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しおりを挟む「ミクは犬だから、食事もドッグフードで構わない。一人で排泄はできるけど、身体は洗ってやってほしい。ちなみに散歩はしなくていいよ。ミクは怖がりで、外の世界が苦手だからね」
そんな話を真顔で言う悟が気味悪く感じた。
彼は頭がおかしくなってしまったんだろうか。
「よしよし」
「くぅーん」
今も悟の膝の上に頭をのせてじゃれるミクを一瞥し、ゾッと鳥肌が立った。
悟も悟だけど、彼女もおかしい。
一晩明けても、ミクは本当に一度も言葉を話さないし、ドッグフードを美味しそうに食べている。
まるで本当の犬のような仕草に思えてきて、そんな自分にも嫌悪感を覚えた。
「じゃあ俺は、しばらく仕事が忙しくなりそうだから。ミクの世話を宜しくな」
早々に身支度を整え家を出ようとする悟に困惑する。
「ちょっと待ってよ! 私とこの子二人にさせるの?」
「大丈夫だよ。見てごらん。ミクは君に懐き始めてる」
促されるままミクを見ると、彼女は私に向かって満面の笑みを浮かべている。
その顔は不気味なほど可愛らしく、再び背中が粟立つのを感じた。
悟が家を出てから、私は今度こそ彼女に向かって訴えた。
「ねえ、いい加減犬の真似なんてやめて。気持ち悪い」
「わん!」
「悟に言われてるの? あなた愛人? こんなことしてて、悲しくないの?」
「わん! わん!」
笑顔で鳴くばかりのミクに辟易する。
私まで気が狂いそうだ。
「わん!」
「きゃ!」
突然飛びつかれ、強く抱き締められる。
嫌悪感に耐えられず身を捩り、すぐに彼女から離れた。
「お願い! ここを出て行って! これって監禁じゃない! 頭おかしいよ!」
叫ぶ私に怯んだのか、ミクは震え始めた。
そして静かに泣き始める。
「どうしたらいいのよ……」
結婚したら家に知らない女がいて、犬として飼うなんて。
私の方が泣きたい。
……だけど、ここを出て行くわけにはいかないから。
こんな馬鹿な真似をして私を追い出すつもりなら、尚更居座ってやる。
別れるなら、悟の財産をしゃぶりつくしてからじゃないとわりに合わないわ。
ベッドルームに籠もり、当てつけのようにネットショッピングに没頭する。
リビングからはずっとミクの鳴き声が響いていた。
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