【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな

文字の大きさ
30 / 184
第三章:堕ちた月、騎士たちの誓約

第31話・微かな兆し

しおりを挟む
静寂に包まれた部屋。
窓から差し込む柔らかな朝の光が、微かに揺れる蝋燭の炎と混じり合う。

ルナフィエラは未だ眠ったままだった。

しかし、その指が――

「……!」

ヴィクトルは、 その微かな動きを見逃さなかった。

細く白い指が、かすかに震えたのだ。

「……ルナ様?」

彼はすぐさま、 優しく彼女の手を握る。

フィンもまた、 ルナフィエラの傍に駆け寄った。

「……ルナ、聞こえる?」

フィンの声が、静かに響く。

かすかに揺れる瞼。

まるで光を求めるように、閉ざされていた瞳が微かに動いた。

「……っ……」

ルナの唇が、わずかに震える。

そして――

「……ヴィク……トル………フィン…?」

か細く、弱々しい声だった。
それでも 確かに、彼らの名を呼んでいた。

ヴィクトルの 紅い瞳が揺らぐ。

「……ルナ様!」

フィンが安堵の笑みを浮かべ、彼女の手をそっと包み込む。

「……よかった、目を覚まして……」

ルナフィエラの視界がゆっくりと焦点を結ぶ。

ぼんやりとした瞳で、ヴィクトルとフィンの顔を見つめた。

「……ここは……?」

「……ご安心ください。古城の中です。」

ヴィクトルは、 できる限り穏やかに告げた。

ルナフィエラの瞳が揺れる。

(夢……じゃない……?)

自分を呼ぶヴィクトルの声。
手を握るフィンの温もり。

確かに、ここにいる。

それが分かった瞬間、彼女の瞳から 熱い涙が零れ落ちた。

「ルナ、大丈夫だから……もう大丈夫だからね」

フィンは優しく彼女の髪を撫でる。

「……皆は……?」

ルナは、まだ力の入らない指をわずかに動かしながら 弱々しく尋ねた。

ヴィクトルが柔らかく微笑む。

「……皆、無事です。ご安心ください。」

ルナの喉が詰まる。

「……私……戻って、これたの……?」

フィンが頷いた。

「うん。君は……生きてる」

彼の優しい声に、ルナはそっと瞼を閉じた。

目を覚ましたばかりの身体は、 まだ重くて思うように動かない。

それでも――

(ああ……ここは、私の帰る場所なんだ……)

