借りてきたカレ

第十一章 魔性の女とレンタル彼氏

（7）

　外に出るなりピューと吹き付けてきた北風に体を縮こませた。
　気分が落ち込んでいると、寒さが余計に身に染みる。
　なんだかまっすぐ家に帰る気になれず、通りがかりの大きな商業施設に立ち寄った。

　温かい飲み物を求めてカフェに入ると、店内は驚くほど賑やかだった。裕福そうなママたちが、ベビーカーを横に置き、息つく間もなく喋り合っている。
　その隣に座るのははばかられ、コーヒーをテイクアウトして、人の少ない広場に移動した。

　自分の吐いた白い息が昇っていくのを追って視線を上げると、雲一つない快晴の空があった。

　空は青いなー。
　Win-tecに勤めていた頃は忙しすぎて、こんな風に空を見上げることなどなかった。

　コーヒーを飲みながら、今後のことについて考えを巡らせる。
　クラウドソーシングは手軽だが、かなり買い叩かれるので、安定した収入を得るのは難しい。依頼主は相手の顔を見ないので、厳しい条件を提示しやすいようだ。何度か支払いを踏み倒されたこともある。
　今日、唯一まともな金額で発注してくれていた取引先を失い、頼みの綱が切れてしまった。

　そろそろ手持ちの金も少なくなってきたし、あまり気は進まないが、実家に帰るしかないか。

　しばらくすると、さきほどのセレブママのグループがカフェから出て、みさをの前を通り過ぎて行った。お喋りで胸に溜まったものを吐き出して家に帰るのだろう。

　私も愚痴を言えるような悩みだったらなー……。つい自分と比べてそんなことを思ってしまう。

　みさをは会社を辞めてから友達にも会っていなかった。
　優希から何回かメールが来たが、「大丈夫」と短く返して、その後は連絡を取っていない。

　本当に解決策のない深刻な問題を抱えている時、人に相談すら出来なくなるものなのだと知った。
　大切な友達に、ただ負のオーラをまき散らすだけなら会わない方がいい。そんなことをしても自己嫌悪に陥って、余計に落ち込むだけだ。

　みさをは重い足取りで帰途についた。