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第二話 俺が美少女エルシーに!?(一)
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ここは……どこだ?
俺――七月岳士は病院からの帰り道で、信号無視の車に跳ねられた。
ありゃ痛いなんてもんじゃなかったなあ……。
薄れゆく意識の中で俺は思った。『ヤバい……俺、死んだな……』と。
――で、俺の意識はそこで途切れたワケだが。
ここはどう見ても、いわゆるあの世とかじゃない。
目に映る天井には小振りのシャンデリアがある。
それに……俺の回りに何人かの人の気配もある。
背中に感じる感触からして、ベッドの上みたいだが病院のベッドの上じゃない。
病院でもない。あの世でもない。
となると、ここは本当にどこなんだ?
「エルシー……漸く意識が戻ったのね」
ベッドに横たわる俺を覗き込みながら独り言のように呟いたのは、白衣を着た美女だった。
両目の下にクマができていて、少し青白い顔色をしてる。
――って、俺はエルシーじゃないぞ!
俺は七月岳士。今年で三十八歳になった小説家志望のおっさんだ!
自分のことをまだ若いと思いたいが、そうも言ってられない年齢だ。
二十二歳の夏に小説家を目指すと決めて、はや十五年。いや、十六年目に入ろうとしている。
WEB小説投稿サイトのコンテストは一次選考止まり。
公募に送っても二次選考止まりがずっと続いている。
本業をこなしつつ、空いた時間は小説を書いたり資料を読んだり、取材であちこち歩き回ってたり。
……でも、俺は何も成し遂げられずに死んでしまった。ってか短い人生だったな。残念過ぎるよなあ……はぁ~。
――じゃなくて! ため息なんかついてる場合じゃない!
考えなきゃならないのは今現在の俺の状態だ!
エルシーってあのエルシーだよな?
俺の愛読書で少女漫画『マライア・ハース~やがて売れっ子小説家になる女性の物語~』の「エルシー・マーチャント」だよな?
おっさんが少女漫画を読むのはおかしいとかキモいとか言われるけどな。
俺は電車の中だろうが病院の待ち合い室だろうが、堂々と読んでたぞ。
あの少女漫画は確か、ヨーロッパ……いや、十九世紀のイギリスをモデルに描かれた架空の世界と架空の王国が舞台だ。
若くして命を落とした親友の遺志を継いだ「マライア・ハース」と言う美女が、売れっ子小説家になって行く内容なんだよな。
ある意味サクセスストーリーとも言える。
――あれ? 俺の視界から急に白衣の美女が消えたぞ。
「ネイサン医師! しっかりして下さい! 昨夜からずっとエルシーお嬢様に治癒の術を使って下さって、お疲れでしょう? どうか来客用のソファで休んで下さいな」
この声はサーヤだ。サーヤはエルシー専属のメイドで家族同然の二十九歳の女性だ。
……ん? 何故俺は、今の声がサーヤのものだと分かったんだ?
サーヤも俺が愛読してる少女漫画のキャラクターだ。
「サーヤ、ありがとう。そうさせて貰うわ。取り敢えずエルシーの意識が戻ったから、一安心なのは確かなはずよ」
ギシリと何かが軋む音がした。白衣の美女がソファで横になったらしい。
俺は目を動かしてサーヤの声がしたほうを見る。
……間違いなくサーヤだ。
サーヤは短い黒髪に黒い瞳で、青いメイド服の上に白いエプロンを着けてる。
サーヤは美女とまでは行かないが、可愛い系なんだよな。
今は二十九歳で十八歳の時に、エルシー専属のメイドにな――いや、待て!
なんだこの記憶は!?
サーヤは漫画の序盤にちょっとだけ出てくるキャラクターだぞ!?
過去設定とか単行本のあとがきにも書いてなかったぞ。
それに……ここは俺が愛読してた少女漫画の世界なのか? にしては時系列がおかしいぞ。
あの漫画は少女漫画にも関わらず、エルシー・マーチャントが殺されるショッキングな場面から始まる。
現在の場面はマライア・ハースの回想にすら無いぞ。どう言うことだ?
事故に遭って記憶が混乱――あ、もしかしてこれ全部夢か?
だが、夢にしちゃ妙に現実感があるような……?
(……ザザッ……ザッ……えるか?)
いきなりラジオのような音と声が頭の中に響いた。
(聞こえるか? 七月岳士。私は神だ)
か、神!? 神って漫画の中に出て来る。ロウフェル神か?
(そして、私はエルシー・マーチャントです)![](https://cdn-image.alphapolis.co.jp/story_image/no_image.png)
エルシー!? じゃあ、俺はやっぱり漫画の中に転生? したのか!?
