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第十八話 長編完成……二ヶ月は無理だった……でも!

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 ……俺はクライマックスを半分書いた辺りで、二ヶ月では長編を完成させられないことを理解した。
 
 どうにもこうにもタイプライターが使いづら過ぎるんだよ!!
 
 しかし、俺が苦戦しているあいだも、ワイアットから色んな情報を集めて貰っていた。
 
 馬車の横転を仕組んだ者について。
 エルシーを狙っている者について。だ。
 
 まず、当然ながらワイアットはシロだ。

 ワイアットがクロなら俺がいくらあらがったところで逃げることなどできやしない。

 トニーもシロ。
 
 御者兼護衛と言う仕事にプライドを持っているそうだから、トニーは確実にシロと言えるだろう。

 サーヤもシロ……なんだが。

 ワイアットの次に、長くこの屋敷で仕事をしているんた。十年以上もエルシーをそばで世話している人間がクロだとは到底思えない。
 
 ――が最近、仕事でのミスが多いらしい。休憩時間に外へ出掛けることも増えたそうだ。

 シロのはずだがシロよりのグレーに思えてしまう。

 次は転生してから一度しか会ってない厨房の人達三人もシロ。

ワイアットと曰く、

わたくしみずからが、素性、生い立ち、性格、信条、主義主張、その他諸々を調べ上げたうえで面接したのですぞ。故に全員シロだと言えます」

 そこまで徹底して調べているのなら、間違いないとは思う。 

 ダリルはシロに近いグレー。

 エルシーのマーチャント商会で何やら独自に色々とやってるようだが、貴族を相手にしており、ダリル自身も貴族なので、噂程度うわさていどの情報しか集められなかったそうだ。
 
 ワイアットも心情的にはシロだと思っているようだが。
 何か怪しい気もするとも言っていた。

 しかし、ダリルは護身術の訓練に付き合ってくれたりしてるしなあ。

 近しい人間を疑うのはつらいものだよ。
 
 キャラハン女史はシロに近いグレー。
 
 名ばかりとは言え、彼女も貴族だから情報が集められなかったからシロに近いグレーだそうな。

 キャラハン女史もワイアットが面接しているから間違いはないと思うが……。
 
 厨房のメンバーほど詳しくは調べられなかったそうだ。
 
 しかし、キャラハン女史は漫画ではマライアを導く先輩小説家の【サンドラ・G・ローリー】だ。

 現在も既にプロの小説家だし、情報が集められないとは言え、俺はシロだと思っている。 

 キャラハン女史が【サンドラ・G・ローリー】だってことはワイアットでさえ掴めていない情報だ。

 ……マライアはシロだとしか思えないが、ワイアットは魔法が使えると言う部分が引っ掛かっているそうだ。
 
 調査した結果はシロで間違いないそうだが。
 
 だから今のところは限り無くシロに近いグレーってことになっている。

 しかし前回、俺達が襲撃される切っ掛けを作ってしまったのは、無自覚とは言え、マライアだったんだよなあ。

 半年ぶりに俺ことエルシーと出掛けられるのが嬉し過ぎて、自宅まで帰る途中に、専門学校の友人達に出会い。

「半年ぶりに親友と出掛けるのよ。だから明日は自主休校しちゃうわね。新しくできたケーキ屋さんにも案内してあげたいの」

 等など、色々と話込んでしまったようだ。
 
 それを通りすがりの誰か……と言うかマーチャント商会の商売敵しょうばいがたきに繋がる者が聞いてたようなんだ。

 あの馬車の襲撃のあと、両親とワイアットと独立騎士団が全力で調べた結果。

 やはり、マーチャント商会をライバル視して、恨んでいる武器商人の一団がやとったチンピラが、俺達を襲ったのだそうだ。

 ……おかしいと思ったんだよなあ。
 
 神殿へ出掛けることは前日に、しかも突然決まったことなのに、マーチャント商会の商売敵が雇ったチンピラが、ケーキ屋の近くで俺達を待ち構えていたなんて。

 マライアは自分のミスを知った時、しばらく落ち込みまくっていた。

 俺が気にしていないと言っても、自分を責めまくっていたものなあ。

 ともあれ、馬車の襲撃事件の真相は分かったけれど。

 馬車の転倒は誰が仕組んだのか分からないままだ。

 ロウフェルしんは、

『――未来は、お前の行動で既に変りつつある――』

 とは言っていたけど、俺がエルシーに転生する切っ掛けになった、馬車を横転させた犯人が分からないんじゃ、困るぞ!

 もう少し加護かお告げをくれよ! ロウフェルしん

 とか心の中で叫んだところで意味は無く……。

 取り敢えず未来が変わりつつあるんなら生き延びる目もあるってことだ……。

 ……前向きにとらえるしかないな。

 そうして俺は目の前のタイプライターに再び手を伸ばした。

 ※※※※※それから一ヶ月後※※※※※

「……ぃやったあぁぁっ!! 長編完結ぅっ!!」

 俺は思わず嬉しさの余り、夜なのに思い切り叫んでしまった。

 エルシーに転生してから半年以上だぞ! 半年以上!! 

 半年以上かけて長編一本仕上げるなんて始めてだ。

 転生前の俺だと、本業の合間に書いてた長編は大体四か月で仕上げられていた。

 エルシーに与えられているタイプライターがここまで使いづらくなければ、もっと早く完成したんだろうが。

 もしくはペンで書いていれば……次からはペンにしよう。うん。

 そして長編が完成した翌日。
 いつもの訓練が終ると、ダリルが言った。

「エルシー、再来週にはサロンへ連れて行ってあげるよ」

「ほ、本当に!?」

「ああ、半年前の外出時に襲撃されてから、エルシーはそれまでとは比べものにならないくらいのスピードで強くなって行ってたんだ」

 ……神殿からの帰りの俺達への襲撃か、あの時は初めて人の気配ってのが読めて、驚いたよ。
 
 なんと言うか、ピンチな状況で何かをつかんだ感じがしたんだよな。

「やっぱり実戦を体験するのは大事なことなんだ。って、エルシーを見て改めて思ったよ」

 ダリルは自分のことのように嬉しそうに笑った。

「ありがとう。ダリル」

 俺も嬉しかったので、笑顔でお礼を言った。

「サロンへ行く時も十分に気をつけよう」

 ダリルの言葉に、俺もしっかりとうなずいた。

 すると、

「ねぇねぇねぇ? 私は連れて行って貰えないの?」

 庭木にもたれて、俺とダリルの会話を聞いていたマライアが話に入って来た。

「もちろんマライアも一緒に行こう」

「ええ、行きましょう」

 俺とダリルが、マライアに笑顔で答えると、マライアは、

「やったー! サロンの話は知ってたけど、誰かの紹介がないと入れないのよね。ありがとう! エルシー! ダリル!」 
  
 と言って、俺達二人に抱きついて来た。

「再来週のいつ行くの? 誰にも言わないから教えて!」

 とマライアはダリルに問い掛ける。

「まだはっきりとは決まってないんだ。詳しいことが分かったら教えてあげるから……えと、マライア、少し落ち着こうよ?」

 ダリルが嬉しそうな困ったような複雑な表情をしている。

 俺もにだけど、マライアのボリュームのあるおっぱいが、体に押し付けられているからだろう。

 俺はもう、エルシーだからあんまりマライアのおっぱいに対して、特に何も思わなくなった。

 でもダリルは複雑な気持ちだろうなぁ……元、男としてその気持ちは理解できるよ。うん。

 そんなワケで再来週はいよいよサロンへ出発だ!

 楽しみ過ぎるー!!

(続く
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