推しと俺はゲームの世界で幸せに暮らしたい!

花輝夜(はなかぐや)

文字の大きさ
上 下
42 / 96
2章

ルイの回復

しおりを挟む


片喰の後ろにはレイがいた。光る鎖と頼りない足取りの片喰を支えるようにして立っている。どこかへと連れて行かれる最中のようだ。
自分の城で扉が崩れるほどの戦いが起きているというのに表情ひとつ変えず、興味もなさそうにしていたが、片喰が叫んだことでそこにルイがいると気付いた。

「ルイ!ルイ!」

「ルイ…?」

覚束ない足で走ろうとする片喰の視線の先を見る。崩れた部屋いっぱいにいるホテプの向こう側に、壁に背を預けて血を流すルイがいた。
レイは暴れる片喰の鎖を部屋の隅にある柱に括り付けるとホテプに声をかけた。

「ホテプ…お前」

「あっレイ!ねぇ~狙い外して足じゃなくてお腹突き破っちゃった。治せるかなぁ?」

「お前が…やると、こうなる…まぁやは、どうした…?」

レイは少しだけ呆れたようにホテプを見上げる。ホテプは大きな尾の先で部屋の隅を指した。

「なんかルイに遅れをとって、うっかり劣属性が出ちゃったみたい。あそこで死にかけてるよ」

麻耶は力なく寝かされている。死体だと言われても信じてしまうほどぐったりとしているが、離れていてもわかるほど肩で息をしている。
レイは麻耶に駆け寄ろうとして足を止め、ルイを見た。
麻耶の症状を引き受けてはルイの治療ができない。ルイの治療を引き受ければ麻耶の治療が遅れる。どちらも今にも息が止まりそうで、レイには一瞬の逡巡があった。
ホテプはそれを見て意外そうに目を丸める。

「レイ?ねぇ、ルイ死んじゃうよ」

「あぁ…」

促されてルイの方に足を踏み出した瞬間、目の前に閃光が迸った。
麻耶の温かく鋭い光とは違う、どこまでも清廉で穢れのない真っ白な光が部屋を満たす。あまりの眩しさにホテプは仰け反り、レイは目を細めた。
部屋の柱に繋がれて緩慢な動きで足掻いていた片喰も動きを止めて顔を上げる。
光の中に、ルイがいた。
ざわめく髪は光を飛ばし、白魚の腕は蛇の鱗のように光を虹色に乱反射している。腹から滴り落ちる赤い雫と肉塊だけが色を持ち、何もかもが目が痛むほどの白銀に変わっていく。
真っ白な光に釘付けになった片喰の目に、睫毛を振るわせながら開かれたルイの色のない瞳が映った。

「ヴィアスト・エスティン!」

舞踏場に響き渡るルイの声と共に大量の流星群が光で光を上塗りした。
紫や桃色にチカチカと光る星屑たちは突風を伴ってルイの体に集結する。
ルイは自分の腹を手でかっ裂いて臓物に指を突っ込んだ。

「かっは……」

「ルイ!!!!!」

眩しさで眩む視界で自傷行為を行うルイを見た片喰は絶叫した。引きちぎろうにも鎖はしっかりと繋がっていて虚しく金属の音を立てるだけだ。感度が上がった体には鎖の食い込みすらも激痛になり、片喰は呻いた。
ルイの体に集まった星屑が指を入れた体内に吸い込まれるのに続いて周囲に撒き散らされた光が居場所を見つけたかのように堰を切って流れ込んでいく。
そこで片喰は、それがルイの回復だと気が付いた。
手を翳すだけではない、ねじ込んで血まみれになってグロテスクだが、集まって流れ込んでいる周囲の光は確かにルイの魔力だった。

「る…い、お前…自分で自分の……!」

しばらくこの世界で暮らし、訓練をしてある程度魔力が使えるようになって初めて知ったことがある。
自分の体にある魔力は水のように体内を流れているということと、ルイのように何か、誰かが対象になる能力は自分には使えないということだ。
調剤の失敗で爆発に巻き込まれたときもルイは自分自身の傷を自分で回復はしなかった。
深くは語らなかったが、普段は自分の体を媒介して使う能力を、一度外に出して媒介なしで本来の媒体物である自分自身に使うというのは難しいということだ。
死ぬときは死ぬ運命だからね、と少しだけ寂しそうに俯いたルイの笑顔が頭を過ぎる。

「片喰さ……っ」

麻酔を打てば意識を失ってしまう。麻酔なしで外科治療の光を放ったルイは抉られる感覚と焼ける熱で迫り上がるものを必死に抑えた。
眩しさでやられていたレイが顔を顰めて何度か瞬きをする。じわっと黒い霧が立ち上り、網膜の損傷はすぐに浄化された。

「死なない、のは…いいけど、回復され切ったら…困る。ホテプ」

「はーい」

ホテプは尾を振って振り返り、光に包まれるルイに向かって進んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

虐殺者の称号を持つ戦士が元公爵令嬢に雇われました

オオノギ
ファンタジー
【虐殺者《スレイヤー》】の汚名を着せられた王国戦士エリクと、 【才姫《プリンセス》】と帝国内で謳われる公爵令嬢アリア。 互いに理由は違いながらも国から追われた先で出会い、 戦士エリクはアリアの護衛として雇われる事となった。 そして安寧の地を求めて二人で旅を繰り広げる。 暴走気味の前向き美少女アリアに振り回される戦士エリクと、 不器用で愚直なエリクに呆れながらも付き合う元公爵令嬢アリア。 凸凹コンビが織り成し紡ぐ異世界を巡るファンタジー作品です。

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

処理中です...