推しと俺はゲームの世界で幸せに暮らしたい!

花輝夜(はなかぐや)

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1章

エクリプサー

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左右の目が違うのはいわゆるオッドアイというものだ。
ゲームのキャラクタークリエイトではできなかったはずだが、実際はこういった例もあるのだろう。
派手な着物にざんばらの髪、いかにも傾奇者といった風貌の青年だ。右の鮮やかな伊吹色と左の薄い緑色の瞳が個性に拍車をかけている。
その瞳と視線が交わり、ルイの身体に緊張が走った。

「…お前、エクリプサーか…?」

「…」

青年は一瞬険しい顔をしてふと光を弱めた。表情は見えなくなり互いの下半身辺りのみがぼんやりと照らされている。
何か光源を持っているようには見えず、彼の手自体が光を放っているようだった。

「診せてみろ、僕は医者だ」

「…?おい!」

ルイは片喰の後ろから身を乗り出して青年の方に近付く。
攻撃を仕掛けてくる何者かもわからない人に近付くのは危ないと腕を掴むが、ルイは振り払って青年に駆け寄ってしまった。

「医者…?どこの医者だって?森前の街には医者なんか…」

「僕は中央街から来た。中央街の医者だよ」

片喰はルイを守るようについていく。距離を縮めても、青年は攻撃をしてこなかった。

「中央街、の…医者…?中央街の医者は…」

「外科医の方のルイだ。知らない?」

ルイは青年の手を掴む。青年はしどろもどろにひどく狼狽しているようだ。
手の光が安定せず、点滅を繰り返す。ルイが掴んだ腕が上がりルイと片喰の顔を間近で照らし出す。同時に、青年の顔もよく見えた。
青年は驚愕の表情でこちらを見ている。

「……れ…レイ…………」

「は…」

「うわぁぁぁ!」

青年は突然暴れ出すと腕を振り払い大きく身を翻して後ろに飛び退る。
急な反応に唖然とするルイと片喰と距離から距離を取り、こちらに向かって円を描いた。

眩耀げんよう!」

目の前がぱっと真っ白になり、目の奥が焼かれたように一瞬の痛みが走る。
目くらましだと気付いた瞬間に片喰は掴んでいたルイの腕を力いっぱい自分の後ろに引いて投げ捨てた。

「っ、かたば」

光波こうは!」

「ミナ・ロバータ!」

きんと鼓膜を突き刺すように空気が震える。
目を開けていられないほどの光の中から更にまばゆい光がこちらに押し寄せ、同時に片喰は青年と自分の間に大きく伸びる蔦を張った。
蔦は光を吸収するように大きくたわむ。
質量がないはずの光を受け止めた衝撃で爆風が起こり、逃げ場のない洞窟は大きく声を上げた。

「うっ、わ、っ…かたばみさ…っ!」

「ルイ逃げろ!もと来た道を走れ!」

吹き飛ばされたルイに向かって片喰は叫ぶ。
蔦がミシミシと光に押される。

「逃がせない…逃がせないなァ、ルイ?…ルイは…だめだ、ルイは殺さないと…」

「く…そ……光属性か…!」

青年は光の向こうでうわごとのようにルイの名を呼ぶ。
片喰はルイが戻ってこられないように、ルイに攻撃が行かないように、自分とルイの間にもう一重蔦を這わせた。

「片喰さん!僕も…」

「わかんねぇがお前が狙いだルイ!早く逃げ」

ぱぁっとまばゆい光が目の前で弾ける。蔦が崩壊し、弾け飛んだ。

「くっそ…なんだお前…」

光の中で浮かんだように見える青年は、袂から筆と紙を取り出す。
体にも頭にも追い付いていない片喰はそれが筆と紙だとは理解できても、今それらを取り出す意味が推察できなかった。
その一瞬で青年は次の一手を繰り出す。

「麻耶の名のもとに、光芒こうぼう

青年の持つ紙が光を吸って膨らみ大きなゆらめく剣となった。青年をそれを大きく振りかぶる。片喰は寸でのところで転がって回避した。
洞窟の壁が削れ、ぐらぐら…と全体が大きく揺れる。
降り注ぐ瓦礫も避けるが、頭での処理は追い付かず、脊髄反射だけで動いているような感覚だった。

「思ったより身軽で邪魔だなァ、大男。なんだ?見た目にそぐわず暗殺者とかなのか?」

「くっそ…」

片喰は大きく息を吸い、体勢を立て直すと地面を思い切り蹴って跳び、腕にいっぱいの力を籠める。
筋繊維のひとつひとつまで力を流し肥大する筋肉を携えた腕を大きく青年に振り下ろした。

雷斧閣らいふかく!」

「武闘術!?」

ふくふくと大きな植物の肉と鋭い棘が拳を覆う。
青年は予想外と驚いた表情を見せるが、それも一瞬ですぐに飛びかかる片喰に手を向けた。

「……月桂げっけい

片喰の拳が青年に降りかかる。
ドクオオトカゲをも潰す力で青年も殴り飛ばすつもりだったが、止められた衝撃だけが腕を伝った。

「くっ…、あぁ!?」

そして、飛び退ろうとする片喰の拳に、受け止めた青年の腕から片喰と同じような蔦が走る。
自分の力が暴走したのかと片喰は力を緩めるも、蔦は明確な殺意をもって片喰の身体を這った。

「なんだ…!?」

青年は光を操っていた。だからこそ、属性は光だと思っている。
しかし片喰の腕から伝う蔦は、光を纏ってこそいるものの確かに木だった。

「絢爛、月桂樹!」

尖った蔦が片喰の身体にめり込む。
身動きがとれなくなったところに、ひときわ大きな木が光を放ちながら片喰の身体を貫いた。
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