わるいむし

おととななな

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 「ところで…」
 母親が切り出した。
 父親に向かって何やら目配せをすると、二人して居住まいを正す。
 「升谷さんがいる前でこんなこと…と思ったんだけど、いい機会だと思って話すわね。あのね奏汰、あなたにお見合いの話が出てるの」
 母親の言葉に、その場の空気がガラリと変わった。
 「お見合い?!」
 驚きのあまり思わず言ってしまった新汰だが、母親は新汰に構うことなく続ける。
 「お父さんの会社の取り引き先のお嬢さんでね、もうすっごく美人で頭も良くてモデルもされてるんですって。あちらも結婚願望が早くからあったみたいなんだけど、なかなか思うような方が見つからなかったらしくって。でね、お父さんの上司の桐谷さんいたじゃない?ほら、昔よく遊んでくれて可愛がってくれた桐谷のおじちゃん。あの方が奏汰の話をして写真を見せたらそりゃもうえらく気に入ってくれたらしくて、奏汰とならぜひ!って」
 シンと静まり返った空気の中、母親は満面の笑みを浮かべると更に続けた。
 「奏汰もいい歳だし、この前の電話でしばらくお付き合いしてる方もいないって言ってたじゃない?どうかしら、一度会ってみない?お母さん、すっごくお似合いの二人になると思うんだけど」
 鼻息荒く前のめりで話す母親の圧が凄い。
 すると、それを制するように父親が咳払いをした。
 「もちろんお付き合いするもしないも結婚するもしないも奏汰が決めることだ。父さんも母さんも奏汰の幸せを一番に願っているからな。でも、なんの理由もなく先方様に断りをいれるのはあまりにも気の毒だ。向こうはお前のことを本気で考えてるから余計に。だから気が合うか合わないかの確認のつもりでいい。とりあえず一度会ってもらえないか?」
 両親の期待の眼差しに、奏汰は珍しく口籠もっている。
 当たり前だ。
 二人の言い分はあまりにもずるい。
 まずお見合いの意思を確認せず、奏汰の事を他人に勝手に話すのはおかしい。
 たとえ親子でも、それはマナー違反ではないか。
 しかも相手は父親の会社の取り引き先の娘。
 断れば父親の会社の立場も父親自身の立場も危うくなる。
 そんな条件下でとりあえず一度会ってみてほしい、はほぼ結婚してほしいと言っているようなものではないか。
 頭の血管がふつふつと煮えてくる音がする。
 新汰はテーブルをバン、と叩くと同時に立ち上がった。
 「待ってよ!そんなの政略結婚と一緒じゃないか!!兄さんを理由する気!?」
 「あんたなんて事言うのよ!別に無理強いしないって言ってるでしょ!黙ってなさい」
 
 


 
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