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第3話(3)
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☆
「うわぁ~。賑わってる」
「ああ。そうだね」
夏休みも影響してアイスクリームの店が出てたり、カップル、親子連れと中々の盛況ぶり。さすがにここでフリスビーを飛ばすわけにもいかないので、奥にある芝生ゾーンへ移動して、僕たちの時間が始まった。
「修助君。どうぞ」
「僕から? オッケー」
レートからフリスビーを受け取り、ウォーミングアップに右肩を動かす。
ぐりぐりと回して……………うっし。準備完了だ。
「それじゃあ、レート。行くよっ」
「うん!」
レートは笑顔で頷き、僕の隣でしゃがみ、両手をぺたりと地面にくっつける。
…………。これは……。
「どうしたの? いつでもいいよ」
僅かに腰を上げて、低い前傾姿勢。なんだか、短距離走の選手がするクラウチングスタートみたいだ。
「あのー、レート? それは、どうしてるのかな?」
「え? 走る準備してるだけだよ?」
走る…………ああそっか。いつもの、犬の時の癖が抜けてないんだな。
「レート、違う違う。あそこの人たちみたいに、離れてするんだよ」
「え…………ぁっ、そうだよねっ。間違えちゃいました」
離れたところで同じことをしているカップルさんを見て、恥ずかしそうに距離をとる。
そうそう。それでいいのだ。
「じゃあ、今度こそ。行くよっ」
「うん!」
この形で遊ぶのは、初めてだからね。取りやすいようにゆっくりと投げる。
「ほっ!」
手から離れた円盤は、規則正しい回転でレートに向かっていく。
レートはそれに対して、取りやすいように体を低くして口をあーっと開き、キャッチの態勢に――って口!?
「危ない!! しゃがんで!!」
「ふぇっ? わわっ!?」
間一髪。フリスビーは、レートの頭上を擦れ擦れで通過した。
僕としたことがうっかりで、取る時の説明を忘れていた。
「レート。それを口で受けちゃったら大怪我するから、手で取るようにしてね」
「ご、ごめんなさい。また体が勝手に反応しちゃった」
ペコリと頭を下げてフリスビーを回収し、本当に今度こそバッチリ。フリスビーはあちらにあるのため、レートからの再スタートとなった。
「投げる時は力だけに頼らずに、こんな風に――。手首のスナップを効かせてやると、狙い通りにまっすぐ飛ぶよ」
「そ、そっか。えっと、えっ、えいっ!
「おっ。ナイスッ」
フリスビーはふわふわしながらも、まっすぐ僕のもとへ来た。レート、なかなか筋がいいじゃないか。
「次は、こっちから。はぁっ!」
「修助君お上手っ。ボクも、えいっ!」
「ほっ!」
「やあっ!」
そんな感じで僕らは投げ合い、それから五分くらい続けた頃かな。この動きに馴染んだところで、あの話をしてみる。
「ねえレート。そろそろ、何か浮かんだかな?」
「それが……。まだ、なんだよぅ……」
もちろん、投げ、受けながら、会話する。
「そっかぁ。まぁ、『犬の良い所』って難しく考えなくてもいいんじゃないの? レートが、自分の長所だと思う部分を言えばいいんだよ」
「……。ボクの長所、かぁ」
「そうそう。貴方の長所は何ですか?」
「………………。」
「あれ? きっと、すぐ出てくると思うけどな?」
「…………ううん。ボクなんかに、良い所なんてないよぅ」
「はぁ。レート」
投げようとしていた手を、止める。
「うわぁ~。賑わってる」
「ああ。そうだね」
夏休みも影響してアイスクリームの店が出てたり、カップル、親子連れと中々の盛況ぶり。さすがにここでフリスビーを飛ばすわけにもいかないので、奥にある芝生ゾーンへ移動して、僕たちの時間が始まった。
「修助君。どうぞ」
「僕から? オッケー」
レートからフリスビーを受け取り、ウォーミングアップに右肩を動かす。
ぐりぐりと回して……………うっし。準備完了だ。
「それじゃあ、レート。行くよっ」
「うん!」
レートは笑顔で頷き、僕の隣でしゃがみ、両手をぺたりと地面にくっつける。
…………。これは……。
「どうしたの? いつでもいいよ」
僅かに腰を上げて、低い前傾姿勢。なんだか、短距離走の選手がするクラウチングスタートみたいだ。
「あのー、レート? それは、どうしてるのかな?」
「え? 走る準備してるだけだよ?」
走る…………ああそっか。いつもの、犬の時の癖が抜けてないんだな。
「レート、違う違う。あそこの人たちみたいに、離れてするんだよ」
「え…………ぁっ、そうだよねっ。間違えちゃいました」
離れたところで同じことをしているカップルさんを見て、恥ずかしそうに距離をとる。
そうそう。それでいいのだ。
「じゃあ、今度こそ。行くよっ」
「うん!」
この形で遊ぶのは、初めてだからね。取りやすいようにゆっくりと投げる。
「ほっ!」
手から離れた円盤は、規則正しい回転でレートに向かっていく。
レートはそれに対して、取りやすいように体を低くして口をあーっと開き、キャッチの態勢に――って口!?
「危ない!! しゃがんで!!」
「ふぇっ? わわっ!?」
間一髪。フリスビーは、レートの頭上を擦れ擦れで通過した。
僕としたことがうっかりで、取る時の説明を忘れていた。
「レート。それを口で受けちゃったら大怪我するから、手で取るようにしてね」
「ご、ごめんなさい。また体が勝手に反応しちゃった」
ペコリと頭を下げてフリスビーを回収し、本当に今度こそバッチリ。フリスビーはあちらにあるのため、レートからの再スタートとなった。
「投げる時は力だけに頼らずに、こんな風に――。手首のスナップを効かせてやると、狙い通りにまっすぐ飛ぶよ」
「そ、そっか。えっと、えっ、えいっ!
「おっ。ナイスッ」
フリスビーはふわふわしながらも、まっすぐ僕のもとへ来た。レート、なかなか筋がいいじゃないか。
「次は、こっちから。はぁっ!」
「修助君お上手っ。ボクも、えいっ!」
「ほっ!」
「やあっ!」
そんな感じで僕らは投げ合い、それから五分くらい続けた頃かな。この動きに馴染んだところで、あの話をしてみる。
「ねえレート。そろそろ、何か浮かんだかな?」
「それが……。まだ、なんだよぅ……」
もちろん、投げ、受けながら、会話する。
「そっかぁ。まぁ、『犬の良い所』って難しく考えなくてもいいんじゃないの? レートが、自分の長所だと思う部分を言えばいいんだよ」
「……。ボクの長所、かぁ」
「そうそう。貴方の長所は何ですか?」
「………………。」
「あれ? きっと、すぐ出てくると思うけどな?」
「…………ううん。ボクなんかに、良い所なんてないよぅ」
「はぁ。レート」
投げようとしていた手を、止める。
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