そう、確信できた。

ヴィクトルとフィンがそっと彼女を支え、安心させるように寄り添う。

ルナフィエラは静かに目を閉じ、再び眠りへと落ちていった。

今度は安心に包まれた、穏やかな眠りだった。



ルナフィエラが目を覚ました、という報せを聞いた シグとユリウスは、すぐに部屋へと駆けつけた。


だが――

「……眠ってるのか?」

シグが低く呟く。

ルナフィエラは、 穏やかな寝息を立てていた。
ほんの少し前に目を覚ましたというのに、 今は再び静かに眠りについている。

「……仕方あるまい」

ユリウスは扉の前で肩をすくめると、ルナフィエラのそばへ歩み寄った。
長い指を宙に滑らせ、 魔法陣を描き出す。

「何をする?」

シグが眉をひそめる。

「ルナの状態を確認するだけさ。」

ユリウスは淡々と答えた。
魔法陣が淡い光を放ち、ルナフィエラの身体を包み込む。

しばらくの沈黙の後、 ユリウスは静かに口を開いた。

「……魔力は、戻り始めている。まだ完全ではないが、徐々に安定してきているな」

その言葉に、フィンがほっと胸を撫で下ろす。

「でも……血は、まだ足りてない」

ユリウスは 魔法陣を消しながら、静かに言葉を続けた。

「このまま食事をとれなければ、再び衰弱してしまうかもしれないが……少なくとも、命の危機は脱したと言っていいだろう」

その言葉に、 四人はようやく安堵の息を漏らした。

「……生きてるんだな」

シグが ぽつりと呟く。
その声音には、どこかホッとした色が滲んでいた。

「ええ、ルナ様はご無事です」

ヴィクトルが静かに言うと、フィンも小さく微笑む。

ユリウスは 魔法陣を完全に消し去り、ルナフィエラの寝顔を見下ろした。

「さて……これからどうしたものか」

彼の言葉に、全員がそれぞれの思考を巡らせた。

ルナフィエラの完全な回復には、 まだ時間が必要だ。
けれど――

「絶対に、もう二度とこんな目には遭わせない」

四人の心の中に、その決意が深く刻まれていた。


——————

ルナフィエラはゆっくりと瞼を持ち上げた。

先ほどより意識ははっきりしている。
しかし、 身体はまるで鉛のように重く、指一本すら動かせない。

(……起き上がれない……)

微かに眉を寄せると、すぐそばで椅子に座っていたヴィクトルが気づいた。

「……ルナ様」

ヴィクトルの紅い瞳が心配そうに揺れる。

「ご気分は……いかがですか?」

ルナは小さく瞬きをするだけで、まともに言葉を発せなかった。
口の中がひどく乾いている。

それを察したのか、ヴィクトルは優しく問いかけた。

「水を……飲まれますか?」

ルナは力なく頷く。

だが―― 起き上がれない。

(これじゃ……水すら飲めない……)

ヴィクトルもそれに気づいたのか、一瞬だけ迷うような仕草を見せた。
寝たままでは、 コップの水を飲むのも難しい。

すると、横で様子を見ていたユリウスがため息をついた。

「まったく……。相変わらず不器用だな、ヴィクトル」

「……何か?」

「いや、別に」

ユリウスは 水差しを手に取り、指先を軽く動かす。
すると、水が空中に浮かび上がり、 小さな球体となった。

「ルナ、口を開けて」

彼の言葉に、ルナフィエラはわずかに首を動かし、唇を開いた。

ユリウスは、ふわりとその水の球体をルナの口元へと運ぶ。
ルナの口の中に水が流れ込み、ひんやりと喉を潤していった。

「……ゆっくり飲んで」

ユリウスの落ち着いた声に、ルナは少しずつ喉を動かして水を飲み込む。

乾いた喉が潤され、 わずかに息が楽になった。

「……ありがとう」

ようやく絞り出したその言葉に、 ユリウスは満足そうに微笑んだ。

「どういたしまして、お姫様」

ヴィクトルはそんなユリウスを じっと睨むように見つめる。

「……手間をかけさせました」

「別にいいさ。こういう時のための魔法だしね」

そう言ってユリウスは 肩をすくめる。

ルナはまだ体が思うように動かないが、確かに回復に向かっていることを感じていた。

(……大丈夫、もう少しだけ……頑張らなきゃ)

ルナはゆっくりと目を閉じ、再び静かな眠りに落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

王宮の万能メイド、偏屈魔術師を餌付けする

葉山あおい
恋愛
王宮で働く勤続八年のメイド、エレナ・フォスター。仕事は完璧だが愛想がない彼女は、いつしか「鉄の女」と呼ばれ恐れられていた。 そんな彼女に下された辞令は、王宮の敷地内にありながら「魔窟」と呼ばれる『北の塔』の専属メイドになること。そこの主である宮廷魔術師団長・シルヴィス・クローデルは、稀代の天才ながら極度の人嫌い&生活能力ゼロの偏屈男だった! ゴミ屋敷と化した塔をピカピカに掃除し、栄養失調寸前の彼に絶品の手料理を振る舞うエレナ。黄金色のオムレツ、とろける煮込みハンバーグ、特製カツサンド……。美味しいご飯で餌付けされた魔術師様は、次第にエレナへの独占欲を露わにし始めて――? 意地悪な聖女や侯爵夫人のいびりも、完璧なスキルで華麗に返り討ち。平民出身のメイドが、身分差を乗り越えて幸せな花嫁になるまでの、美味しくて甘いシンデレラストーリー。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...