わるいむし

おととななな

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朝から小雨が降ったり止んだりとグズグズしていた天気だったが、新汰と奏汰が帰宅するとすぐに本格的に雨が降りだした。
 夕食をすませた頃には雨足がさらに強くなり、窓ガラスには雨粒がひっきりなしに叩きつけられている。
 「明日もこんな天気だったらイヤだな」
 奏汰と二人並んで調理器具や食器を片付けながら新汰は呟いた。
 「新汰は昔から雨が好きじゃないもんな」
 奏汰がフッと笑みをこぼす。
 「覚えてるか?小学校の頃楽しみにしてた遠足の日に雨が降ってさ。目的地が屋内だから中止にはならないって言ったのに、新汰絶対行かないってきかなかったことあっただろ」
 子供の頃の恥ずかしい過去を引っ張り出されて、新汰はムッとして頬をふくらませた。
 「濡れるのが嫌いなんだよ。っていうか雨が好きな人ってそんなにいないと思うけど」
 一緒に暮らし始めてから気づいたのだが、奏汰はよく新汰の子供の頃の話をする。
 歳が六つ離れているせいか奏汰は色んな出来事を記憶していて、あの時新汰はこうだった、ああだったと新汰が覚えていないことまで教えてくれるのだ。
 もちろん兄が新汰の過去を覚えていてくれることは喜ばしいことだ。
 だが時々全く新汰の記憶にないことまで覚えていたりして驚くこともある。
 食器と調理器具を片付け終えると、新汰はハーブティーを淹れるためのお湯を沸かす。
 すると、マグカップを準備していた奏汰が不意に訊ねてきた。
 「なぁ新汰、ちょっと聞いてもいいか?」
 「何?」
 「こないだ糸史…升谷と会ったろ?彼のことどう思う?」
 突然出てきた名前に、心臓が小さく跳ねる。
 新汰は平然とした態度で聞き返した。
 「どうって?」
 「いや、新汰がどう思ったか聞きたくて」
 升谷を紹介されてから十日ほど経っているが、あれから一度もあの男とは会っていない。
 連絡先も交換したが、新汰からは何も送っていないし向こうからのアクションもない。
 いつもだったら向こうから会いたくなるようにマメに連絡をしている。
 そこから親密になり、好意が兄から自分に向くようにしているはずだ。
 だが、今回は少しばかり慎重になっている。
 この前升谷と接触してみて、あの男が一筋縄ではいかないタイプだと感じたからだ。
 元々新汰がやっていることはリスクが高い。
 失敗すれば、兄からの信頼や愛情を失い新汰の人生は終わる。
 だからこそ、慎重に進めなければと考えているのだ。
 しかし、近いうちに升谷とは会うつもりでいた。
 三人で会った時、あの男は質問するばかりでほとんど自分のことを話さなかったからだ。
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