推しと俺はゲームの世界で幸せに暮らしたい!

花輝夜(はなかぐや)

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3章

今後のこと

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ルイに髪を乾かしてもらい身支度をして脱衣所の扉を開けると、あまりにも長風呂をしている片喰と少し目を離したらいなくなったルイを心配して扉の前まで来ていたアスクと鉢合わせた。

「あっ!ドクター!もー、どこ行ってたのぉ?心配したんだよぉ!」

「ごめんね。ちょっと片喰さんと話してて」

「話してて…?脱衣所でぇ……?ハッ」

曖昧な笑顔を浮かべて誤魔化すルイと今までに見たことをない気まずそうな表情をする片喰をアスクは高速で交互に見る。あまりにも驚いて動揺しているようだったが、瞳と同じ真っ赤な舌を出して匂いを確かめて何事かを全て分かったような素振りで何度も頷いた。

「ふぅ…ん」

「……とりあえずリビングに戻ろう。もう休もうかと思ってたけど…」

ルイは片喰を一瞥する。片喰は大丈夫だということをアピールするために大きく頷いた。

「これからのこと、もう少しだけ話してしまおう」

「へー、大丈夫なんだぁ?わかったぁ」

本当に何もかも見透かしたようなアスクが片喰によくやったとでも言いたげに擦り寄る。
片喰はアスクを押し返して視線を遮りながらルイに続いてリビングへと向かった。
リビングの机にはアスクが用意してくれたティーカップが置かれている。片喰が出して乾燥させストックしている茉莉花のお茶だ。
ルイが昏睡状態になって以降、眠りが浅くなった片喰に茉莉花のお茶を淹れるのがアスクの日課になっていた。

「はぁ…とりあえず…」

「ねえ、ねえ、どうなったのぉ?ドクター、片喰に気持ち言えたのぉ?」

「……アスク」

ルイと片喰が席に座るなりキラキラと輝く瞳と興奮して動く尻尾でアスクが詰め寄ってくる。
リビングの机から入り口の扉まで引きずるほどの体を持つ大蛇とは思えない、小動物のような動きと表情にルイは怒るに怒れないようだ。ただでさえ迷惑や心労をかけた以上こういった表情を曇らせるのも忍びない。

「後で話してやるから…先に、レイと…あの麻耶とかいうエクリプサーのことを決めてしまおう」

「うぅん…わかった」

アスクはほんの少しだけ不満の色を滲ませながらもおとなしく身を引く。
片喰はどこか安心した様子でお茶を啜り、まずはレイのことだと話し始めた。

「…レイは、あの様子だともう起きないのか?ルイの代わりに、その……死を待つような…」

「…僕が目覚めなかった原因が何なのかによると思う。レイの浄化が間に合うか、一度診察してみないことには…でも、話を聞くにおそらく失血とそのショックが大きいだろう。臓器の損傷もあるとは思うけど…」

ルイは柔らかな雰囲気と香りのリビングには似つかわしくないギチギチに詰まった本棚からとんでもなく分厚い本を取り出すと何事かを調べ始める。言語設定を日本語にしているため本の内容は全部読み取れるはずだが、片喰には何が書いてあるのかは全くわからなかった。医学的な本かとも思ったが能力的な事象も書いてあるようだ。
片喰はルイの邪魔しないように本を少しだけ持ち上げて表紙を見る。タイトルに当たる部分には「能力の内容と治療について」と書かれており、筆者にあたるところにルイの名があった。

「……これ、ルイの本か?」

「え?あぁ、そうだよ。僕の論文をまとめたものなんだ。とは言っても、僕とレイ以外にこの能力事象はないから…論文というよりは治療はこんなことができますよっていうメニューのような扱いになってるけどね」

ルイはなんでもないように目的のページを見ている。
すごい医者だとはもちろん知っていたが、世界にこんなにも分厚い著書を出すような医者なのだ。こんなに可愛く美しく儚い容姿をしておいてこの世でいちばんの凄腕医師であり、それはもうこの世界の宝である域である。ルイの凄さを改めて実感して片喰は震えた。
釣り合いが取れてなさすぎる。
たまたまルイのムータチオン・トレラントになったというだけで与えられていい関係性ではない。

「…聞いてる?片喰さん」

「あ、あぁ…すまん…何か言ったか?」

「もう…僕がレイを治療すればいいってことを話したんだよ。これ見て。失血で昏睡した患者を治療した実例だ。似たような状況じゃないかな?」

ルイは片喰を上目で見ながら症例を指差している。
その細い白魚の指を追って、小さく書かれた術後の休養期間数日という記載に片喰は不安で瞳をゆらめかせた。
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