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2章

別れの古城

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古城前の森に着いた頃には陽が傾き始めていた。
森の中には西陽すら届かず、どこまでも暗く、人が入ってもいいものではなかった。死の気配が手招きしながら命を刈り取る瞬間を待ち構えているようだ。
ルイの白魚の手足や白銀の髪はその中でぼんやりと光を放って輝いている。
手にしているランプだけを頼りにひたすら奥へ奥へと進むが、同じような木ばかりで方向感覚はとっくに失われている。
時間もわからないまま、ルイはただ片喰のことだけを思い浮かべて足を動かした。

「はぁ、はぁ…こっちだと思うんだけど…」

ルイが持つランプは炎が青や赤に色を変えながら揺らめいている。魔力探知で人探しに特化した遭難者救助用のランプで、青くなった方へと足を進めていくと遭難者が見つかる仕組みになっている。
片喰の魔力を辿っているため方向としては合っているようだが距離感や時間感覚はわからない。漠然とした不安を胸に、火で暖をとりながら進んでいく。
脚が疲れて一休みしようかと考え始めたところで、遠くにぼんやりと滲んだ灯りが見えた。

「…!城……」

灯りに向かって駆けていくと、急に視界が開けて優美な湖が視界いっぱいに広がった。
波ひとつない穏やかで静かな水面には古びた真っ黒の古城がもうひとつあるかのように映っている。住んでいるのは幽霊だけだと言われても納得がいくほど古く錆びて悪趣味な装飾が施された城からはゆらゆらと光が漏れていた。
見上げても先が見えないほど大きな尖った城だ。これほど大きくても、上は暗雲に、下は手前の鬱蒼とした森に隠れて普段は姿すら見えないのだから恐ろしい。
ルイは城のすぐ近くまで行くと自分の何倍もある門の陰に隠れて中の様子を伺った。
見張のようなものはおらず、レイの姿もない。静かに忍び込んで周囲から見て回るも片喰は見当たらなかった。

「片喰さん…」

アスクの様子から、無理矢理連れ去られたのだろうということは想像がつく。
アスクには大丈夫だと声をかけたものの、ルイはこの城を今すぐにでもめちゃくちゃに荒らして片喰を探して叫び回りたかった。焦りで心臓が口から飛び出しそうになっている。
戦闘が得意ではない以上、ルイひとりで何人いるかもわからないこの大きな城に立ち向かうのは得策ではない。それは誰よりもルイがよくわかっていた。
しかし、片喰の身に万が一のことがあれば。
ルイの脳裏にエクリプサーの木で貫かれた片喰の姿が過ぎる。流れ出る鮮血と意識を失った姿と、起き上がって抱きしめながら泣く片喰の温もりを思い出してルイの血液が沸騰する。

「…迷う必要はないよな。行くぞ、片喰さんの命に代えられるものはない」

ルイは白衣からまた試験管を取り出してポーションを飲み干すと、一気に正面玄関まで駆け、突風の勢いのまま重厚なドアを蹴破った。
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