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4章
ゴンドラ
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満腹もあり、少しうとうとと夢うつつになっていたようだ。ルイに優しく肩を揺すられ、はっと目を覚ますと世界はすっかり橙色に染まっていた。
「片喰さん、もう着くよ」
狭い車内で寄り添いながらそう小声で囁くルイに、片喰は一日楽しんだデートであることを急に実感して気恥ずかしくなった。
ほどなくして馬車はふたりを広場に下ろして、親切に観覧車の乗り口までの行き方を教えると足早に立ち去っていった。
「リニューアルする前、子供の頃に来たぶりだよ。大きいね」
「…俺の知ってる観覧車ではないな、どう見ても」
広場から乗り日まではもう少し歩くようだったが、大観覧車という名だけあって広場からでもよく見えた。
片喰の想像する観覧車といえば遊園地や大型ショッピングモールにある乗り物だ。丸いゴンドラが円を描くように上空に吊り上げられるホイール状のゆっくりとしたものである。しかし、目の前に見えるのは上空を様々な速度で好き勝手飛び回っているゴンドラだ。形こそ少し派手なだけで普通の観覧車のゴンドラだが、決まった道などはなさそうに見える。コーヒーカップのようにくるくる回転しているものもあれば上空でゆっくりとした時間を過ごしているものも、ジェットコースター並みに激しく上下しているものもある。
「操縦…って、あれ、自分で動かすのか?」
「うん。若者はスリリング味わうよね~」
自分の容姿を鏡で客観視したことがないようなルイの発言にも突っ込めず、片喰は絶句した。
「…お手柔らかに頼むぞ……」
「あんなに動かしたりしないよ」
苦笑するルイに手を引かれて片喰は渋々乗り場まで足を運んだ。
乗り場には夜景を見ようとたくさんのカップルが集まってきている。左側のレーンにはかなりの列が出来ていたが、右側は誰一人として並んでいない。その右側をルイはずんずん進んでいった。
「おい、ルイ…いいのか?別に並ぶぞ」
どこかのテーマパークのように高いお金で列をスキップする権利を買ったのかと思った片喰は慌ててルイを引き留める。
ルイは正直なところ金銭感覚がおかしい。薬や処置が庶民にとって安価か高価かの判断はつくが、自分の身の回りに対してはさらっと大金を使う節がある。片喰がある程度家にいるならもう一軒家を建ててもいいね、などと言い出したときには度肝を抜かれたものだ。どんなお金持ちなのか想像もつかない。育ちがほぼ孤児で、親成中をたらいまわしにされ貧しかった片喰からするとルイの裕福な生活には驚かされてばかりだ。
ただ、ルイは不思議そうな顔をして首を傾げた。
「並ぶも何も、属性指定がない方には列がないよ」
「え?ん…?」
訳が分からないまま長蛇の列を尻目に受付まで進む。乗り口のお兄さんはルイと片喰を見るなり、心配そうな表情を浮かべた。
「こちらは属性指定ができないゴンドラ乗り口です。一切の責任は負えませんが大丈夫ですか?」
「はい」
ゆっくりと降りてきたのは表面がゆらゆらと水面のように揺らめき夕日を反射する神秘的なゴンドラだ。隣のレーンには随分とデザインの違う真っ赤なゴンドラが提供されている。
なるほど、自分の得意な属性のゴンドラを指定して操作するのが一般的なようだ。
ルイは恐らく水属性用であろうゴンドラに躊躇なく乗り込むと片喰を手招きした。
「では快適な空の旅を!」
お兄さんに見送られてゴンドラは浮かび上がる。
突然の浮遊に驚いた片喰はとりあえずルイの正面に腰かけた。
車内は乗ってきた馬車と違って広く、中央にタイマーのようなものが付いた操作ハンドルが設置されている。
「片喰さん、もう着くよ」
狭い車内で寄り添いながらそう小声で囁くルイに、片喰は一日楽しんだデートであることを急に実感して気恥ずかしくなった。
ほどなくして馬車はふたりを広場に下ろして、親切に観覧車の乗り口までの行き方を教えると足早に立ち去っていった。
「リニューアルする前、子供の頃に来たぶりだよ。大きいね」
「…俺の知ってる観覧車ではないな、どう見ても」
広場から乗り日まではもう少し歩くようだったが、大観覧車という名だけあって広場からでもよく見えた。
片喰の想像する観覧車といえば遊園地や大型ショッピングモールにある乗り物だ。丸いゴンドラが円を描くように上空に吊り上げられるホイール状のゆっくりとしたものである。しかし、目の前に見えるのは上空を様々な速度で好き勝手飛び回っているゴンドラだ。形こそ少し派手なだけで普通の観覧車のゴンドラだが、決まった道などはなさそうに見える。コーヒーカップのようにくるくる回転しているものもあれば上空でゆっくりとした時間を過ごしているものも、ジェットコースター並みに激しく上下しているものもある。
「操縦…って、あれ、自分で動かすのか?」
「うん。若者はスリリング味わうよね~」
自分の容姿を鏡で客観視したことがないようなルイの発言にも突っ込めず、片喰は絶句した。
「…お手柔らかに頼むぞ……」
「あんなに動かしたりしないよ」
苦笑するルイに手を引かれて片喰は渋々乗り場まで足を運んだ。
乗り場には夜景を見ようとたくさんのカップルが集まってきている。左側のレーンにはかなりの列が出来ていたが、右側は誰一人として並んでいない。その右側をルイはずんずん進んでいった。
「おい、ルイ…いいのか?別に並ぶぞ」
どこかのテーマパークのように高いお金で列をスキップする権利を買ったのかと思った片喰は慌ててルイを引き留める。
ルイは正直なところ金銭感覚がおかしい。薬や処置が庶民にとって安価か高価かの判断はつくが、自分の身の回りに対してはさらっと大金を使う節がある。片喰がある程度家にいるならもう一軒家を建ててもいいね、などと言い出したときには度肝を抜かれたものだ。どんなお金持ちなのか想像もつかない。育ちがほぼ孤児で、親成中をたらいまわしにされ貧しかった片喰からするとルイの裕福な生活には驚かされてばかりだ。
ただ、ルイは不思議そうな顔をして首を傾げた。
「並ぶも何も、属性指定がない方には列がないよ」
「え?ん…?」
訳が分からないまま長蛇の列を尻目に受付まで進む。乗り口のお兄さんはルイと片喰を見るなり、心配そうな表情を浮かべた。
「こちらは属性指定ができないゴンドラ乗り口です。一切の責任は負えませんが大丈夫ですか?」
「はい」
ゆっくりと降りてきたのは表面がゆらゆらと水面のように揺らめき夕日を反射する神秘的なゴンドラだ。隣のレーンには随分とデザインの違う真っ赤なゴンドラが提供されている。
なるほど、自分の得意な属性のゴンドラを指定して操作するのが一般的なようだ。
ルイは恐らく水属性用であろうゴンドラに躊躇なく乗り込むと片喰を手招きした。
「では快適な空の旅を!」
お兄さんに見送られてゴンドラは浮かび上がる。
突然の浮遊に驚いた片喰はとりあえずルイの正面に腰かけた。
車内は乗ってきた馬車と違って広く、中央にタイマーのようなものが付いた操作ハンドルが設置されている。
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