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第九章 降って湧いた婚約者
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「それに平森透……。あいつ日本に帰って来てたのか」
「お知り合いですか?」勝俣の呟きに小野瀬が反応する。
「ああ、あっちの大学で一緒だった。昔から何を考えているか分からない、いけ好かない奴だったよ」
ヒラモリトオル? 勝俣が憎々しげに口にした名前が引っかかった。
同姓同名の人? そういえば、さっきちらっと見えた新社長の顔、少し平森に似ていたような……まさかね。
動画が進み、再び新社長が映った。
みさをは身を乗り出してその顔を凝視した。記者の鋭い質問にも余裕たっぷりな笑顔で答えている新社長は、いつもとは雰囲気が違うが、間違いなくみさをにプロポーズしたあの平森だった。
みさをは雷に打たれたようなショックを受け、思わず「ああ」と声を漏らした。
なぜ平森が? 今までみさをのことを騙していたのか。でもなんのために? 巨大IT企業の社長がそんなことをして何のメリットがあるのか分からない。そもそも平森は、みさをがWin-tecの社員だと知っているのだろうか。
気づけばみさをの指は細かく震えていた。
「萩野、どうした? 顔色が悪いぞ」
勝俣がみさをの顔を覗き込んできて、我に返った。
平森の意図はさておき、みさをにとってこの状況は最悪だ。極秘に準備してきた仕事を横からかっさらった会社の社長と付き合っているだなんて、内通者だと疑われてしまう。
だが、ここで黙っていて後からバレたら、それこそ言い訳がたたなくなる。
「あの……社長」
今言うしかない。みさをは覚悟を決めた。
「さきほど話した私がお付き合いしている男性というのは、彼なんです」
「彼?」
「そこに映っている平森透氏です」
「なん……だと」
今の今まで心配そうにみさをを見ていた勝俣の顔が、みるみる赤くなり鬼の形相に変わっていった。
「おまえがアンギスに情報を流したのか?」
「違います! それだけは天地神明に誓って。私は彼がアンギスの社長に就任したなんて知らなくて。彼とは仕事の話を一度もしたことがないんです」
みさをは必死に弁明した。
「お知り合いですか?」勝俣の呟きに小野瀬が反応する。
「ああ、あっちの大学で一緒だった。昔から何を考えているか分からない、いけ好かない奴だったよ」
ヒラモリトオル? 勝俣が憎々しげに口にした名前が引っかかった。
同姓同名の人? そういえば、さっきちらっと見えた新社長の顔、少し平森に似ていたような……まさかね。
動画が進み、再び新社長が映った。
みさをは身を乗り出してその顔を凝視した。記者の鋭い質問にも余裕たっぷりな笑顔で答えている新社長は、いつもとは雰囲気が違うが、間違いなくみさをにプロポーズしたあの平森だった。
みさをは雷に打たれたようなショックを受け、思わず「ああ」と声を漏らした。
なぜ平森が? 今までみさをのことを騙していたのか。でもなんのために? 巨大IT企業の社長がそんなことをして何のメリットがあるのか分からない。そもそも平森は、みさをがWin-tecの社員だと知っているのだろうか。
気づけばみさをの指は細かく震えていた。
「萩野、どうした? 顔色が悪いぞ」
勝俣がみさをの顔を覗き込んできて、我に返った。
平森の意図はさておき、みさをにとってこの状況は最悪だ。極秘に準備してきた仕事を横からかっさらった会社の社長と付き合っているだなんて、内通者だと疑われてしまう。
だが、ここで黙っていて後からバレたら、それこそ言い訳がたたなくなる。
「あの……社長」
今言うしかない。みさをは覚悟を決めた。
「さきほど話した私がお付き合いしている男性というのは、彼なんです」
「彼?」
「そこに映っている平森透氏です」
「なん……だと」
今の今まで心配そうにみさをを見ていた勝俣の顔が、みるみる赤くなり鬼の形相に変わっていった。
「おまえがアンギスに情報を流したのか?」
「違います! それだけは天地神明に誓って。私は彼がアンギスの社長に就任したなんて知らなくて。彼とは仕事の話を一度もしたことがないんです」
みさをは必死に弁明した。
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