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第1章・運命の番
第12話・名前が繋ぐ絆
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妖精の森での日々は、以前と変わらず穏やかに流れていた。
しかし—— セレスティアの中で、たった一つの変化があった。
「お兄さんって、どんな人なの?」
それは ふとした疑問だった。
今まで、サイファルトは 「怖いお兄さん」 だった。
最初に会った時の圧倒的な威圧感は、まだ記憶に新しい。
だが—— 最近、彼のことを「怖い」と思う機会は減ってきた。
「……お前が俺のことを知りたいのか?」
サイファルトが、ふと顔を上げる。
ちょうど食事をしている最中のことだった。
「うん」
セレスティアはパンをかじりながら、無邪気に頷く。
「だって、お兄さんって、いつも私を守ろうとするでしょ?」
「それって、なんで?」
「……」
サイファルトは しばし沈黙する。
(……どう説明すればいい?)
「……俺は竜人族の王族だった」
「だった?」
「王族としての立場を捨て、お前を選んだ」
「……?」
セレスティアはきょとんとした顔をする。
「それって……私のために?」
「そうだ」
「……どうして?」
セレスティアの純粋な問いに、サイファルトは少し言葉に詰まる。
(「番」だから……と答えても、今のお前には伝わらないだろう)
迷った末、彼は簡潔な言葉で答えた。
「……お前が、俺にとって一番大切な存在だからだ」
「……!」
セレスティアは驚いたように目を瞬かせる。
「お兄さんにとって……わたしが?」
「そうだ」
「ふーん……」
セレスティアは、 じっとサイファルトの顔を見つめた。
(……そんなふうに言われたの、初めてかも)
もちろん、家族からは大事にされている。
母も姉も「ティアは大切な子よ」と言ってくれる。
でも、サイファルトが言う「大切」は、それとは どこか違う気がした。
「……そっかぁ」
セレスティアは 照れたように笑う。
「それなら……怖いお兄さんじゃなくて、ちょっと頼りになるお兄さんかも?」
「……」
サイファルトは 苦笑する。
(……まだ「お兄さん」なのか)
しかし、この日を境にセレスティアの中でサイファルトの印象は変わった。
⸻———
サイファルトのことを 「怖い人じゃない」と思うようになったセレスティア。
しかし—— まだ彼のことを 「お兄さん」 と呼んでいた。
そんなある日——
「お兄さん、お兄さん!」
「……俺には名前がある」
サイファルトが、少し不満そうに言う。
「名前?」
「サイファルト・ドラギオン。それがお前の『お兄さん』の名だ」
「……長い」
セレスティアは即答。
サイファルトの目が 「なんだと?」 と言わんばかりに細まる。
「サイ……サイ……」
セレスティアは腕を組んで考え込む。
「ファル!」
「……?」
「ファルって呼ぶね!」
「……勝手に決めるな」
「だって長いんだもん!」
セレスティアはふわふわと飛びながらニコッと笑う。
「ファルの方が可愛いし、覚えやすい!」
「……」
サイファルトは深い溜息をついた。
「……勝手にしろ」
(しかし……悪くない)
セレスティアが初めて自分の名前を呼んだこと に、 どこか満たされる感覚 があった。
「じゃあ、ファルもわたしのことティアって呼んで!」
「……なんだと?」
「セレスティアって長いでしょ? わたしも短いのがいい!」
サイファルトは少し考えた。
(「ティア」……か)
悪くはない。
というより、むしろ気に入った。
「……わかった」
「やったぁ!」
こうして、2人は 「ファル」「ティア」と呼び合うようになったのだった——。
「ファル」「ティア」と呼び合うようになったことで、2人の距離は確実に縮まった。
セレスティアは 「ファル~!」 と楽しげに呼ぶようになり、
サイファルトも 「ティア」 と自然に呼ぶようになっていった。
(まるで、ずっと前からそう呼んでいたかのように)
しかし—— サイファルトの中で、新たな葛藤が芽生える。
(……俺は「ティア」に受け入れられたのか?)
