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3章
ルイとレイの過去
しおりを挟む「僕とレイは親を早くに亡くしてね。早くに、というか…母は僕たちを産んだときに死んでしまったんだ。僕たちの毒のせいか、難産だったのか…それはわからないけど、回復では間に合わなかった。それで、家に仕えていたじいやに育ててもらったんだ」
「じいや…」
「うん。まぁ…そうだね。いいところの家の出なんだよ」
自分の人生では聞き馴染みのない単語に片喰はオウム返ししかできない。
古いお嬢様系のアニメでそんなような単語を聞いたことがある。召使、執事、そんなような類の人間のことだ。ルイは少しだけ言い辛そうにしていたが、取り繕ったところで育ちは隠せない。
アスクはどこか誇らしげにルイの周りで首を上下に振った。
「ドクターのお家は神と契約した強力な回復の能力を持つ僧侶の一族だったんだぁ!王家お抱え僧侶のハイリゲン家ね。僕はねぇ、ハイリゲン家にずっと仕える魔獣なんだよ。ね、かたばみ、知ってるでしょ?」
「もー、やめてよアスク……」
自信満々で自慢げな顔をするアスクの様子を見るによほど立派な家柄のようだ。片喰は必死にゲームでの名前を思い出すが、家柄、つまりはファミリーネームが出ていたのは王家だけでそのお抱え医師の名前などは設定がなかった。そもそも、王家ですら国を統治している王の名前が設定としてあるだけでお抱えがどうなどという詳細な情報はなかったはずだ。
目を白黒させる片喰の様子にアスクはため息をついて首を振る。
「…そっか、エクリプサーを知らないかたばみが知ってるわけないか…」
「す、すまん…つまり…その…ルイの苗字は、ハイリゲンなのか…?」
「え?そうだよ。言ってなかったっけ?ごめん、僕あんまり家のこと好きじゃなくってさ」
ルイとレイのことが知れるだけだと思っていた片喰の体に衝撃が走る。
ルイの苗字がハイリゲン。つまり、この世界におけるルイのフルネームはハイリゲン・ルイということだ。
知らなかった推しの新しいことを知ってしまった。
ルイが目覚めてその喜びすら享受しきれていない体に与えられたあまりにも強烈な刺激で片喰は軽い眩暈がした。
「ハイリゲン家は強烈な祈りの回復の力を宿した女が生まれるはずなんだ。だけど、僕たちはどちらも男で、しかも祈りの回復の力はなかった。レイに与えられたのは自分を犠牲にする移し身と浄化、僕に与えられたのは内臓を抉り直接手を下して傷を治す力…」
「祈りの回復より強力な回復だよ、ドクター。落ち込まないで?」
言い辛そうに話を進めるルイにアスクが寄り添って慰める。片喰も何か言うべきかと口を開いたが、まだ苗字の衝撃を引きずっていることと、経験してきた世界の理とあまりに違うため何を言えば慰めになるのかすらわからなかった。
ただ曖昧に頷いて話の続きを促す。
「…それで……一応、浄化ができるレイが後継という形になったんだけど、なんせ僕たちは猛毒持ちだから…後継を、産んでもらうことが困難なんだ。ムータチオン・トレラントが現れないと」
ルイに真っ直ぐな目線を向けられ、片喰の肩が小さく震える。
「だから結構…家ではじいや以外に味方がいなくて…それに、お家の危機と見て他の回復系の家系が殺しに来たり…僕たちは二人で守り合って生きてたんだ。守り合って、慰め合って…レイはいい兄だったからこそストレスだったと思う。家のためになんとかしなければという気持ちと、僕を守ろうという気持ちで板挟みになって…それで……」
ルイの表情が曇り、じわじわと耳に赤みが差す。この後に何が続くかを少しだけ予想できてしまった片喰は聞きたくないような聞きたいような気持ちで生唾を呑み込んだ。
ただ、聞かないわけにはいかない。ルイの全てを受け止めるという覚悟はとうの昔にできているはずだった。
「その…レイ、が、家の者に…無理矢理…女と、関係を持たされて…女は即死した。その件があった後、レイはとうとうおかしくなって…気が狂って…僕に、異常に依存するようになったんだ」
「え……」
「多分、もう僕を守るっていうことに縋らないと生きられなかったんだと思う。今でこそああだけど元は穏やかでよく笑う人だったんだ。…それで、僕自身への執着がレイの中でも複雑になって、今みたいに愛しているのが兄弟を超えて…その……か、か…体の関係に……」
リビングに沈黙が幕を下ろす。
アスクは言い辛いことを言ったルイのフォローは片喰だぞとでも言うように片喰に何度も目線を送る。
片喰は薄々気が付いていたことがここで本当にそうだったと明らかになった衝撃を必死に噛み殺していた。
以前にルイと初めて宿に泊まった際のルイの様子や発言から、相手はレイではないかと勘付いていた。ルイと同じような猛毒持ちで男。毒属性は少ないとはいえ、いないわけではない。ただ、知れば知るほどルイと同じくらいというのは本当に存在するのだろうかと疑問に思っていた。
双子ならば同じくらいの毒性を持っていても不自然ではない。
しかし、婚姻システムに性別などを問わないこの世界での感覚はいざ知らず、現代で育った片喰の常識には双子同士の近親相姦は簡単には受け入れられなかった。
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