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第一章:紅き月の夜の悲劇
第2話・変わり果てた王宮
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「姫様、こちらへ!」
侍女の必死な声が響いた。
ルナフィエラは、大広間の隅に縮こまっていた。
目の前で、王族たちが血を吐き、互いを喰らい合っていた。
さっきまで父や母と一緒にいたはずのこの場所が、一瞬にして地獄へと変わった。
(なんで……?)
(覚醒の儀式だったのに……どうして……?)
足元には、さっきまで笑っていた叔父や叔母の亡骸が転がっている。
血の匂いが、息が詰まるほどに充満していた。
「ルナフィエラ様!!」
執事が駆け寄り、10歳の子供である彼女を抱き上げる。
「逃げましょう!」
「やだ……お父様……お母様……」
ルナフィエラは手を伸ばした。
だが、父も母も——もう動かない。
「……っ!!」
足元で、倒れていた貴族が急に身を起こし、こちらに手を伸ばしてきた。
「……血……もっと……」
赤黒く濁った瞳が、ルナフィエラを捉える。
「姫様!」
侍女が即座に庇い、短剣を振るった。
「行きましょう!」
執事がルナフィエラをしっかりと抱きかかえ、血塗られた広間を後にした。
———————————
「裏門から外へ出ます!」
侍女が先導し、執事がルナフィエラを抱えながら後を追う。
廊下の外は炎に包まれ、城全体が崩壊しつつあった。
「外に出たら、安全なの……?」
ルナフィエラは震える声で尋ねた。
侍女は答えなかった。
「……姫様、しっかりお掴まりください!」
執事の腕が強くなる。
「大丈夫、私が守ります」
ルナフィエラはこくりと頷いた。
彼の言葉は、ただの慰めかもしれない。
けれど、そう信じなければ この恐怖に押し潰されてしまいそうだった。
裏門に続く廊下の手前——。
突如、瓦礫の影から、一体の王族が姿を現した。
「ァ……ァ……」
それは、伯父のはずだった。
だが、その顔は既に血まみれで、人の理性を失っていた。
「……ルナ……お前の……血を……」
「……っ!!」
執事が咄嗟にルナフィエラを後ろに庇う。
「姫様を傷つけるわけにはいきません!」
「……まだ……血が……!!」
伯父だったものが、一瞬で間合いを詰めた。
「——逃げて!!」
侍女が短剣を抜き、暴走者へと飛びかかる。
「いや……いや!」
ルナフィエラが叫んだ瞬間—— 鈍い音が響いた。
侍女の体が、壁に叩きつけられる。
「……っ……」
短剣は相手の肩を掠めたが、致命傷にはならなかった。
「姫様、行ってください!」
「やだ! 置いていけない!」
「……貴女を逃がすのが……私の役目です……!」
「いやぁああああ!!」
だが—— 侍女の手が離れ、ルナフィエラは執事に抱えられたまま裏門へと駆け出した。
ルナフィエラは、振り返ることができなかった。
(ごめんなさい……ごめんなさい……!)
涙が、止まらなかった。
ようやく、裏門が見えた。
「ここを抜ければ……!」
執事が扉に手をかけた、その瞬間——
「——ッ!?」
扉の向こうに 別の暴走した王族が立っていた。
「血を……もっと……!」
「……っ!!」
執事はとっさにルナフィエラを後ろへ押しやると、自ら前に出る。
「私が時間を稼ぎます」
「やだ! 貴方も一緒に!」
「——ルナフィエラ様!」
執事の鋭い声に、ルナフィエラは息を呑む。
「私は、貴女をお守りするためにここにいるのです」
暴走者が飛びかかる。
執事は剣を抜き、迎え撃った。
だが—— 彼は吸血鬼ではない。
「ぐっ……!」
防ぎきれない一撃が、執事の腹を貫いた。
「いや……いや!!」
ルナフィエラが駆け寄ろうとするが、彼は最後の力で 彼女の肩を強く押し返した。
「……ルナフィエラ様、逃げてください……!」
「やだ……やだぁ!!」
「……貴女が生きることが……王族の未来なのです……」
執事は微笑んだ。
そして—— ルナフィエラを扉の外へ突き飛ばした。
彼女が倒れた瞬間、扉が閉じる音が響く。
「いやぁあああああ!!」
ルナフィエラは扉を叩く。
だが—— もう、中から返事はなかった。
(……また……置いていかれた……)
燃え盛る城を見上げる。
(……私だけが……生き残った……?)
