幼なじみのチャラいバンドマンに突然溺愛される話

９

「……ご飯行こうって言ってたのに、私の勝手ですみませんでした」

　ライブが終わると、隼人とは挨拶もせずに大原さんと外に出る。
　駅へと歩きながら、改めて今日の非礼を詫びた。
　大原さんは気分を悪くしている素振りも見せずに、いつものように優しく笑ってくれる。

「大丈夫だよ。俺も音楽好きだし。結構楽しかった」

　やっぱり大原さんは良い人だ。
　こんなに素敵な人よりも、チャラい隼人に惹かれてしまうなんて、やっぱり私は馬鹿だと思う。

「……じゃあ、ちょっと寄ってこうか」

「……え？」

　突然大原さんに腕を掴まれて、繁華街に並ぶホテルの方へ強引に連れて行かれる。

「え？　ちょっと待ってください！」

「いいでしょ？　俺も付き合ったんだから。今度はちなっちゃんに付き合ってもらう番」

　穏やかに笑っているけれど、目の奥がギラリとしていて怖い。
　手の力も強すぎて。

「なんにもしないから大丈夫。ちょっと休むだけ」

　そんな言葉、信じられるはずがない。

「ほら！　早く！」

　……最初からこれが目的だったんだ。
　優しくて誠実だと思っていた大原さんが、実は下心だけの男だったなんて。
　豹変する彼に血の気が引いて足が竦む。

「離してください」

　やっとのことで声が出て、腕を振りほどこうとした瞬間、いかにもチャラそうな、知っている香水の匂いが漂い、温かな温もりにすっぽりと包まれた。

「……千夏に触るな」

　後ろから私を抱き包む隼人を見上げ絶句する。
　彼は大原さんを威嚇するように睨みつけ、大原さんがポカンとしているうちに私の肩を抱きそのまま目の前のホテルに直行する。

「隼人！？　ねえ！　待って」

「……嫌だ」

　困惑しているうちに入室の手続きを済ませ、あれよあれよと部屋の中に入っていく。
　彼が何故こんな行動をするのかわからず、だけどちっとも嫌な気持ちにならない自分に呆れてしまう。

「ちょっと……隼人……！？」

　部屋に入った途端に抱き締められ、心臓が止まりそうになる。

「……もうそろそろさ、俺でいいじゃん」

「……え？」

「しょうもない男と付き合うならさ、俺にしろって。なんで俺だけには振り向いてくれないの」

　思ってもみなかった隼人の言葉に驚いて混乱する。
　立ち尽くす私を抱き寄せて、そのままベッドに押し倒された。

「隼人……」

　私の上に跨がり服を脱ぎ始める隼人に心臓が高鳴る。

「千夏のこと大切だから我慢してきたけど、もう限界」

　切ない眼差しで真っ直ぐ見つめられ、胸が締めつけられた。

「誰でもいいなら俺にして。他の男にとられたくない」

　必死な表情で懇願する隼人に、じわりと涙腺が緩んだ。