13 / 28
第十三話 サロンを目指して訓練開始!
しおりを挟む
そして、エルシーに転生してから四ヶ月後……。
「ええと……今の感じで良いのかしら?」
俺は背後から羽交い締めにされた時の抜け出し方を習得した。
「そうそう。逆に力を抜いてしゃがっ――っと!!」
体の力を抜けば、羽交い締めにした相手がとっさに支えようとする。
相手の力を逆に利用して、そのまま勢い良くしゃがむ――と言うか、亀のように身を伏せながら体を斜めに傾ける。
するとダリルが地面に転がり、腕から逃れられたのでダッシュで走って逃げる!
正面の場合はそもそも抱きつかれないようにいなさなきゃならない。
兎に角、正面から抱きつかれた場合。じゃなく、そもそも抱きつかれないようにするのが一番だ。
これがちょっと難しい。しかし、本来のエルシーならともかく、俺は元男だ。
男の急所を潰す勢いで握れば一発だ。
それは男だった俺が、実際に経験した痛みだから間違いない!
いや、痴漢とかはしてないぞ!
俺は潔白だ!
学生時代に酒の勢いで女の子に、ぎゅうぅっと握られたんだ。
手加減したと言ってたが『アレ』は痛い!! まともに呼吸が出来なくなる!! 動けなくなる!! 踞るしかなくなる! 言葉にもできない痛みに襲われる!!
冗談でやった。とか言ってたが『アレ』は冗談にはならないぞ……。
で、正面から抱き付かれないようにする為には……ワイアットがくれた杖を使うことになった。
「ごめんなさいね。ダリル。大丈夫だった?」
「受け身を取ったから平気だよ」
今日はマライアが専門学校へ行っていて、ダリルと二人切りだ。
でも、俺が生真面目にトレーニングをするからダリルもふざけたりせずに、トレーニングだけでなく護身術を教えてくれている。
ワイアットからの情報だと……アシュトン家は貴族だから噂程度だが、ダリルはクロではないらしい。
らしいとしか言えないのは残念だが。
グレーかぁ……疑いたくはないんだがな……。
それに今は庭に二人切り、俺をどうこうしようと思ったらいつでもできる状況なんだよな。
「あ、そうだ。エルシー」
ダリルは置き上がりながら俺に言った。
「護身用の杖を振るうには、もっと体を鍛えなきゃダメだから、毎日少しずつ腕立て伏せもやって行こう」
右手の甲のヒビは完全に治っているが、腕立て伏せかぁ……。
長編は半分くらい進められたけど、腕立て伏せとなると、また遅れるんじゃないのかなあ……長編の執筆が……。
エルシーのアイデアノートと共に、幾つかの短編と、書き掛けの長編もあったけど。
長編を書くのはエルシーも苦労したんだろうな……。最初のほう以外は、殆どがペンで書かれていた。
タイプライターってやっぱり打つのに、力いるんだよなあ。
折角半分書けたのに、また遅れるのかぁ……あーあ……。
「エルシーに腕立て伏せは、まだ早いかも知れないけど、執事さんから渡された護身用の杖を使いこなすには、必用なことだと思う」
うん。それは俺も分かってる。
けどな……。
「杖での護身術もちゃんと教えるから。それに……エルシーは本が好きだよね?」
俺は思わずダリルの顔を見つめる。
まさか、ダリルはエルシーが小説を書いてること……!
あ、いや、エルシーの部屋には本が沢山ある。
だから単に本好きと思われているはず。
「……ええ。好きよ」
答えるまでに間が出来てしまった。
「じゃあ、ちゃんと護身術を習得したら、サロンへ連れて行ってあげるから。エルシーの好きな小説家の先生と会えるかも知れないよ?」
サロン!? サロンって上級の貴族とかが開いていて、色んな職種の人が集まって、小説家も含む芸術分野の人も大勢集まるあのサロンか!?
