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OKAYU*

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 ぼうっと、空をながめてみる。かつての通学路。この空はあのころ、かれの目に映っていた空となにか違うのかな――そう思いながら、溶けない思い出をかみしめて……


 冬の入口。高校時代の同窓会の案内をもって、あたしは、ひさしぶりの地元におとずれている。九年前と変わらない景色、時間の流れ方。

 切符改札機すらない無人駅でおりる。会場にえらばれたレストランは、母校の少しさきにあるみたい。必然、かつての通学路をなぞることになる。

 のどかな田園風景。申し訳ていどに舗装された人けのない道を、あたしはひとり占めして歩く。道路の隅っこ、冬を迎えてすっかり枯野になったねこじゃらしは雪に噛まれ凍えている。

 ここから会場まで徒歩二十分といった距離。母校を過ぎたあたりから市街地になるが、侘しさはぬぐいきれない、時代に取り残された町並みである。

 しかし、なかなかどうして――あたしはこの町を気にいってたりする。にぎやかな都市部より、よっぽど好ましい。性に合ってる。上京して尚更そう思う。田舎はこころに平穏をもたらしてくれる。

 ハート型の棚田、ブランコだけの公園、等間隔にならんだ紅白鉄塔。それらすべてが、かれとの帰り道、ふたりだけの時間を映しだすプロジェクターになり、あたしの頭のなか、思い出のプラネタリウムで煌めいてる。

 
 夢のようにさわがしく、鮮明に。音も、色も匂いも、ぜんぶ。ぜんぶぜんぶ。

 きのうのことみたい。

 雪が降り積もった帰り道、ふかふかの純白のカーペット……ふり返ると、あたしの足跡をえらびながら歩くかれ。見つめてみると、ふしぎな連鎖で見つめ返してくれる目。案の定、よそ見したかれが躓き、こらえきれず笑ってしまう。すると、かれはもっと楽しそうに笑うから――ねえ、どうして?――あたしの胸のなか、切なさで堪らなくなるんだよ。

 ほんのりピンクがかった透明な空に、あたしらの声は溶け、遠くかなたの知らない国まで澄みわたってくれそうで……

 かれ。

 高校に入学して最初の一年間だけおなじクラスだった、けれど教室のなかでは一言もことばを交わさなかったかれ。

 いつも賑やかな輪の中心にいてリーダーシップを発揮する優等生なのに、あたしとふたりだけのときは雲より自由気ままで、無防備な笑顔をうかべるかれ。

 ことばで足りなすぎる「ありがとう」と「ごめんね」を、ことばすら届けてあげられなかったかれ。

 冬のシンボルそのもの。きもちを巧みに操っても瓜ふたつになれない、雪の結晶みたいな複雑さ。青春のハイライト。

 だから、当時あたしらが付き合ってるという噂を耳にしたとき、こころが無造作に掻き立てられた。理不尽な括られ方。感性の隔たり。傍から見ると、あたしら……そうなっちゃうんだって。

 何となくだけど、かれも戸惑っているようだった。たしかめたことなんてないし、今となってはもう、たしかめるすべもないけれど。

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