワイアット……改めて、こんな凶悪な武器をエルシーお嬢様に持たせるなよ。
まあ、仕込まれていた釘は先端でなくて平な頭の部分が出て来るから、殺傷能力は低いだろうけど。
釘バットは俺が以前生きていた世界の、むかぁ~しの不良とかが使ってた凶悪な武器だ。
普通のバットのグリップの部分から上に何十本もの釘を打ち込んだ代物だ。
しかし、釘バットを知らなくても、こんな凶悪な護身用の仕込み杖を思い付いて発注するなんて……ワイアットは本当に色んな意味で有能だなあ。
俺は杖から外れてしまった釘を拾って馬車に戻った。
なんで、釘を回収したかと言うと、明日明るくなってから、誰かが釘を踏んで怪我をする可能性があるからだ。
さて、ジュリアも平気みたいだし、ダリルはここから一番近い自警団の詰所に人を呼びに行くみたいだ。
縛り上げた男達の見張りはトニーに任せてる。
しかし、あの仮面の女……俺が知ってる人みたいに思えるけど、顔は仮面で見えないし、声も聞いたことないけど。
う~ん。屋敷に帰ってたらゆっくり考えてみるかな……。
(続く
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