呼び方こそ変わったが、セレスティアにとって自分はまだ「特別な存在」ではない。
(それでも、以前よりは距離が縮まった)
それを喜ぶべきか、それとも焦るべきか——。
サイファルトは曖昧な感情を抱えながら、ティアの無邪気な笑顔を見つめるのだった。
しかし—— セレスティアの中で、たった一つの変化があった。
「お兄さんって、どんな人なの?」
それは ふとした疑問だった。
今まで、サイファルトは 「怖いお兄さん」 だった。
最初に会った時の圧倒的な威圧感は、まだ記憶に新しい。
だが—— 最近、彼のことを「怖い」と思う機会は減ってきた。
「……お前が俺のことを知りたいのか?」
サイファルトが、ふと顔を上げる。
ちょうど食事をしている最中のことだった。
「うん」
セレスティアはパンをかじりながら、無邪気に頷く。
「だって、お兄さんって、いつも私を守ろうとするでしょ?」
「それって、なんで?」
「……」
サイファルトは しばし沈黙する。
(……どう説明すればいい?)
「……俺は竜人族の王族だった」
「だった?」
「王族としての立場を捨て、お前を選んだ」
「……?」
セレスティアはきょとんとした顔をする。
「それって……私のために?」
「そうだ」
「……どうして?」
セレスティアの純粋な問いに、サイファルトは少し言葉に詰まる。
(「番」だから……と答えても、今のお前には伝わらないだろう)
迷った末、彼は簡潔な言葉で答えた。
「……お前が、俺にとって一番大切な存在だからだ」
「……!」
セレスティアは驚いたように目を瞬かせる。
「お兄さんにとって……わたしが?」
「そうだ」
「ふーん……」
セレスティアは、 じっとサイファルトの顔を見つめた。
(……そんなふうに言われたの、初めてかも)
もちろん、家族からは大事にされている。
母も姉も「ティアは大切な子よ」と言ってくれる。
でも、サイファルトが言う「大切」は、それとは どこか違う気がした。
「……そっかぁ」
セレスティアは 照れたように笑う。
「それなら……怖いお兄さんじゃなくて、ちょっと頼りになるお兄さんかも?」
「……」
サイファルトは 苦笑する。
(……まだ「お兄さん」なのか)
しかし、この日を境にセレスティアの中でサイファルトの印象は変わった。
⸻———
サイファルトのことを 「怖い人じゃない」と思うようになったセレスティア。
しかし—— まだ彼のことを 「お兄さん」 と呼んでいた。
そんなある日——
「お兄さん、お兄さん!」
「……俺には名前がある」
サイファルトが、少し不満そうに言う。
「名前?」
「サイファルト・ドラギオン。それがお前の『お兄さん』の名だ」
「……長い」
セレスティアは即答。
サイファルトの目が 「なんだと?」 と言わんばかりに細まる。
「サイ……サイ……」
セレスティアは腕を組んで考え込む。
「ファル!」
「……?」
「ファルって呼ぶね!」
「……勝手に決めるな」
「だって長いんだもん!」
セレスティアはふわふわと飛びながらニコッと笑う。
「ファルの方が可愛いし、覚えやすい!」
「……」
サイファルトは深い溜息をついた。
「……勝手にしろ」
(しかし……悪くない)
セレスティアが初めて自分の名前を呼んだこと に、 どこか満たされる感覚 があった。
「じゃあ、ファルもわたしのことティアって呼んで!」
「……なんだと?」
「セレスティアって長いでしょ? わたしも短いのがいい!」
サイファルトは少し考えた。
(「ティア」……か)
悪くはない。
というより、むしろ気に入った。
「……わかった」
「やったぁ!」
こうして、2人は 「ファル」「ティア」と呼び合うようになったのだった——。
「ファル」「ティア」と呼び合うようになったことで、2人の距離は確実に縮まった。
セレスティアは 「ファル~!」 と楽しげに呼ぶようになり、
サイファルトも 「ティア」 と自然に呼ぶようになっていった。
(まるで、ずっと前からそう呼んでいたかのように)
しかし—— サイファルトの中で、新たな葛藤が芽生える。
(……俺は「ティア」に受け入れられたのか?)
呼び方こそ変わったが、セレスティアにとって自分はまだ「特別な存在」ではない。
(それでも、以前よりは距離が縮まった)
それを喜ぶべきか、それとも焦るべきか——。
サイファルトは曖昧な感情を抱えながら、ティアの無邪気な笑顔を見つめるのだった。
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