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第1章・運命の番
第2話・二度と泣かせない
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妖精の森の静寂を切り裂くように、サイファルトは迷いなくセレスティアの元へ向かった。
妖精たちの制止など意に介さず、まっすぐに彼女の小さな体へと手を伸ばす。
「セレスティア」
その名を呼びながら、彼は そっと自分の手のひらを差し出した。
セレスティアは一瞬きょとんとしたが、特に警戒することもなく、
ふわりと羽ばたいて 彼の手のひらの上にちょこんと座った。
サイファルトの呼吸が止まる。
手のひらに感じる、信じられないほどの軽さ。
だが、その存在感はどんな財宝よりも重く、
彼の中で、何かが決定的に変わるのを感じた。
「…………」
彼は無意識のうちに 手のひらの感触を確かめるように、そっと指を動かす。
それだけで、セレスティアの小さな体がぴくりと震えた。
「やわらかい……」
サイファルトの中で、本能的な何かがざわめく。
これが 自分の番 なのだと。
これが 自分のものになる存在 なのだと。
しかし——
「セレスティア」
背後から響いたのは 精霊王の呼び声。
「こっちへ来なさい」
ひょいっ。
サイファルトの手のひらから、セレスティアの小さな体が軽やかに飛び去った。
「……?」
彼は 一瞬、何が起こったのかわからなかった。
確かに、今、この手の中にいたはずなのに—— いない。
金色の髪を揺らしながら、
セレスティアは 何の迷いもなく、精霊王の腕の中へ飛び込んでいった。
「パパ!」
無邪気な声が響く。
その瞬間——
サイファルトの中に、 強烈な違和感が生まれた。
(なぜ……セレスティアが、他の男に触れられている……?)
それが 父親であろうと関係なかった。
彼にとって、 セレスティアは「番」であり、自分だけのもの」 だった。
だから—— 許せなかった。
サイファルトの 金色の瞳が鋭く光る。
周囲に漂う空気が、一瞬にして張り詰めた。
森の中の木々がざわめき、小さな妖精たちが怯えたように隠れる。
「サイファルト殿」
精霊王が慎重な声で語りかける。
「一度、落ち着いて話をしよう。セレスティアはまだ幼い。今すぐにどうこうという話では——」
「その前に、セレスティアを渡してほしい」
サイファルトの声は低く、静かだった。
しかし、その言葉には 一切の妥協がなかった。
精霊王の表情が険しくなる。
「…この子は我が娘だ」
「俺の番だ」
「だが、セレスティア本人が拒んでいる」
「それでも関係ない」
「……何?」
サイファルトは、一歩前へと踏み出した。
「セレスティアは俺の番だ。他の誰のものでもない」
「父親であろうと、例外ではない」
場の空気が、一気に変わる。
精霊王が警戒の色を見せるより早く——
サイファルトの周囲に、竜人特有の威圧が発生した。
ゴォォォォ……!
見えざる力が、空間を歪ませる。
それは、まるで竜が森を支配するかのような圧倒的な威圧だった。
木々が軋み、小さな妖精たちが一斉に逃げる。
「っ……!」
精霊王は即座に魔力を展開し、セレスティアをかばうように抱きしめる。
しかし、その瞬間——
「う……っ……!」
ふるり、と。
精霊王の腕の中で、 セレスティアの小さな体が震えた。
そして——
「……ひっ、……うぅ……」
目にいっぱいの涙をため、
「……こわい……」
そう呟いた途端——
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」
森の静寂を破る、 幼子の泣き声。
——サイファルトの思考が、一瞬、停止する。
「……」
セレスティアが、 泣いている。
怯えた瞳で、彼を見つめながら。
「……っ」
サイファルトは、 愕然とした。
これほどまでに強い衝撃を受けたのは初めてだった。
彼は、ただセレスティアを手に入れたかっただけ。
番として、自分の側に置いておきたかっただけ。
それなのに——
セレスティアが、怖がっている。
自分のせいで、泣いている。
「…………」
サイファルトは 拳を握りしめた。
この 胸の奥を抉るような痛み は、なんだ?
