推しと俺はゲームの世界で幸せに暮らしたい!

花輝夜(はなかぐや)

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2章

灰色の背中 ※微グロ注意

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成人男性などすっかり入ってしまうほど大きな顎を開いて仰け反り、勢いをつけてルイに振りかぶる。

「ルイ!」

「う………ァ…!!!」

爆発音と共にルイがいたところに巨大な蛇の口が降りかかる。
ただでさえルイの血液で腐敗していたその場には抉れた大きな穴が空き、一階の部屋らしきものと繋がった。
寸でのところで回避したルイは爆風で吹き飛ばされて床を転がる。治療中の腹から指が抜けると魔力も飛び散ってしまいなかなか回復は進まない。
起き上がって次の衝撃に備えようとしたルイは目の前が真っ暗になってその場に崩れ落ちた。
異様なまでの痛みによる脳の萎縮と、貧血だ。

「く…そ……」

目の前に片喰がいる。
助けたい人はもうそこにいるのに、このままではただ死ぬだけで片喰は助からない。
鎖だけでも外したいと片喰に向かって足を踏み出すが、体を支えるはずの足はもう力を持たずどれだけ叱咤しても言うことを聞かなかった。
ホテプの体がルイに迫る。
治療が間に合わない。間に合っても、逃げる時間まではない。

「手足もぎ取るだけ。じっとして」

濡れたように緑に光る黒曜の鱗が視界を覆う。

「ルイ!逃げろ、レイ…!やめてくれ…!くそ…この鎖…!」

掠れた声で片喰が叫ぶ。
火照りと倦怠感の残る体で、過敏になった肌が痛いと叫ぶのをよそに片喰は鎖を引っ張る。
柱側を破壊しようと試みるも、石でできた丈夫な柱は能力も使えず傷もつかなかった。
レイはぐったりと倒れた麻耶の体を衝撃から離すように引きずるだけで、制止はしなかった。

「ルイ…!」

手足を取られるだけでも医者のルイにとっては死と同然のことだ。その上、この出血量の中で追加で体を取ったらそれだけでは済まない。
ルイが闇に覆われて呑み込まれていく。
白い光が射干玉の黒へと吸い込まれていく。
思いついて蔦を足から生やして地面を這わせたが、もう間に合うはずもない。
ルイは迫り来る顎を呆然と眺めた後、片喰を見て何かを言いたげに眉を下げて薄らとした笑みを浮かべ、小さく口を動かした。

「る…」

咄嗟に唇の動きを目で追う。
動揺して揺れる視界でルイの笑顔がこびりつく。
しかし、巨体が邪魔してルイを闇で覆い尽くし最後までは読み取れなかった。

「ルイ!…やめろ!」

もう埋め尽くされてしまったと思えたぬらりと蠢く闇の隙間から、一瞬紫色の光が覗く。
ルイのアメジスト。
最後まで笑みを浮かべたルイの瞳。
ほんの刹那だけ見えた、闇を見上げたそのルイの瞳。


それは片喰に笑いかけたのとは全く違う、ひどく怯えた恐怖の色を湛えていた。


「——————————————————!」

片喰の中で胃がひっくり返るほどの激情が湧き上がる。
淡い緑の瞳が沸騰し、両腕、両足からおびただしい量の植物の蔦が光よりも速く生え揃い手足を覆った。

「ルイ!!!!!!」

真っ赤な飛沫が飛ぶ。
背後で爆発した脅威的な魔力に気を取られて振り返ったホテプは次の瞬間、体に強烈な痛みを感じてもんどりをうって倒れた。

「あああああ!」

「!?ホテプ!」

何が起こったかわからないレイの引き攣れた叫び声で、ルイはぎゅっと瞑っていた目を恐る恐る開ける。

「はぁ、はぁ…」

「え…?」

霞む視界に飛び込んできたのは闇ではない、大きな背中。
毎日パリッと張って皺ひとつない灰色のスーツも、撫で付けた黒髪も、もう見る影もないほどくしゃくしゃに寄れているがすっかり見慣れた姿だ。
大きく上下する肩にまで伸びた植物の蔦は今まで見たことがないほどの量が巻き付いている。
肩越しに振り返った薄い緑の瞳と安心させるような笑顔がじわりと滲んで歪んだ。

「か…かたばみ、さ…ん……」

「大丈夫か?ルイ…」

「片喰さん、枷は…」

ホテプは片喰が放ったであろう大木に貫かれ棘の生えた蔦に巻きつかれて身悶えしているが、ぱた、ぱたと片喰から滴る血はホテプの返り血にしては量が多い。
手袋とブーツのようになっているしっかりと巻き付いた植物は完全に両手足を覆い尽くしていた。

「……なんとかなった」

「まさか、外したときに怪我してるんじゃない!?見せて!すぐ…」

「大丈夫だ、ここから出る方が先決だろ」

片喰はホテプを睨みつけてルイを大きな葉のついた蔦で丸め込んで持ち上げる。ここまで上手に植物を使いこなしているところは見たことがなかったルイは目を丸くしてされるがままになった。
ホテプに駆け寄って棘を外していたレイはルイが連れ去られそうになるのを見て眦を吊り上げて立ち上がった。

「藤!どうやって……」

「…ここまでやったら、もうだめだろ」

片喰は軽蔑の目でレイを見て踵を返す。
麻耶は倒れていて、ホテプは棘の蔦と大木に貫かれて身動きが取れない。レイだけで戦えるはずもなく、片喰はゆっくりと扉に向かって歩き始めた。ルイを包んだ植物が片喰に従うように蔦を這わせてついていく。
一歩踏み出すごとに血が落ちる。
片喰が無事だったことで安堵しいていたルイは、青ざめて脂汗を浮かべる様子を訝しんでふと後ろを振り返り、先程まで片喰がいた場所を見た。
鎖は相変わらず柱に繋がっている。
ホテプに木を刺すよりも前であるはずの鎖周囲は赤く染まっている。
その血溜まりの中に、何かが落ちていた。

「…?」

靴と布切れだ。
靴と、布切れ。その中にある。

「…っ!?片喰さん!」

一瞬息が止まったルイは即座に葉から抜け出し、前を歩く片喰に駆け寄る。
片喰の制止も受け付けずに手足に巻きついた蔦を引き剥がした。

「—————————……!」

細い蔦で肌が白くなるほど強く巻きつけていた植物の先にあるはずの手首は、足首から先は、どこにもなかった。
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