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2章
エントランスでの戦い
しおりを挟む鼓膜を震わせるほどの衝撃音と爆風の中を、木っ端微塵になったドアの欠片と共に転がり中へと入る。
遥か高い天井に爆音が乱反射して建物いっぱいに衝撃が響き渡った。
「きゃあ!」
「何事だ!?」
受け身をとってすぐに起き上がったルイは咄嗟に周囲を見回す。
真っ赤な絨毯が敷かれたエントランスにはルイが来ることがわかっていたかのように武装した人々が待ち構えていた。爆風で千切れんばかりに揺れたシャンデリアは暗く、全貌はわからないが数十人はいるだろう。
正面にある舞台のような階段から先はエントランス全体をぐるりと囲んだギャラリーに繋がっており、そこには所狭しと人が詰まってルイを見下ろしていた。全員が神に仕える者の証である外套を身にまとっている。
「白銀の髪に紫の瞳…外科医、ルイだ……!」
武装したひとりが砂塵の中で立ち上がったルイを見て叫び、その声に反応してエントランスにいた部隊がすぐに鈍器や属性武器を持って走り寄る。
迫る人々に構わず、ルイは大きく息を吸って思い切り叫んだ。
「片喰さーん!!助けに来たよ!すぐ行くから!」
建物を震わせ、耳朶を劈くほどの声に部隊が一瞬怯む。
ルイはその隙に重心を低く落とすとまとめて数人の足を払い、混乱して崩れ落ちる人々をブーツのヒールで踏みつけた。
「こいつ…!」
踏んだ人の体を台に大きく跳び上がり空中で旋回して遠心力と重力で蹴飛ばして潰す。火をつけた槍を振り回す人の脳天に着地して槍を弾き、飛んでくる矢を仰け反って避けたルイは無から速度を上げるとほとんど瞬間移動の速さで弓士の背後に回り込んで手刀を首に叩き込んだ。
「なんて身軽なんだ…!?医者だろ!?」
ルイの動きを目で追えなかった部隊は倒れた仲間を端に寄せると、階段からギャラリーへ駆けるルイを追いかけた。
ルイは脇目も触れずに修道士のところにまで跳躍し、身を翻して跳躍した。
「あぁ…!」
「ルイ様………」
ギャラリーに鮨詰めになっていたのは僧侶と呼ばれる回復職の者たちだった。
白衣をはためかせながらギャラリーの欄干に着地したルイは僧侶の視線を一身に受ける。回復を行う者にとって、絶対的な治癒能力を持つ奇跡の医者であるルイは憧れの存在だ。
「何してる!負傷者がいるぞ!早く回復しろ!そいつをそこから落とせ!」
ルイを追いかけて階段を登ってきた部隊から怒号が飛ぶ。
僧侶たちは実際に目にした憧れのルイと敵対することを躊躇して困ったように眉を下げた。
「ルイ様、私たちは…」
「大丈夫。わかってるよ」
ルイは痛みを庇って精一杯優しく聞こえるように声を絞り出した。
僧侶たちは皆、色とりどりのオッドアイだった。
僧侶だけでなく追いかけてくる部隊も全員が左右で異なった色の瞳を携えている。
今この空間にいるのは、ルイ以外全員がエクリプサーだった。
「どけ!突き落とせ!」
「回復しないとレイ様になんと言われることか!」
興奮した部隊に声を荒げられてた僧侶たちははっと息を呑む。泣きそうな目でルイを一瞬見上げ、覚悟を決めたように回復の祈りを始めた。
何十人もの僧侶の祈りで暗いエントランスには輝かしい光が差し込んでくる。淡い光の粒はルイに蹴飛ばされ潰された兵士に漂い纏わりついた。
「…ごめんね。僕自身、やっぱりここから狙われるって辛いものはあるんだけど」
その光景を見てルイは欄干から跳び上がり、僧侶を数人蹴り飛ばして着地するとポケットから球体を取り出して床に思い切り叩きつけた。
球体が割れると勢いよく桃色の煙が吹き出してエントランス中に充満する。
「わぁ…うっ……」
「ゲホッ、ゲホ……!き、さま…」
その煙を吸い込んだ人々は、次の瞬間にはその場に昏倒した。
桃色の煙に倒れゆく人々の中でただひとり平気な顔で立っているルイは、悲痛な面持ちで彼らを見下ろした。
「…死にはしないように調合してある。絶対助けに来るから」
ルイは解毒の瓶をいくつかその場に置いてエントランスの奥へと駆けた。
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