こんな感情、初めてだった。
「……サイファルト殿」
精霊王が低く言う。
「まずは話をしよう。セレスティアのために」
サイファルトは答えなかった。
ただ、じっとセレスティアの泣き顔を見つめていた。
そして—— 決意する。
(……二度と、泣かせない)
(セレスティアは、俺の番だ)
(ならば、彼女が泣かないようにするのは、俺の責務だ)
「……わかった。話をしよう」
彼がようやく、そう答えたとき。
森の緊張が ようやく和らいだ。
妖精たちの制止など意に介さず、まっすぐに彼女の小さな体へと手を伸ばす。
「セレスティア」
その名を呼びながら、彼は そっと自分の手のひらを差し出した。
セレスティアは一瞬きょとんとしたが、特に警戒することもなく、
ふわりと羽ばたいて 彼の手のひらの上にちょこんと座った。
サイファルトの呼吸が止まる。
手のひらに感じる、信じられないほどの軽さ。
だが、その存在感はどんな財宝よりも重く、
彼の中で、何かが決定的に変わるのを感じた。
「…………」
彼は無意識のうちに 手のひらの感触を確かめるように、そっと指を動かす。
それだけで、セレスティアの小さな体がぴくりと震えた。
「やわらかい……」
サイファルトの中で、本能的な何かがざわめく。
これが 自分の番 なのだと。
これが 自分のものになる存在 なのだと。
しかし——
「セレスティア」
背後から響いたのは 精霊王の呼び声。
「こっちへ来なさい」
ひょいっ。
サイファルトの手のひらから、セレスティアの小さな体が軽やかに飛び去った。
「……?」
彼は 一瞬、何が起こったのかわからなかった。
確かに、今、この手の中にいたはずなのに—— いない。
金色の髪を揺らしながら、
セレスティアは 何の迷いもなく、精霊王の腕の中へ飛び込んでいった。
「パパ!」
無邪気な声が響く。
その瞬間——
サイファルトの中に、 強烈な違和感が生まれた。
(なぜ……セレスティアが、他の男に触れられている……?)
それが 父親であろうと関係なかった。
彼にとって、 セレスティアは「番」であり、自分だけのもの」 だった。
だから—— 許せなかった。
サイファルトの 金色の瞳が鋭く光る。
周囲に漂う空気が、一瞬にして張り詰めた。
森の中の木々がざわめき、小さな妖精たちが怯えたように隠れる。
「サイファルト殿」
精霊王が慎重な声で語りかける。
「一度、落ち着いて話をしよう。セレスティアはまだ幼い。今すぐにどうこうという話では——」
「その前に、セレスティアを渡してほしい」
サイファルトの声は低く、静かだった。
しかし、その言葉には 一切の妥協がなかった。
精霊王の表情が険しくなる。
「…この子は我が娘だ」
「俺の番だ」
「だが、セレスティア本人が拒んでいる」
「それでも関係ない」
「……何?」
サイファルトは、一歩前へと踏み出した。
「セレスティアは俺の番だ。他の誰のものでもない」
「父親であろうと、例外ではない」
場の空気が、一気に変わる。
精霊王が警戒の色を見せるより早く——
サイファルトの周囲に、竜人特有の威圧が発生した。
ゴォォォォ……!
見えざる力が、空間を歪ませる。
それは、まるで竜が森を支配するかのような圧倒的な威圧だった。
木々が軋み、小さな妖精たちが一斉に逃げる。
「っ……!」
精霊王は即座に魔力を展開し、セレスティアをかばうように抱きしめる。
しかし、その瞬間——
「う……っ……!」
ふるり、と。
精霊王の腕の中で、 セレスティアの小さな体が震えた。
そして——
「……ひっ、……うぅ……」
目にいっぱいの涙をため、
「……こわい……」
そう呟いた途端——
「うわぁぁぁぁぁぁん!!」
森の静寂を破る、 幼子の泣き声。
——サイファルトの思考が、一瞬、停止する。
「……」
セレスティアが、 泣いている。
怯えた瞳で、彼を見つめながら。
「……っ」
サイファルトは、 愕然とした。
これほどまでに強い衝撃を受けたのは初めてだった。
彼は、ただセレスティアを手に入れたかっただけ。
番として、自分の側に置いておきたかっただけ。
それなのに——
セレスティアが、怖がっている。
自分のせいで、泣いている。
「…………」
サイファルトは 拳を握りしめた。
この 胸の奥を抉るような痛み は、なんだ?
こんな感情、初めてだった。
「……サイファルト殿」
精霊王が低く言う。
「まずは話をしよう。セレスティアのために」
サイファルトは答えなかった。
ただ、じっとセレスティアの泣き顔を見つめていた。
そして—— 決意する。
(……二度と、泣かせない)
(セレスティアは、俺の番だ)
(ならば、彼女が泣かないようにするのは、俺の責務だ)
「……わかった。話をしよう」
彼がようやく、そう答えたとき。
森の緊張が ようやく和らいだ。
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