わるいむし

おととななな

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 週末、新汰は兄と実家に向かうために新幹線乗り場へと向かった。
 もちろん新汰の胸は朝からドキドキしっぱなしだった。
 自宅ではもちろんだが、こうやって二人で外へ出かけるのもまた違うドキドキ感がある。
 外で見る奏汰の姿や仕草は、家で見る時とやや雰囲気が変わって凄くいい。
 新汰はちらちらと奏汰を盗み見しながらその都度胸を高鳴らせた。
 それに、二人きりで出かけるなんてまるでデートみたいだ。
 新幹線で一時間半の旅。
 目的地が実家であっても、それまでは二人きり。
 思うだけならバチは当たらないだろう。
 乗車時間はちょうど昼時。
 車内で弁当でも食べようかと奏汰が提案し二人は売店に入った。
 色んな種類が並ぶ中、新汰は悩みに悩んで大ぶりの唐揚げが主役の弁当を選ぶ。
 「兄さん決まった?」
 「ああ」
 奏汰はレジにいる店員に新汰の弁当を注文すると、その次に彩りがキレイな幕の内を二つ注文した。
 二つ?
 ここには新汰と奏汰二人しかいないはず。
 つまり弁当が三つになってしまう。
 よほど空腹か、それとも後から食べようと思って買ったのか?
 それにしても同じ弁当を二つなんてよっぽど幕の内が好きなんだな。
 新汰が首を傾げていると会計を済ませた奏汰が行こう、と促してきた。
 新幹線乗り場への道を並んで歩きながら新汰は訊ねた。
 「お腹すいてるの?」
 「ん?」
 「え…だって弁当二つ…」
 その時だった。
 背後からぽん、と誰かに肩を叩かれる。
 振り向くとそこにいたのは升谷だった。
 「え?升谷…さん?」
 なんでこんな場所にいるんだ。
 驚き瞠目する新汰。
 だが横にいる奏汰は全く動じず、升谷に向かってにこりと微笑んだ。
 「糸史」
 「チケット買ってきた。奏汰が連絡くれてたから通路を挟んだ隣の席が取れたよ」
 升谷はヒラヒラと持っていたチケットを振って見せてくる。
 チケット…?
 新汰は一人意味がわからずに升谷と兄を交互に見た。
 「え?え?どういうこと?」
 「あれ?奏汰に聞いてなかった?今日は俺も一緒に行くんだよ。二人の実家に」
 「…は…?え!?」
 新汰は本当に?という眼差しで奏汰を見上げる。
 「悪い。先に新汰に話したらお前行かないって言いそうだったから黙ってた」
 奏汰はバツの悪そうな顔をすると謝ってきた。
 デートみたいだと浮かれていた気持ちが一気にドン底に突き落とされる。
 事前に知らされていなかったことも大ショックだった。
 確かに奏汰の言う通り、升谷が一緒に行くとわかっていたら新汰は絶対に行かなかった。
 奏汰と升谷が一緒にいるところなんて見たくないからだ。
 
 
 
 
 
 
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