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4章
好きだ!
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「麻耶がいいなら…僕もいいでしょ?ね?」
ルイの囁く声が耳元をくすぐって片喰の肩が揺れる。片喰は何度も頷き、ルイの肩に手を当てるとそっと離れた。
弱々しくはにかむような笑顔にかかる黒髪が夜景を吸ってほどける。
片喰とルイは言葉もなくしばらくただただお互いを見つめ合い、どちらからともなく口付けを交わした。
「俺…死ぬかもしれない。毎日ルイに、名前で呼ばれたら……」
「えー、僕だって恥ずかしいよ。でも麻耶に負けたくないんだもん」
「麻耶はレイがそう呼ぶからそう呼んでるだけだ」
「レイにはもっと負けたくない!知ってるからね、片喰さんがレイにちょっと甘いこと」
「そ、そ、そんなことは……」
しどろもどろになる片喰に助け舟を出すようにタイマーが時間を告げて叫ぶ。タイマーが鳴れば戻っていくというシステムのようだ。
大体、20分程度だっただろうか。たしかに大きな観覧車くらいの時間だった。
ルイはタイマーを止めるとハンドルを握ってゴンドラをすぐに地上へと下ろし、足早に降りると大きく伸びをした。
「はーあ、アスクに感謝しないとだよ。今日で僕のわだかまりは全部なくなっちゃった」
ルイは薄暗い夜の気配の中でも白く浮いている。にこにこと屈託ない笑顔で笑うところが夜目の利きにくい片喰にもよく見えた。
「ルイ」
「うん?」
片喰は少し先を歩くルイに声をかけ、振り返ったところに勢いよく抱き着いて抱き上げた。
「うわ一っ!な、な、なに!?」
「好きだ!」
「え!?なに!?えぇ!?」
片喰はルイを思い切り抱きしめると、困惑する彼を抱いたまま足取り軽く家へと向かった。
家に着いたのは夜もそこそこ更けた頃だった。
出迎えてくれたアスクは満足げなルイと片喰を見て何も聞かずとも嬉しそうに尻尾を振った。
「今日は患者も少なかったし、麻耶の調子も良かったよ。もう寝てるけどね」
「ありがとうアスク。これ土産だ」
「えーっ!ありがとうかたばみ!」
花入りのクッキーをひとつアスクに渡し、麻耶とたくあんの分はそれぞれに用意したお菓子箱に仕舞い込む。
作ったお菓子やルイが患者からもらった薬子折りを人数分に分けた際、具合が悪くて食べられないことの多い麻耶も後で食べられるようにと片喰が木で作ったお菓子箱だ。
最初の頃は洋菓子は口に合わないだの菓子は食べないだの言っていたが、なんやかんやでたくあんと共有しながら食べているようだ。
片喰が帰宅して早々明日の弁当の仕込みを先にしてしまうかどうか迷っている間、ルイはもう眠そうだった。
ルイの囁く声が耳元をくすぐって片喰の肩が揺れる。片喰は何度も頷き、ルイの肩に手を当てるとそっと離れた。
弱々しくはにかむような笑顔にかかる黒髪が夜景を吸ってほどける。
片喰とルイは言葉もなくしばらくただただお互いを見つめ合い、どちらからともなく口付けを交わした。
「俺…死ぬかもしれない。毎日ルイに、名前で呼ばれたら……」
「えー、僕だって恥ずかしいよ。でも麻耶に負けたくないんだもん」
「麻耶はレイがそう呼ぶからそう呼んでるだけだ」
「レイにはもっと負けたくない!知ってるからね、片喰さんがレイにちょっと甘いこと」
「そ、そ、そんなことは……」
しどろもどろになる片喰に助け舟を出すようにタイマーが時間を告げて叫ぶ。タイマーが鳴れば戻っていくというシステムのようだ。
大体、20分程度だっただろうか。たしかに大きな観覧車くらいの時間だった。
ルイはタイマーを止めるとハンドルを握ってゴンドラをすぐに地上へと下ろし、足早に降りると大きく伸びをした。
「はーあ、アスクに感謝しないとだよ。今日で僕のわだかまりは全部なくなっちゃった」
ルイは薄暗い夜の気配の中でも白く浮いている。にこにこと屈託ない笑顔で笑うところが夜目の利きにくい片喰にもよく見えた。
「ルイ」
「うん?」
片喰は少し先を歩くルイに声をかけ、振り返ったところに勢いよく抱き着いて抱き上げた。
「うわ一っ!な、な、なに!?」
「好きだ!」
「え!?なに!?えぇ!?」
片喰はルイを思い切り抱きしめると、困惑する彼を抱いたまま足取り軽く家へと向かった。
家に着いたのは夜もそこそこ更けた頃だった。
出迎えてくれたアスクは満足げなルイと片喰を見て何も聞かずとも嬉しそうに尻尾を振った。
「今日は患者も少なかったし、麻耶の調子も良かったよ。もう寝てるけどね」
「ありがとうアスク。これ土産だ」
「えーっ!ありがとうかたばみ!」
花入りのクッキーをひとつアスクに渡し、麻耶とたくあんの分はそれぞれに用意したお菓子箱に仕舞い込む。
作ったお菓子やルイが患者からもらった薬子折りを人数分に分けた際、具合が悪くて食べられないことの多い麻耶も後で食べられるようにと片喰が木で作ったお菓子箱だ。
最初の頃は洋菓子は口に合わないだの菓子は食べないだの言っていたが、なんやかんやでたくあんと共有しながら食べているようだ。
片喰が帰宅して早々明日の弁当の仕込みを先にしてしまうかどうか迷っている間、ルイはもう眠そうだった。
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