推しと俺はゲームの世界で幸せに暮らしたい!

花輝夜(はなかぐや)

文字の大きさ
上 下
74 / 96
4章

デート

しおりを挟む

翌朝、想像通りに仰天した片喰に起こされてアスクとルイはとんでもない二日酔いに悩まされることになった。

「うぅ…ドクター…アルコール抜いてくれない…」

「今抜くよ…」

普段であればパンとサラダとスープが用意される朝食も、ふたりの様子を見た片喰が気を遣って汁物メインの食事に変える。メニュー変更と散らかったボトルを片喰が片付けている間にルイは自分とアスクのアルコールを能力で抜き、ある程度身支度を整えた。

「なんだ、昨日部屋に来ねぇなと思ってたが、ふたりで酒盛りしてたのか」

「うんまぁ…ちょっとね…」

アルコールが抜けたからといって寝不足と不摂生の気怠さは抜けない。医者同士、水いらずの楽しい酒盛りを想像しているであろう片喰は自分が元凶になったことなど想像すらしていないようだ。
ルイの不摂生にも慣れた様子で、はしゃいでたんだな、など見当違いなことを言いながらボトルを回収している。

「…はよ…、藤さん、昨日は途中ですまなかっ……うわっ、なんか酒臭ェなァ…」

「ぴ!」

そうこうしているうちに麻耶とたくあんも病院の方から起きてやって来た。
ルイとアスクの表情が強張る。

「おはよう、麻耶。具合はどうだ?昨日ふたりで飲んでたみたいだから今日は朝も和食にしようかと思ってるんだが、食えそうか?」

ボトルを片付けた片喰は手早くエプロンをつけてもうキッチンに立っている。
麻耶はルイが見たことのないはにかんだ顔で少しだけ笑うとたくあんに乗ってキッチンの方まで移動した。

「うわ、朝から米炊くのか?こっちじゃァ贅沢品だろ」

「俺が和食好きでな。ルイが定期的に取り寄せてくれてるんだ」

「はァ…さすがお医者様だな」

キッチンからでも十分聞こえるふたりのはしゃぐ声にアスクはルイの顔を伺い、キッチンに視線を向け、またルイの顔を伺った。
これは不摂生やアルコールのせいではない。ルイの目が死んでいる。

「……ねえ、ところで麻耶ってかたばみのこと藤って呼んでんの?まじで?かたばみってファミリーネームどっちだっけ?」

「…片喰がファミリーネームだから、藤は個人の名前だよ」

「うわ…え…?こっちの人ならともかく、アジサイ文化って基本的にファミリーネーム呼びじゃなかった?個人名呼ぶのって親密な人だけだよね?うわ…」

今すぐにでもまた酒に逃げそうになるルイをなんとか抑えながらアスクは青ざめた。話を聞いていたときはルイの思い違いか、蜜月特有の独占欲が異常値になり何にでも嫉妬する現象かと楽観的に考えていたがあながちそうとも言い切れなさそうだ。

「……レイが育てたみたいだから、その影響かもしれないけどね…ほら、レイは誰でも名前で呼ぶから…」

ルイが口の中で自分を納得させるような言い訳を捏ね回す。
その説も有力であるという思いと、麻耶の性格を考慮した上で自分でも微妙に信じきれないようだ。

「それもだけど、麻耶が自虐とか嘲笑じゃなく笑えたことにもびっくりしちゃった…」

「僕はあんな風に笑ってるとこ見たことないけどね」

「…………かたばみにだけってこと?」

「…………」

アスクは追い討ちをかけてしまったらしい。
恋愛感情などを持っているかは定かではないが、少なくともたったひと月も経たないくらいで随分と懐いている様子であることは確かだ。レイのことが好きでなければこんなことにはなっていないだろうとも思えるが、アジサイの男は義理堅く情に厚い。側から見ていたら愛だろうという行動も、本当にレイを恩人だと思っているだけの可能性もある。

「麻耶が片喰さんのこと好きでも構わないんだけど…片喰さんさえ……僕は、その…」

縮こまるルイになんと声をかけていいか分からずアスクはただ額を擦り付ける。患者の前では明るく天使に振る舞っているルイの本当の性格をアスクはよく知っている。気にしがちでひとり悶々と自己反省するネガティブな根暗だ。こうなってしまった以上、どんな励ましをしても心の暗雲は晴れないだろう。
アスクはため息をつくとキッチンにいる片喰の方に声をかけた。

「ねえかたばみ!今日、ドクター休みだってさ!」

「えっ、アスク…」

「いいから。患者は僕が見とくよ」

片喰はフライパンから顔を上げてルイの方を見て、麻耶とたくあんに火を任せるとエプロンで手を拭きながらキッチンの方までやってきた。

「どこか悪いのか?」

「うぅん、普通に休日。だからさ、ドクターと出かけたらどう?最近ドクターは仕事と古城の往復ばっかりだし、かたばみも麻耶の介護と家のことで大変だったでしょ」

片喰は大変だと思ってもないだろう。
そんなことはわかりきっているアスクは否定される前にルイの部屋に入り、何かを咥えて片喰に渡した。

「ドクター、かたばみとここ行きたいって。かたばみも外出た方がいいよ!」

片喰は渡された冊子をめくる。見たことのない景色が描かれているが、これは片喰の知るところで言えば観光雑誌だろう。その中のいくつかのページにルイがよく仕事で使っている蛍光色の揺らめくブックマークが貼ってあった。
プレゼントにおすすめの魔導具ショップ、大きな花屋、行列のできるフグ鍋屋に綺麗な夜景が見られる観覧車、珍しい魔動物の展示。
どう考えてもデートスポットだ。
雑誌から顔を上げると目の前でルイは真っ赤になっていた。

「か…片喰さんと行きたいというか、僕がいつか行こうと思ってただけで…!」

「嘘ばっかり。かたばみとちゃんと恋人になった後でニコニコしながらブックマークしてたくせに」

アスクがルイを茶化して笑い片喰の方を見上げると、当の片喰は笑顔とも怒りともつかないなんとも微妙な顔をしていた。ルイは吐きそうになるほど早鐘を打つ心臓の音を誤魔化しながら雑誌を取り返す。

「…片喰さん…?だめだった…?」

「いや…全然だめじゃない…可愛い…尊すぎる……朝食食べたらすぐ行こう全部行こう」

片喰は早口で何かを捲し立てるとエプロンを脱ぎ捨ててキッチンへ急ぎ、普段であればこだわっている盛り付けもやや適当で食事を始めた。

「出かけンなら俺が片付けとくよ」

「ありがとう、助かる」

急に決まったデートにルイは思考がついていかないままアスクに引き摺られて部屋に詰め込まれた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

処理中です...