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第三話 俺が美少女エルシーに!?(二)

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 えーと、アレ。アレだよ。漫画とか小説とかゲームの悪役令嬢に転生したみたいな感じか?

 しかし、俺がエルシーに転生したなら、エルシーは最初から俺だったってことにならないか?

 エルシーから俺に向けて、声だけとは言え接触があるのはおかしいんじゃないのか?

 どうなんだ? 
 
 俺は異世界転生悪役令嬢物ってあんまり好みじゃなくて、まともに読んでないからテンプレートのストーリーに詳しくないんだよなあ。

(七月岳士ななつきたけし。お前はこれから「エルシー・マーチャント」として生きて貰う)

(ごめんなさい! 私が逃げてしまったばかりに!)

(エルシーは人一倍信心が深く、物語を紡ぐ才能もある。しかし、彼女はこの先若くして死んでしまう運命にある。私はそれが惜しいのだ!)

(本当は生きければならないのに、乗っていた馬車が横転して全身に強い痛みを感じたと思ったら、何故か私は、私を見下ろしてしていて……)
 
 ロウフェルしんとエルシーらしき声が次々と頭の中に響く。        
 
 えーと……つまりエルシーの魂は体から離れてロウフェル神と共にいるのか……な?

(ええ……お医者様が治癒の術を使ったから私の体が回復して、魂が引っ張られて戻れそうになったけれど……グスッ)

 な、泣いてるのか? エルシー?

(子供の頃から何度も危険な目に逢って、これからも危険な目に逢うのは解ってるから……グスッ)
 
 やっぱり泣いてるのか……魂の状態でも泣けるんだな……。

(そう思うと辛くて体に戻りたくなくてげていたら、いつの間にか神様と一緒にいたの……自分の人生から逃げ出して、他人に任せるなんてやってはならないのに……)

 そうだな。寿命が残っているのに、逃げ出すのはくないよな……俺なんか確実に死んでしま――いや、待て! 

(な、なんでしょうか?)

 いや! エルシーじゃなくてロウフェル神に聞きたい!
 
 俺は本当に死んだのか!? まさか俺の魂をエルシーの体に入れて、体のほうはまだ生きてるなんてことは……!?

(無い! 全く持って無い! お前は完全に死んでいる! 自分でもただろうに、すっかり忘れているのだな……はぁ)  

 ロウフェル神は呆れたと言わんばかりに溜息をついた。

(エルシー以上の文才も物語の紡ぎ手たる才能もあるのに、下手なやり方ばかりしてチャンスを掴めなかったお前に、もう一度チャンスをやろうと思ったのだ)

 え、偉そうに! 大体! なんで俺が漫画の中のキャラクターに入らなければならないんだ!
 
 それに、ロウフェル神! お前もあの漫画の作者が想像で作り出した架空の神だろうに!

(ふっ、浅はかだな……)

 頭の中に聞こえるロウフェル神の声に嘲笑ちょうしょうの感情が含まれている。腹立つな……このヤロウ!

(私が守護している王国はお前が生きていた世界とは別の世界に存在する)

 ……それはどう言う意味だ?

(お前が読んでいる書物はお前の世界の小説家が、私やエルシーのいる世界を千里眼的な力で感じ取り、物語として書き記した作品だ)

 そうか……あの漫画原作付きだったな。 

 作者の名前は忘れてしまった……単行本には作画者の名前のほうが大きく印字されてたからなあ。

 それに、作者はあまり見ない名前だった記憶がある。 
 
 女性だったことは覚えてるんだが。
 
 えーと、森園って名字は思い出せるけど、森園……森園……ダメだ。下のは名前は思い出せない。

(作者の名前はどうでもい! お前は小説家になりたかったのだろう?) 

 ロウフェル神は頭が痛くなるほどの力のこもった口調で語り掛けて来る。

(私はこの世界の人間の運命に干渉する権限を与えられていない。だからお前に託すのだ! 私とエルシーの願いを!)

 とエルシーの願い? なんで神であるアンタが?
 
 ……ん? ロウフェル神のことをって呼んだのは初めてじゃない気がするが……なんでだ?

(お前も知っての通り、この先エルシーは若くして殺される運命にある。その遺志はマライア・ハースに受け継がれる)

 うん。マライアがエルシーの遺品の中に簡潔した短編小説や書きかけの長編小説と……。

 更にはアイデアノートや日記も見つけて、エルシーの代わりに自分が小説家になることを決意するんだよな。

(マライアは自身の夢と願いを諦めて、エルシーの遺志を継ぐのだ。エルシーが死ななければ、マライア自身の夢も叶うはずなのに……だ)

 マライアはマライアで小説書く意外にやりたいことがあったのか……。

(つまり、エルシーが死ぬと、エルシーとマライア。二人の少女の願いがついえてしまう。私は……それを非常に惜しく悲しいと思った)

 マライアも優れた才能を持っているのか……そうなのか。だったら俺も惜しいと思う。

 ロウフェル神の気持ちは解らんでもないな。

(お前もむごいことだと思うだろう?)

 そりゃ思うけど、なんでおっさんの俺が美少女のエルシーとして生きなきゃならないんだ?

 ロウフェル神。納得できる理由を教えてくれ。

(お前は私利私欲だけではなく、他人の為にも力をそそぐことができる性格だ。それにお前は後世に名を残す文豪になりたいのだろう?)

 後世に名を残す文豪に……なりたいと思っていた時期もあったよ。けれど、その願いは十五年以上かけて粉々に砕かれたんだ……。

(だからこそだ。お前にとってもこれはチャンスではないか? エルシーの『若くして死ぬ運命』を変えて、プロの小説家になりたいとは思わないか?)

 チャンスではあるけどな……。
 
 エルシーは本気で自分の体に戻る意思はないのか?
 俺みたいな中年のおっさんに自分の人生譲り渡すことに抵抗はないのか?

(わ、私は私が若くして死ぬ運命なのは知っていますが、いつ死んでしまうのかは分かりません。でもあなたは知っています。その知識を活かして私の人生を生きて下さい)

 ペコリ。とエルシーがお辞儀をした気配を感じた。勘違いかもしれないが、そう感じたんだ。

(お願いします。どうか……私が残したアイデアを素晴らしい小説にして多くの人々を楽しませて下さい)

 再び、ペコリとお辞儀をした気配を感じる。

(ごめんなさい……意気地の無い私をあざ笑っても構いません。お願いします)

 あ~……こりゃ絶対、頭下げまくってるな。

 エルシーい子だしなぁ。おっさんはほだされそうだよ……。

(わ、私の体は好きにしても……~~っっ! い、いえ! なんでもありません!)

 そんな覚悟までしてるのか……。
 
 あ~も~……! おっさんは絆されたよ! 俺の負けだ!  

 エルシーの願いは『プロの小説家になって自分の作品で多くの人々を楽しませたい』だったな! 

 俺のだってやり直しの機会があるのは嬉しいよ! だから俺自身のアイデアも混ぜさせて貰うが、それでもいなら引き受ける!

(あ、あぁ……ありがとうございます! 私の我儘わがままを聞いて下さって! 本当にありがとうございますっ!)

 俺は、エルシーが顔を下げてお辞儀をしながらも微笑んでいる気がした……。

(続く
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