「本当に!? 本当に連れて行ってくれるの!?」
サロンは成人した大人同伴じゃないと子供一人じゃ入れないんだよな。
しかも一応、伝手がないと入れないところだとエルシーの記憶にもある。
「本当にだよ。もちろん護身術がある程度形になって来たらだけどね」
「嬉しいわ! ダリル! ありがとうっ!」
俺は感極まってダリルに抱き付いてしまう。
「おっ、とと……嬉しいけど飛び付かれるとは思わなかったな」
少しバランスを崩しかけたが、ダリルはちゃんと俺を受け止めてくれた。
ダリルには色々教わっているし、わりと密着していることも多いからな。
羽交い締めにされた時の抜け出し方とか。さっきみたいなことはしょっちゅうだしな。
だからかな? 自分からダリルに抱き付いたりするのは抵抗が無くなって来たんだよなあ。
今も思わず抱きついてるしなあ。
「喜んで貰えて良かったよ。これで頑張れるよね?」
「もちろんよ! 頑張るわね!」
俺はダリルから離れて、
「次は何をすれば良いのかしら?」
と聞いた。
「次は……」
と言いながら、ダリルは地面に伏せて、腕立て伏せを始めた。
そのまま、
「エルシーは地面に膝をつけて良いから、最初は……そうだなぁ腕立て伏せを三回やってみようか」
う~む。自信無いなあ。
前の俺なら膝を付いた腕立て伏せなら、三回くらいは余裕だと思うんだけど……。
ダリルは隣で軽々と……もう、十回以上はやってるんじゃないかな? 腕立て伏せ。
――ええい! 三回くらいなら出来ないことはないと思う! 多分……。
で、やってみたんだが……。
「い、い~ち」
な、なんか「クキッ」て音が腕から聞こえた。
「に~い」
うぐ……既に辛い。
「さ…~ん」
け、肩甲骨も「クキッ」って音が……しかも、二の腕が……プルプル震えそうな感じに……っ!
――ガクッ
苦もなく腕立て伏せを続けるダリルの隣で、俺は情なくも地面に突っ伏した。
あ、土じゃなくてちゃんと芝生の上だぞ。
「う~ん。辛そうだけど、無理じゃなさそうだね。毎日三回ずつやって行こう」
……本気か? とダリルのほうへ顔と視線を向けると、笑顔で返されてしまった。
本気なんだな……いや、理にかなっていると思うし、ダリルも善意で言ってるのが分かるし……やるしかないか……けど、今日はもう無理だ……。
俺は再び、ガクッと全身の力を抜いて芝生の上に突っ伏してしまった。
(続く
「ええと……今の感じで良いのかしら?」
俺は背後から羽交い締めにされた時の抜け出し方を習得した。
「そうそう。逆に力を抜いてしゃがっ――っと!!」
体の力を抜けば、羽交い締めにした相手がとっさに支えようとする。
相手の力を逆に利用して、そのまま勢い良くしゃがむ――と言うか、亀のように身を伏せながら体を斜めに傾ける。
するとダリルが地面に転がり、腕から逃れられたのでダッシュで走って逃げる!
正面の場合はそもそも抱きつかれないようにいなさなきゃならない。
兎に角、正面から抱きつかれた場合。じゃなく、そもそも抱きつかれないようにするのが一番だ。
これがちょっと難しい。しかし、本来のエルシーならともかく、俺は元男だ。
男の急所を潰す勢いで握れば一発だ。
それは男だった俺が、実際に経験した痛みだから間違いない!
いや、痴漢とかはしてないぞ!
俺は潔白だ!
学生時代に酒の勢いで女の子に、ぎゅうぅっと握られたんだ。
手加減したと言ってたが『アレ』は痛い!! まともに呼吸が出来なくなる!! 動けなくなる!! 踞るしかなくなる! 言葉にもできない痛みに襲われる!!
