推しと俺はゲームの世界で幸せに暮らしたい!

花輝夜(はなかぐや)

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2章

迫る期限

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追われなかったことを意外に思いながらルイはできる限り急いで城から出る。緊急転送用の十字架も持っていたが自宅が壊れていることと、アスクすらいないせいで転移ができなかったのだ。
流石に両手足のない男を連れて毒持ちの医者が登場すれば大騒動になるだろう。

「シュメルツミッテル」

「はぁ…はぁ…ありがとうルイ……」

間に合わせの鎮痛作用をかけたが、今の残りの魔力量で、しかもこの後すぐに手術をするため残さなければならない場面での鎮痛にどれほどの効果があるかはわからない。
気を失うどころか興奮がおさまってしまえばショック死するくらいの痛みに片喰がどれだけ耐えられるか、生死に関わる量の出血にどれだけの時間が残されているのか、ルイは焦るばかりで正しく読み取ることもできなかった。

「とりあえずカプセルに入って」

「あぁ…」

ルイはボロ布になった白衣からカプセルを地面に叩きつけて出すと中に片喰と片喰の手足を寝かせて入れた。
ルイ自身はブランコ部分に腰掛けてしっかりと縄を握る。この縄からカプセル部分に回復を送り込むが今回の負傷はそのくらいでは追いつかない。
どこかで実際に手術をする必要があるが、最期の森からルイの診療所までは最速の乗り物であるカムレヴァを使っても数時間はかかる。
全ての魔力を使えば一命は取り留める可能性もあるが手足は二度とくっつかないだろう。

「どうしよう…どこかで……人がいなくて、ベッドがある…」

城の外は真っ暗で満点の星空が広がっていた。もう夜も更けている。
森を抜けてすぐの診療所も閉まっているだろう。
それどころか、ポーションを売っている店や普通のショップももう開いてはいない。
こんなに暗い森でまさか手術を始めるわけにもいかない。
ルイは途方に暮れたまま森の上空を飛んだ。
片喰の鼓動が弱くなるたびにカプセルに積んであった試験管からポーションを飲み、魔力を最大限送り込む。ギリギリで命を繋ぎながらなんとか森を抜けて近くの街までやってきた。
普段であれば活気のありそうな街並みも、もうすっかり寝静まっている。

「下手に探し回るより…診療所までいちかばちか帰るか…?」

判断に迷うルイの目に、煌びやかなネオンで彩られたいかにも目立つ看板がうつった。派手なライトを煌々と浴びるどこか下品で大きな宿だ。
少し前に片喰と利用したことのある宿と同じような雰囲気だった。

「あそこは……個室で、音も響かなくて、大きなベッドがあって、水場があって…」

ルイの必要とする条件が満たされていく。
店員がおらず、機密性や防音性に優れた宿はこれ以上とない場所だ。
ルイはカプセルを降下させていやらしい光に照らされる宿へと入っていった。
受付の利用方法は前回と同じで、前金を払って鍵を受け取るシステムである。片喰をカプセルに入れたままルイはそれを引きずって案内板が光る部屋まで連れて行った。
部屋は少し雰囲気の異なる壁紙が貼られているだけで、前回と同じような間取りのところだった。不必要にムーディな音楽を止めることもなく、部屋に転がり込んだルイはすぐにカプセルを開けた。

「片喰さん!大丈夫?」

片喰はルイの問いかけに緩慢な動きで瞼を上げた。
しかし、動くことも声を出すこともできずにルイを見てすぐに瞳を閉じる。
魔力が尽きてきているのか、片喰の手足を縛る植物は少しずつ緩んで出血が続いていた。下に敷かれているクッションは滴るほどの血で染まり千切れた片喰のスーツも変色している。
手を差し伸べて頬に触れるが、死人のように冷たかった。

「意識レベルが低いな…体温も落ちてる…ここには輸血もないけど、僕の血は…」

ルイはカプセルを浮き上がらせると片喰をベッドに寝転がせた。
カプセル常備のポーションを数本全部飲み干し、部屋にある精力剤や魔力補助のドリンクも片っ端から取り出して口の中にねじ込む。
医者としてはあるまじき行為だが、ただでさえポーションの効きにくい体に市販のものなどどれほどの効果があるのかはわからない。
何より今必要なのは膨大な魔力と集中力だ。
何度か深呼吸してルイは片喰の手足を持ち上げた。
片喰の手足を包んでいたルイの保護膜がパチンと音を立てて弾ける。

「……ナート・エルティン!」

ルイは脂汗の滲む額を気にもせずに体の部位を元の場所にねじつけて全身から揺らめく紫色の炎を上げた。
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