(続く
俺――七月岳士は病院からの帰り道で、信号無視の車に跳ねられた。
ありゃ痛いなんてもんじゃなかったなあ……。
薄れゆく意識の中で俺は思った。『ヤバい……俺、死んだな……』と。
――で、俺の意識はそこで途切れたワケだが。
ここはどう見ても、いわゆるあの世とかじゃない。
目に映る天井には小振りのシャンデリアがある。
それに……俺の回りに何人かの人の気配もある。
背中に感じる感触からして、ベッドの上みたいだが病院のベッドの上じゃない。
病院でもない。あの世でもない。
となると、ここは本当にどこなんだ?
「エルシー……漸く意識が戻ったのね」
ベッドに横たわる俺を覗き込みながら独り言のように呟いたのは、白衣を着た美女だった。
両目の下にクマができていて、少し青白い顔色をしてる。
――って、俺はエルシーじゃないぞ!
俺は七月岳士。今年で三十八歳になった小説家志望のおっさんだ!
自分のことをまだ若いと思いたいが、そうも言ってられない年齢だ。
二十二歳の夏に小説家を目指すと決めて、はや十五年。いや、十六年目に入ろうとしている。
WEB小説投稿サイトのコンテストは一次選考止まり。
公募に送っても二次選考止まりがずっと続いている。
本業をこなしつつ、空いた時間は小説を書いたり資料を読んだり、取材であちこち歩き回ってたり。
……でも、俺は何も成し遂げられずに死んでしまった。ってか短い人生だったな。残念過ぎるよなあ……はぁ~。
――じゃなくて! ため息なんかついてる場合じゃない!
考えなきゃならないのは今現在の俺の状態だ!
エルシーってあのエルシーだよな?
俺の愛読書で少女漫画『マライア・ハース~やがて売れっ子小説家になる女性の物語~』の「エルシー・マーチャント」だよな?
おっさんが少女漫画を読むのはおかしいとかキモいとか言われるけどな。
俺は電車の中だろうが病院の待ち合い室だろうが、堂々と読んでたぞ。
あの少女漫画は確か、ヨーロッパ……いや、十九世紀のイギリスをモデルに描かれた架空の世界と架空の王国が舞台だ。
若くして命を落とした親友の遺志を継いだ「マライア・ハース」と言う美女が、売れっ子小説家になって行く内容なんだよな。
ある意味サクセスストーリーとも言える。
――あれ? 俺の視界から急に白衣の美女が消えたぞ。
「ネイサン医師! しっかりして下さい! 昨夜からずっとエルシーお嬢様に治癒の術を使って下さって、お疲れでしょう? どうか来客用のソファで休んで下さいな」
この声はサーヤだ。サーヤはエルシー専属のメイドで家族同然の二十九歳の女性だ。
……ん? 何故俺は、今の声がサーヤのものだと分かったんだ?
サーヤも俺が愛読してる少女漫画のキャラクターだ。
「サーヤ、ありがとう。そうさせて貰うわ。取り敢えずエルシーの意識が戻ったから、一安心なのは確かなはずよ」
ギシリと何かが軋む音がした。白衣の美女がソファで横になったらしい。
俺は目を動かしてサーヤの声がしたほうを見る。
……間違いなくサーヤだ。
サーヤは短い黒髪に黒い瞳で、青いメイド服の上に白いエプロンを着けてる。
サーヤは美女とまでは行かないが、可愛い系なんだよな。
今は二十九歳で十八歳の時に、エルシー専属のメイドにな――いや、待て!
なんだこの記憶は!?
サーヤは漫画の序盤にちょっとだけ出てくるキャラクターだぞ!?
過去設定とか単行本のあとがきにも書いてなかったぞ。
それに……ここは俺が愛読してた少女漫画の世界なのか? にしては時系列がおかしいぞ。
あの漫画は少女漫画にも関わらず、エルシー・マーチャントが殺されるショッキングな場面から始まる。
現在の場面はマライア・ハースの回想にすら無いぞ。どう言うことだ?
事故に遭って記憶が混乱――あ、もしかしてこれ全部夢か?
だが、夢にしちゃ妙に現実感があるような……?
(……ザザッ……ザッ……えるか?)
いきなりラジオのような音と声が頭の中に響いた。
(聞こえるか? 七月岳士。私は神だ)
か、神!? 神って漫画の中に出て来る。ロウフェル神か?
(そして、私はエルシー・マーチャントです)
![](https://cdn-image.alphapolis.co.jp/story_image/no_image.png)
エルシー!? じゃあ、俺はやっぱり漫画の中に転生? したのか!?
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