冗談でやった。とか言ってたが『アレ』は冗談にはならないぞ……。
で、正面から抱き付かれないようにする為には……ワイアットがくれた杖を使うことになった。
「ごめんなさいね。ダリル。大丈夫だった?」
「受け身を取ったから平気だよ」
今日はマライアが専門学校へ行っていて、ダリルと二人切りだ。
でも、俺が生真面目にトレーニングをするからダリルもふざけたりせずに、トレーニングだけでなく護身術を教えてくれている。
ワイアットからの情報だと……アシュトン家は貴族だから噂程度だが、ダリルはクロではないらしい。
らしいとしか言えないのは残念だが。
グレーかぁ……疑いたくはないんだがな……。
それに今は庭に二人切り、俺をどうこうしようと思ったらいつでもできる状況なんだよな。
「あ、そうだ。エルシー」
ダリルは置き上がりながら俺に言った。
「護身用の杖を振るうには、もっと体を鍛えなきゃダメだから、毎日少しずつ腕立て伏せもやって行こう」
右手の甲のヒビは完全に治っているが、腕立て伏せかぁ……。
長編は半分くらい進められたけど、腕立て伏せとなると、また遅れるんじゃないのかなあ……長編の執筆が……。
エルシーのアイデアノートと共に、幾つかの短編と、書き掛けの長編もあったけど。
長編を書くのはエルシーも苦労したんだろうな……。最初のほう以外は、殆どがペンで書かれていた。
タイプライターってやっぱり打つのに、力いるんだよなあ。
折角半分書けたのに、また遅れるのかぁ……あーあ……。
「エルシーに腕立て伏せは、まだ早いかも知れないけど、執事さんから渡された護身用の杖を使いこなすには、必用なことだと思う」
うん。それは俺も分かってる。
けどな……。
「杖での護身術もちゃんと教えるから。それに……エルシーは本が好きだよね?」
俺は思わずダリルの顔を見つめる。
まさか、ダリルはエルシーが小説を書いてること……!
あ、いや、エルシーの部屋には本が沢山ある。
だから単に本好きと思われているはず。
「……ええ。好きよ」
答えるまでに間が出来てしまった。
「じゃあ、ちゃんと護身術を習得したら、サロンへ連れて行ってあげるから。エルシーの好きな小説家の先生と会えるかも知れないよ?」
サロン!? サロンって上級の貴族とかが開いていて、色んな職種の人が集まって、小説家も含む芸術分野の人も大勢集まるあのサロンか!?
「本当に!? 本当に連れて行ってくれるの!?」
サロンは成人した大人同伴じゃないと子供一人じゃ入れないんだよな。
しかも一応、伝手がないと入れないところだとエルシーの記憶にもある。
「本当にだよ。もちろん護身術がある程度形になって来たらだけどね」
「嬉しいわ! ダリル! ありがとうっ!」
俺は感極まってダリルに抱き付いてしまう。
「おっ、とと……嬉しいけど飛び付かれるとは思わなかったな」
少しバランスを崩しかけたが、ダリルはちゃんと俺を受け止めてくれた。
ダリルには色々教わっているし、わりと密着していることも多いからな。
羽交い締めにされた時の抜け出し方とか。さっきみたいなことはしょっちゅうだしな。
だからかな? 自分からダリルに抱き付いたりするのは抵抗が無くなって来たんだよなあ。
今も思わず抱きついてるしなあ。
「喜んで貰えて良かったよ。これで頑張れるよね?」
「もちろんよ! 頑張るわね!」
俺はダリルから離れて、
「次は何をすれば良いのかしら?」
と聞いた。
「次は……」
と言いながら、ダリルは地面に伏せて、腕立て伏せを始めた。
そのまま、
「エルシーは地面に膝をつけて良いから、最初は……そうだなぁ腕立て伏せを三回やってみようか」
う~む。自信無いなあ。
前の俺なら膝を付いた腕立て伏せなら、三回くらいは余裕だと思うんだけど……。
ダリルは隣で軽々と……もう、十回以上はやってるんじゃないかな? 腕立て伏せ。
――ええい! 三回くらいなら出来ないことはないと思う! 多分……。
で、やってみたんだが……。
「い、い~ち」
な、なんか「クキッ」て音が腕から聞こえた。
「に~い」
うぐ……既に辛い。
「さ…~ん」
け、肩甲骨も「クキッ」って音が……しかも、二の腕が……プルプル震えそうな感じに……っ!
