幼なじみのチャラいバンドマンに突然溺愛される話

結城由真

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 居酒屋のお座敷に、総勢十数名が集まった。
 隼人のバンドのメンバーは何度か挨拶をしたことがあったけど、他のバンドや音楽仲間の人達とは初対面で、ほとんどアウェイ状態。
 隼人の取り巻きの女の子達はちらちらとこちらを観察するように見てくるので、居心地の悪さを覚えた。

「隼人カッコ良かった!」

「ありがとー」

「○○って曲、この間言ってた青山のやつ?」

「そだよー」

 無理矢理連れて来たくせに、挨拶も早々に隼人は女の子達と内輪ネタのような話で盛り上がっているので、益々気まずくて輪の中に入れない。
 来るんじゃなかったと、自棄になって梅酒ソーダを呷る。

「千夏、あんまり飲みすぎるなよ」

 そうかと思うと突然釘をさしてくるし、何を考えているのかわからない。
 そっちが誘ったんでしょ、と怒るのを我慢して、黙ってまたグラスに口をつける。

「いーじゃん飲もうよ! 千夏ちゃん、だっけ? うちの隼人がお世話になってますー」

 私の左隣にいる隼人の、更に左隣に座る女の子が、隼人越しにグラスをこちらに近づけた。
 引きつった顔で精一杯笑顔を作って、乾杯に応える。
 彼女はもたれるように隼人に身体を密着させて、彼の太腿にさり気なく手を置いた。
 隼人も当たり前のように平然としていて拒否もしないから、二人がそういう関係であることは一目瞭然だった。
 彼女がいるんだろうなとはわかっていたけれど、実際に目の当たりにすると結構堪える。

「ちょっと美優、そんなことしてたら彼氏に怒られるよ?」

 向かい側の席に座る別の女性がそんなふうに彼女を窘めるので、呆気にとられてポカンとする。

「いいの。だって隼人は特別だもん。彼氏とは別枠。ね、隼人」

 隼人はにっこりと笑っているだけで何も答えない。

「………………」

 ……なんていうか、がっかりした。
 彼氏がいる子とも平然とイチャイチャするなんて、最低。
 まさか隼人がここまでチャラい人間になるとは思いもしなかった。

────『千夏、うまく弾けるようになったから聞いて』

 昔の隼人は、私にだけ優しくしてくれたのに。

 今日という今日は隼人の変わりぶりに幻滅して、女の子とベタベタしている彼から徐々に離れた。

「千夏ちゃん、どんな音楽好きなの?」

 右隣の、今日の対バン相手のボーカルの人に声をかけられ、少しだけ安堵する。
 誰かと話していた方が気が紛れるので助かった。

「なんでも聴きますけど、特に好きなのは……」

 隼人にやや背を向けて、右隣の方に集中した瞬間、突然グイッと肩を抱き寄せられ、また隼人の近くに引き戻された。
 びっくりして声が出ない。
 そのまま腰の方に腕を回され、ガッチリホールドされている状態に唖然とする。

「俺の歌が好きだよね」

 そう耳元で囁かれ、ボッと沸騰するように顔が熱くなる。

「出たー! 隼人の自己陶酔!」

「やっぱフロントマンはナルシストじゃなくちゃな!」

 周りから笑いが起きて、どう反応していいかわからない。
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