わるいむし

おととななな

文字の大きさ
上 下
39 / 46

39

しおりを挟む
 猛スピードで流れていく外の景色を新汰はブスッとした表情で眺めていた。
 隣には兄がいて、唐揚げ弁当も美味かった。
 新幹線は時刻通りに出発したし、車内も混んでいなくて快適だ。
 だが、通路を挟んだ向こう側の席で兄と楽しそうに話している升谷の存在が全てを台無しにしている。
 「新汰、まだ怒ってるのか?」
 会話を止めた奏汰が訊ねてきた。
 「悪かったよ。でも新汰が行かなかったら母さんがまたうるさく言うだろうと思って」
 何度目かわからない謝罪にも新汰はツンとした態度を貫く。
 「母さんは兄さんが帰ってきたら満足だよ」
 「そんなことないだろ。しょっちゅう俺に新汰の事聞いてくるんだから」
 それはただ単に会話のネタとして聞いているだけだ。
 本当に興味があるわけではない。
 喉まで出かかったがさすがにそれを言うと卑屈すぎると思い、グッと飲み込む。
 と、兄が何かに気づきスマホを取り出した。
 「仕事の電話だ。ちょっと外してくる」
 奏汰はそう言うと、席を立ちデッキへと向かっていった。
 兄の背中を見送りながら新汰は小さくため息を吐く。
 新汰だってこんな風に拗ねたり冷たい態度なんかとりたくない。
 久しぶりに実家に帰省するのだから機嫌良く帰りたいとは思っている。
 だが、いきなり現れた升谷の存在にはどうしても納得がいかないのだ。
 これまで付き合ってきた恋人たちを新汰には紹介しても実家にまで連れて行くことなんかなかったのに…
 え…ちょっと待てよ、まさか…
 新汰の体から血の気が引いていく。
 なぜ一緒に実家に帰ることになったのかまだ理由を聞かされていない。
 奏汰と升谷は恋人同士…
 実家に連れて行くということはつまり、升谷が恋人だと両親に紹介するつもりなのかも…
 新汰の中に芽生えた恋心が悲鳴をあげている。
 今すぐにでも引き返したい。
 気持ちがずんと沈み、さっき食べたものがずん、と重く胃にのしかかってくる。
 すると、隣の席に誰かが座る気配がした。
 兄が戻ってきたのかと思ってチラリと視線を流す。
 だが、そこにいたのは升谷だった。
 「久しぶりだね、新汰くん」
 新汰の気持ちなんか全く知らないような微笑みで升谷が話しかけてくる。
 あからさまな嫌な顔をしてしまったらしい。
 升谷が新汰の顔を見てプッとふきだした。
 「あはは、ずいぶん嫌われてるなぁ」
 嫌われてると本当に感じているのかわからないほど升谷の口調は軽い。
 「俺、今あんまり話す気ないんですけど」
 新汰は態度を変えるつもりはないという意味をこめて答えた。
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

若旦那からの甘い誘惑

すいかちゃん
BL
使用人として、大きな屋敷で長年奉公してきた忠志。ある日、若旦那が1人で淫らな事をしているのを見てしまう。おまけに、その口からは自身の名が・・・。やがて、若旦那の縁談がまとまる。婚礼前夜。雨宿りをした納屋で、忠志は若旦那から1度だけでいいと甘く誘惑される。いけないとわかっていながら、忠志はその柔肌に指を・・・。 身分差で、誘い受けの話です。 第二話「雨宿りの秘密」 新婚の誠一郎は、妻に隠れて使用人の忠志と関係を続ける。 雨の夜だけの関係。だが、忠志は次第に独占欲に駆られ・・・。 冒頭は、誠一郎の妻の視点から始まります。

過去を知られた兄は、弟の愛を拒めない

すいかちゃん
BL
かつて男娼として生きてきた聡一郎。その事は家族にさえ言っていない。ある日。外国から弟の久人が帰ってくる。大人の男になった久人は、聡一郎の過去を知っていて…。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

風変わりな教師に買われた男娼は、花嫁として迎えられる

すいかちゃん
BL
男娼として毎日のように男に抱かれる和哉。ある日、美形の英語教師に買われる。その理由は、逃げた花嫁の代役だった。

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

令息だった男娼は、かつての使用人にその身を買われる

すいかちゃん
BL
裕福な家庭で育った近衛育也は、父親が失踪した為に男娼として働く事になる。人形のように男に抱かれる日々を送る育也。そんな時、かつて使用人だった二階堂秋臣が現れ、破格の金額で育也を買うと言いだす。 かつての使用人であり、初恋の人でもあった秋臣を拒絶する育也。立場を利用して、その身体を好きにする秋臣。 2人はすれ違った心のまま、ただ身体を重ねる。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...