――ガクッ
苦もなく腕立て伏せを続けるダリルの隣で、俺は情なくも地面に突っ伏した。
あ、土じゃなくてちゃんと芝生の上だぞ。
「う~ん。辛そうだけど、無理じゃなさそうだね。毎日三回ずつやって行こう」
……本気か? とダリルのほうへ顔と視線を向けると、笑顔で返されてしまった。
本気なんだな……いや、理にかなっていると思うし、ダリルも善意で言ってるのが分かるし……やるしかないか……けど、今日はもう無理だ……。
俺は再び、ガクッと全身の力を抜いて芝生の上に突っ伏してしまった。
(続く
2
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
バスト105cm巨乳チアガール”妙子” 地獄の学園生活
アダルト小説家 迎夕紀
青春
バスト105cmの美少女、妙子はチアリーディング部に所属する女の子。
彼女の通う聖マリエンヌ女学院では女の子達に売春を強要することで多額の利益を得ていた。
ダイエットのために部活でシゴかれ、いやらしい衣装を着てコンパニオンをさせられ、そしてボロボロの身体に鞭打って下半身接待もさせられる妙子の地獄の学園生活。
---
主人公の女の子
名前:妙子
職業:女子学生
身長:163cm
体重:56kg
パスト:105cm
ウェスト:60cm
ヒップ:95cm
---
----
*こちらは表現を抑えた少ない話数の一般公開版です。大幅に加筆し、より過激な表現を含む全編32話(プロローグ1話、本編31話)を読みたい方は以下のURLをご参照下さい。
https://note.com/adult_mukaiyuki/m/m05341b80803d
---
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
ヴァーチャル美少女キャラにTSおっさん 世紀末なゲーム世界をタクティカルに攻略(&実況)して乗り切ります!
EPIC
SF
――Vtub〇r?ボイス〇イド?……的な美少女になってしまったTSおっさん Fall〇utな世紀末世界観のゲームに転移してしまったので、ゲームの登場人物に成りきってる系(というかなってる系)実況攻略でタクティカルに乗り切ります 特典は、最推し美少女キャラの相棒付き?――
音声合成ソフトキャラクターのゲーム実況動画が好きな、そろそろ三十路のおっさん――未知 星図。
彼はそれに影響され、自分でも音声合成ソフトで実況動画を作ろうとした。
しかし気づけば星図はそのゲームの世界に入り込み、そして最推しの音声合成ソフトキャラクターと一緒にいた。
さらにおまけに――彼自身も、何らかのヴァーチャル美少女キャラクターへとTSしていたのだ。
入り込んでしまったゲーム世界は、荒廃してしまった容赦の無い世紀末な世界観。
果たして二人の運命や如何に?
Vtuberとかボイスロイド実況動画に影響されて書き始めたお話です。
異世界転移した先で女の子と入れ替わった!?
灰色のネズミ
ファンタジー
現代に生きる少年は勇者として異世界に召喚されたが、誰も予想できなかった奇跡によって異世界の女の子と入れ替わってしまった。勇者として賛美される元少女……戻りたい少年は元の自分に近づくために、頑張る話。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
思春期ではすまない変化
こしょ
青春
TS女体化現代青春です。恋愛要素はありません。
自分の身体が一気に別人、モデルかというような美女になってしまった中学生男子が、どうやれば元のような中学男子的生活を送り自分を守ることができるのだろうかっていう話です。
落ちがあっさりすぎるとかお褒めの言葉とかあったら教えて下さい嬉しいのですっごく
初めて挑戦してみます。pixivやカクヨムなどにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる