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第三層 餓鬼ダンジョンソロ攻略 編

崩壊、パワーバランス。

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「ハァ…ひどい目にあった…」

 
 平然を装い、不動を貫きながらも内面では七転八倒を繰り返し、やっとの思いで魔食のショック症状から立ち直った俺であったが、しかし。

 あれ程苦しむ事になるとはな。

 一般級餓鬼を魔食した時も相当な苦悶だったが、その格上の直後にさらに格上をしかも生食。遥かに上回る苦しみだった。

 あまりに予想外、というか、あまりに想定が甘過ぎた。結果オーライとなったが今思えば迂闊に過ぎる。そう言わざるをえない暴挙だった。

 そこでさらに気になったのが、

『これほどの苦悶を伴ったのだ。では一体、どれ程の強化となったのか?』

 という訳で早速、ステータスを確認してみます。

「え、、、なんだこれ」



=========ステータス=========


名前 平均次たいらきんじ

MP 7660/7660

《基礎魔力》

攻(M)110→180 
防(F)25→39 
知(S)66→98 
精(G)13→17 
速(神)130→214 
技(神)106→154 
運   10

  ・

  ・

  ・


 ……結果オーライじゃまったくなかった。


「ってまたか!強くなりすぎだろこれ!」


 お目当てのスキルのうち一つだけだったが目標レベルに達した。

 これは良かった。

 …でもな、この器礎魔力の上昇はなんだ?


「上がり過ぎだ!」


 しかも魔食が原因でここまで…つまり肉体改造の余波として上がっている。

 つまりのつまり、例のハンパない肉体強化がプラスされた分、数値以上の強化となっているはずだ。

「いやマジ…っ、…弱ったな…」

 善きに付け悪しきにつけ、『グルメモンスター』の効果が凄まじ過ぎる。

 実際、狂い餓鬼と狂い餓鬼頭の肝を魔食したのはたったの一回。

 にも関わらず。あれらを食しての強化限界にもう到達してしまっている。称号効果で何となく分かるのだ。餓鬼という種族に関してはあのレベルの進化体を魔食しても、もう強化されない、という事が。

 一般級の肝を魔食した時は強化されるまで相当な量を食さねばならなかったのに、今回のノービス級とチーフ級では、たった一回の実食で強化完了。こうなったのも多分、『グルメモンスター』のお陰で吸収効率が上がったから。

 まあ、食えば死ぬほど不味いし苦しむし。それがたったの一回で済むのは有難い。しかし、

「スキルレベルの上昇だけでも相当な強化だったのに、肉体と器礎魔力までセットでこうも急激に強化されちまうと…うーん、」

 かなり困った事になる。

 そう、まただ。
 俺はまた、強くなりすぎてしまった。
 試さなくとも分かる。

 さっき程度の負荷ではもう、スキルレベルは上がらない。こうなったら…

「進化餓鬼の皆さんには相当、頑張ってもらわんと…」

 そうだ。何としても次の進化に進んでもらわないといけない。これはもう必須事項だ。という訳で。


  ・

  ・

  ・

  ・


「ほらっ、付いてこいっ!」


「「「ぎゃーん?(※多分、『あーん?』と言ってます)」」」
「「「ぎゃんがごまえー!?(※多分、『なんだお前ー!?』と言ってます)」」」
「「「ごぎゃ、まげー!(※多分『こら、まてー!』と言ってます)」」」


 という感じになっています。

 俺は今、別の部屋へ出張し、進化したばかりの狂い餓鬼頭が統率する部隊を見つけては釣り、進化餓鬼の乱闘現場へとぶつけていく…という事を繰り返しています。

 つまりはモンスターにモンスターをトレインして鍛えるという…これは、

「ふむ…我ながら興味深い…」

 閉じ込められた空間で『グルメモンスター』のデバフ効果で恐怖を与える。

 それを恐慌にまで発展させ、レベルアップを強制、共食いを誘発する。

 そこへさらにと進化モンスターをトレインして投入する。という…

 強制、養殖。

 これがもし、餓鬼以外のモンスターにも通用した暁には?


「うむ、『モンスタートレイントレーニング』と名付けよう」

 
 いや、また馬鹿な事言ってると思うかもしれないが。これはレベルアップに頼れない俺としてはかなり重要な案件となる。機会があるなら他の『殲滅攻略型』ダンジョンで試してみたい。
 
「でも『モンスタートレイントレーニング』てのは長いな。舌噛みそうだ。略して『MTT』だな。」

 …え? もし同じ名前のプロレス技なり企業名なり既にあったならごめんなさい。故意ではないです無知なだけ。
 …え? 何らかの専門用語とかであるかも?いやそこまで気にしてられるか。
 …え?もし鼻についたなら謝るからそれで許してください。どっちにしろ謝るだけだが…ってああすまん。また話が逸れてしまっ──

「ぎぃぃいい、が、が、があああああああっっぎ!!!」

「 お 」

 どうやら次なる進化を果たした個体が…それは、『狂い餓鬼大頭おおがしら』という進化体。

 これはモンスター進化で言えば『リーダー級』と呼ばれる段階で、複数の部隊を率いる程の力と統率力を得る。のだが…、


「あぎゃ…」

「 む、」

「ぎ、き、ぎ、……ぎゃひぃ。」


 俺を見るなり怖じけづいてしまった。そしてそのまま共食いの乱戦へと姿を消して──


「ダメか……いや、それでいい。英断だ。」


 確かに俺の器礎魔力は相当に上がったが、多くの進化体を率いる『リーダー級』のモンスターが察知して逃げ出すほどではなかったはず。

 でも大量のスキルを会得しており、そのスキルレベルも相当に上がっている。

 更には魔食の効果で肉体まで強化されている。それも『グルメモンスター』という化物称号によってあり得ないほど効率的に。
 
 いくつもの部隊を率いる事が可能な『リーダー級』へと進化を遂げたあの餓鬼はきっと、その『長としてのセンス』をもって戦力差を読み取った。

 そして本能的に悟ったのだろう。『今やっても勝ち目はない』と。

 だから『英断だ』と言った。

 『勝つためにはさらなる進化が必要』
 『もっと進化出来るはず』

 そう判断したのだろうからな。

「じゃぁ、協力しない訳にはいかないな」

 俺はまた他の部屋へ足を運んだ。それは新たな狂い餓鬼組頭が率いる小部隊を、この乱戦へと投入するためだったが…しかしそれにも、暗雲が──

  ・

  ・

  ・

  ・

 こうやって周回するのも何回目になるのか。釣りに向かった先ではこれまで通り、狂い餓鬼組頭が率いる小部隊が待ち構えていて…うん、いたのだが…

 それに、一般級餓鬼が混ざっていたのだ。

 さらに、その周りには共食いに励む一般級がいなくなっていて。


( うーん…再びの嫌な予感 )


 その部隊はしっかりMTTしたが、その現象は他の部屋でも起こっていた。嫌な予感が拭えないまま俺はまた周回…してみれば、案の定。


 どの部屋も、再増殖していなかった。


 やはりだ。
 尽きたのだ。

 このダンジョンが生み出せるモンスターの限界数に達してしまった。もう再増殖はない。

 つまり、今共食いをしている連中が次の進化に至らなかったら?きっと俺は、連中を難なく倒せてしまう。

 そしてこのダンジョンの攻略は終了する。しかしそうなると大した負荷も得られないまま…目当てのスキルも進化させられないまま、つまり…


「あの『鬼』に、負ける…詰んじまう…」


 つまりのつまり、


「これが最後のチャンスか…」


 俺は祈るような気持ちで、進化体達が共食いに励むあの部屋へと戻っていった。
 

 …果たして。









 ──そこには、いた。


 数体の『狂い餓鬼大頭』と、それらが指揮する十体ほどの『狂い餓鬼組頭』と、それらが率いる数十の『狂い餓鬼』。

 それら百近くまで絞り込んだ最精鋭の中心に立ち、大地から生えたようにのたくる筋肉で全身を覆い、今にも爆発しそうに膨らんだそれらを悠然と御した風に腕を組みながら、こちらを睨み付ける『ジェネラル級』モンスター。その名も──


「出たなっ!ガキ大将!」


 いやガキ大将ではない。

 
『餓鬼大将』だ。


 『ノービス級初級』とはいえ、進化体を率いる程の力を持つのが『チーフ級』なら、その小部隊を幾つも指揮下に置き、中部隊を率いる力を持つのが『リーダー級』。

 そして、その中部隊が幾つも合わさり、もはや軍隊と呼んでいい規模を率いるに相応しい進化を遂げたのが、『ジェネラル級』だ。

 その強さはそれまでの進化体とは一線を画す。

 そのジェネラル級である『餓鬼大将』。

 その名の通り、この個体は『狂戦士』という呪いから解放されている。

 で、あるのに。その強さは『狂い餓鬼大頭』の数倍もある。

 その上で統率にも秀でていて、この個体が率いる全ての餓鬼は『狂戦士』の攻撃力バフを損なう事なく、統率されており、統率される事でさらに強化されるというのだから…相手にとって不足なし?…否、
 
 もはや、俺には荷が勝ちすぎる相手かもしれない。

「でもそのくらいでちょうどいい。今さらだ」

 俺が所持するスキルはどれもが生半可な負荷ではもう、育たなくなっている。

 だから欲した。

 いや欲してはない、必要だった。

 強敵が。窮地が。死闘が。

 つまりこれは最後のチャンスだが、最高のチャンスでもあり。

 敵が用意したのは最凶の部隊だったが、ここにあるは最高の舞台。

 この餓鬼達は応えてくれたのだ。敵であるはずの俺の我が儘に。それこそ死に物狂いとなって最後まで付き合ってくれた。

 それぞれの餓鬼を見れば、顔に身体に無数の傷を刻んで在る。その眼に宿す殺意と覚悟はどれも歴戦のそれ。舐めてきた辛苦の程が窺える。

 それを思うとすまなくもあり、有り難くもあり、何故か…ほの哀しくもあり。


 それでもだ。


 さあ雌雄を決しようじゃないか。

 負けない。絶対に俺が勝つ。

 この、餓鬼軍団VS俺というバトルストーリーは遂に最終章へ。


 これが最後の、激──突──









 ──する前に パッカーっ… …ン…!


「ええええ?」


 割れた。餓鬼大将の頭が。

 ピューピューと血を吹いて…バダン!

 倒れたな…餓鬼大将。


「うおお!ガキ大将おおーーーーー!」

 
 え、死んだ?え?まさかの、え?登場間もなく、え?『餓鬼大将死すの巻』?え?それも、え?戦ってもない内に?え?え?

 万感込めたはずのこの一戦、
 それがまさかまさかの不戦勝。

 二周目知識チートをもってしてこれは…予想外過ぎる展開だ。

 そしてまただ。始まった。共食いが。

 いや、これは殺戮だ。

 進化餓鬼の群れの中、全ての同胞に死を撒き散らす者がいた。それは、


 ──隻腕の、餓鬼。


 餓鬼大将を不意打ち屠ったのはこいつか。進化して随分と姿形を変えてしまったのだろうが…あれ?

「なんか見覚えが──」

 ともかく。こいつは倒した。
 不意打ちとはいえ、ジェネラル級を。

 
 それも、一撃で。


 左側、肩から先に腕がない。その代わりなのか、右腕が異常に肥大している。

 それは隻腕なのにとんでもない攻撃力を秘めていると、一目で分かる禍々しいフォルムをしていた。

 縦横無尽にぶん回す。その一振り一振りが異様に速く、異様に強く、異様に重い。

 それを実現するために自身を凄まじく回転させ、他の進化餓鬼を纏めて潰しながら刻んでは貫いて…その果てに爆散…させて…


 ──え?

「──って待て待て!その戦型って、俺の…っ」


 …そう、その餓鬼が使う技はどれも俺の戦型の中にあるそれだった…つまりはどう見ても俺を模倣していて…いや、アレンジまで加えて──


「馬鹿な──!」


 その戦型を実現するまでに、どれ程のスキルを身に付け、成長させる必要があったと思ってる!?こんな急激で特異な進化がありえる訳──いや、

 …恐るべき事にありえた。

 それが今の世界だった。


「そうか…こいつは──」


 いや…この場合は『さすがは俺』と言うべきか。それとも、さすがの『運』魔力最低値とでも言えばいいのか?それともそれとも、さすがは『強敵』の称号所持者?

 いやこの際だ、何が原因だろうか関係ない。それはもう、起こってしまった。生まれてしまった。

 まさかのこんな土壇場で。こんな化け物に遭遇するなんて──


「──ネームド名前憑き…。」


 それは、『ジェネラル級』の進化先である伝説級。

 キングと双璧をなす存在。

 つまりは──荷が勝ちすぎる?とんでもない──今の俺には、遥か格上の存在。


「…マジか…」


 …俺よ。何故考えなかった?

 強くなりすぎて困っただと?

 そんな経験を何度もしておきながら何故、これを想定しなかった?こうして、敵が強くなりすぎるという最悪のケースを。

 ともかくこれは、またもの誤算発生…いや違う。

 これは、もはや──



 「絶体絶命ってやつ…だな…」

 
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