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1-Revival
Underground Strategy
しおりを挟む母国に殺される。
この気持ちが分かるだろうか。
ー AM2:40 第4シェルター管轄地域 ルタ
荒廃した空間。機械の残骸が至るところに廃棄され、ここに生物は存在しない。
現代においては見放された地域であるが、常に輝き続ける人工太陽が凹凸だらけの地上を照らしていた。
ここで、二人分の息が切れそうになっていた。
第4シェルターを出発して、走り続けておよそ1時間が経過しようとしていた。
地下の世界では太陽の動きによる朝と夜の区別が付かない。体感と数字が示す時間を頼りにするしかない。
地上の世界を知らない国民にとっては差が分からないが、地上に比べて空気の濃度も低い。
この数ヶ月の間で遂に国家は地下シェルターへの侵攻を始めていた。
国家との抗争に打ち勝つため、ウル・リズナエルは国家に徴兵された幼なじみのジョニー・アクセラと共に地下荒野ルタを走り続けていた。
目的は、この地に眠る伝説の戦士の力を借りることであった。
今の地下シェルターに住む国民、そしてウルにとってこれが生き延びるための最後の手段であった。
「ウル!やはり危険だ!たった今上官からの連絡があった。既に第3シェルターの制圧が完遂したらしい。お前と家族の安全は必ず守る。だから、これ以上進むな!」
鉄鋼並みの強度を誇りながらも、超軽量化された黒い武装を身にまとう青年は、ゴーグルを外してウルに警告をする。
彼の名はジョニー。彼は元々第4シェルター出身の青年であり、徴兵制度により国家に仕えることとなった。
しかし、あくまで第4シェルターの監視役として採用されただけであり、上級国民とは根本的に身分が異なる。
彼もまたウルと同じく地下での生活を強いられてきて育ってきたのだ。
ウルの強い意志によって同行させられて、二人はこの地域を訪れたのである。
ここは管轄地域とはいえ、国家から見放された場所である。旧式の自律型“テクノ”が跋扈しているのだ。
当然安全地帯ではなく、身体が危ぶまれる可能性は大いに有る。
ジョニーの言葉に応える。その言葉には確固たる決意があった。
「私たちは...戦わなければならないの。これ以上、国家の思うようにはさせないわ!」
ウルは肩まで伸びた茶褐色の髪をなびかせ、淡い桃色の衣服は汗を滲ませ、転倒したことで土色が移っていた。
地下荒野とはいえ、この地域は千年前、まだ国民が二つに分かれる前に繁栄していた。
現在は地下に埋められ、ゴーストタウンと化している。
そして、二人は千年前に竣工された“テクノ”の研究開発ラボに到着した。
ウル達が幼少期より言い伝えられた伝説と同じ光景がそこには広がっていた。
千年前、当時世界規模の大戦が行われていた。史実では第二次テクノ大戦と呼ばれ、大量の自律型“テクノ”が世界各国で開発されていた。
そして、このラボで一体のテクノが開発された。そのスペックは当時の汎用的なモデルを圧倒的に凌駕するものであった。
今となっては、テクノは軍事のみならず政治経済、そして生活においても必要不可欠なものである。
当時第二次テクノ大戦後、長らく各国は冷戦状態を貫いてきた。それにより数多くのテクノが処分され、追放されてきた時代もあった。
この地に眠る戦士もその内の一体なのだ。
ウル、ジョニーはラボのエントランスを抜けて、内部へと進入する。
内部には、開発資料、工作機械等がそのまま放置されており、その当時の光景を彷彿とさせる。
「…カイラスの理論。随分古い書物ね」
「この機械もほこりを被ってるぞ…本当にこんな物が残っていたんだな」
この施設の中は、時間が止まっていたようである。今となっては実際に見たことのない設備が多く並んでいた。
奥へと進むと、更に内部へと続くゲートがあり、横には開閉用のスイッチが設けられていた。
しかし、電源が落とされており機能していない。
「...メインブレーカーを探しましょう」
「お、おい!…ったく…」
ジョニーは彼女の勢いに押されて、渋々ながらも共にブレーカーを探索することにした。
ウルは昔から知る仲である。ジョニーがサーベランサーとなった今となっては立場が違うが、内心どこかで彼女を放っておけないのだ。
二人は手分けして内部を散策し始めた。
ー 薄暗い部屋に入ると、そこにはほこりを被ったままの機械設備がいくつか置かれていた。
部屋をくまなく探していると、施設内の電気を管理するメインブレーカーを発見する。
それに手を伸ばそうとした時である。四足歩行体のテクノが崩れるように大きな音を立てて倒れる。
「きゃっ!?」
思わず声を漏らして驚き、後ろを振り返ると長い年月を経て朽ち果てた電子基板が露出していた。
どんな事が起きるか分からない。不安な気持ちを必死に押し殺すまでに10秒ほど要した。
彼女は気を取り直して、メインブレーカーを操作することで、施設内は時間が動いたように、照明に明るさが戻っていく。
ー メインブレーカー ログイン。
機能を再開致します。
単調で無機質な音声が流れた後、ウルはジョニーと合流する。
先程のゲートの前に向かいスイッチを起動させると、閉ざされていた道が姿を現した。
「…行きましょう」
ー 通路を歩き続けると、そこには先程までとは打って変わり苔が生えたカプセルが立ち並んでいた。
その最深部に一台のカプセルが置かれていた。二人は恐る恐る内部に顔を近付ける。
そこには、赤みを帯びた長髪、鼻が高く端正な顔をした人間が眠っていた。まるで、生身の人間が休息しているように横たわっていた。
「…赤い髪のテクノ。間違いないわ。
彼が…伝説の戦士“ラヴァン”!!」
彼女は焦る気持ちが抑えきれなくなり、カプセルの横に設置されていたコンピュータを操作する。
ウルはシェルターにおいて、テクノに関するエンジニアとして従事している。そのためこの手の操作は難なくこなせるのである。
数分ほど操作すると、再び機械音声によってアナウンスされる。
ー テクノコードACG751-3019 ラヴァン
インストールを開始致します。
トラップシステムA 発動。
アナウンスが終了すると、天井部から巨大な人型型テクノが地が揺れるほどの衝撃と共に出現する。
そのテクノには強硬な鋼の武装が施されており、ボディが摺動音を立てると、二人に接近してくる。
ラヴァンを再起動させるために必要なプログラムをインストールすると同時に、仕掛けられていたトラップが発動されてしまったのである。
大型テクノは全長5mを超えるほどの巨体であり、指を折り曲げて鉄球のごとく大きな拳を振り下ろしてくる。
規格外のサイズの敵を目の前にしたウルは、腰を抜かしてしまう程恐怖を覚える。ジョニーは彼女の手を引いてその場から距離を置く。
「そこにいろ!ここは俺が何とかする!」
ジョニーも恐れを抱きながらも、ウルを守るために国家から支給された電磁銃を手に取る。
トリガーを引いてテクノへとレーザーを放つ。しかし、それはテクノのボディには通用しない。
少しばかりボディを押し退けるが、ほとんど効力が無いように伺える。二人は思わぬ刺客に生命の存続が危ぶまれていた。
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