「……いや……」
嗚咽が漏れる。
「いやだ......いやぁぁ.........っ!」
紅き月が、絶望の色を映し出していた——。
城の炎が、夜空を赤く染める。
「……私だけが……」
そう呟いたルナフィエラの頬を、涙が伝った。
この夜から、彼女は「王家最後の生き残り」となった。
侍女の必死な声が響いた。
ルナフィエラは、大広間の隅に縮こまっていた。
目の前で、王族たちが血を吐き、互いを喰らい合っていた。
さっきまで父や母と一緒にいたはずのこの場所が、一瞬にして地獄へと変わった。
(なんで……?)
(覚醒の儀式だったのに……どうして……?)
足元には、さっきまで笑っていた叔父や叔母の亡骸が転がっている。
血の匂いが、息が詰まるほどに充満していた。
「ルナフィエラ様!!」
執事が駆け寄り、10歳の子供である彼女を抱き上げる。
「逃げましょう!」
「やだ……お父様……お母様……」
ルナフィエラは手を伸ばした。
だが、父も母も——もう動かない。
「……っ!!」
足元で、倒れていた貴族が急に身を起こし、こちらに手を伸ばしてきた。
「……血……もっと……」
赤黒く濁った瞳が、ルナフィエラを捉える。
「姫様!」
侍女が即座に庇い、短剣を振るった。
「行きましょう!」
執事がルナフィエラをしっかりと抱きかかえ、血塗られた広間を後にした。
———————————
「裏門から外へ出ます!」
侍女が先導し、執事がルナフィエラを抱えながら後を追う。
廊下の外は炎に包まれ、城全体が崩壊しつつあった。
「外に出たら、安全なの……?」
ルナフィエラは震える声で尋ねた。
侍女は答えなかった。
「……姫様、しっかりお掴まりください!」
執事の腕が強くなる。
「大丈夫、私が守ります」
ルナフィエラはこくりと頷いた。
彼の言葉は、ただの慰めかもしれない。
けれど、そう信じなければ この恐怖に押し潰されてしまいそうだった。
裏門に続く廊下の手前——。
突如、瓦礫の影から、一体の王族が姿を現した。
「ァ……ァ……」
それは、伯父のはずだった。
だが、その顔は既に血まみれで、人の理性を失っていた。
「……ルナ……お前の……血を……」
「……っ!!」
執事が咄嗟にルナフィエラを後ろに庇う。
「姫様を傷つけるわけにはいきません!」
「……まだ……血が……!!」
伯父だったものが、一瞬で間合いを詰めた。
「——逃げて!!」
侍女が短剣を抜き、暴走者へと飛びかかる。
「いや……いや!」
ルナフィエラが叫んだ瞬間—— 鈍い音が響いた。
侍女の体が、壁に叩きつけられる。
「……っ……」
短剣は相手の肩を掠めたが、致命傷にはならなかった。
「姫様、行ってください!」
「やだ! 置いていけない!」
「……貴女を逃がすのが……私の役目です……!」
「いやぁああああ!!」
だが—— 侍女の手が離れ、ルナフィエラは執事に抱えられたまま裏門へと駆け出した。
ルナフィエラは、振り返ることができなかった。
(ごめんなさい……ごめんなさい……!)
涙が、止まらなかった。
ようやく、裏門が見えた。
「ここを抜ければ……!」
執事が扉に手をかけた、その瞬間——
「——ッ!?」
扉の向こうに 別の暴走した王族が立っていた。
「血を……もっと……!」
「……っ!!」
執事はとっさにルナフィエラを後ろへ押しやると、自ら前に出る。
「私が時間を稼ぎます」
「やだ! 貴方も一緒に!」
「——ルナフィエラ様!」
執事の鋭い声に、ルナフィエラは息を呑む。
「私は、貴女をお守りするためにここにいるのです」
暴走者が飛びかかる。
執事は剣を抜き、迎え撃った。
だが—— 彼は吸血鬼ではない。
「ぐっ……!」
防ぎきれない一撃が、執事の腹を貫いた。
「いや……いや!!」
ルナフィエラが駆け寄ろうとするが、彼は最後の力で 彼女の肩を強く押し返した。
「……ルナフィエラ様、逃げてください……!」
「やだ……やだぁ!!」
「……貴女が生きることが……王族の未来なのです……」
執事は微笑んだ。
そして—— ルナフィエラを扉の外へ突き飛ばした。
彼女が倒れた瞬間、扉が閉じる音が響く。
「いやぁあああああ!!」
ルナフィエラは扉を叩く。
だが—— もう、中から返事はなかった。
(……また……置いていかれた……)
燃え盛る城を見上げる。
(……私だけが……生き残った……?)
「……いや……」
嗚咽が漏れる。
「いやだ......いやぁぁ.........っ!」
紅き月が、絶望の色を映し出していた——。
城の炎が、夜空を赤く染める。
「……私だけが……」
そう呟いたルナフィエラの頬を、涙が伝った。
この夜から、彼女は「王家最後の生き残り」となった。
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