わるいむし

おととななな

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 大学に入学したての頃のこと。
 新汰は兄の奏汰と始まった生活に浮き足立っていた。
 学生生活が始まってばかりなんだから家事はしなくていいと、食事や洗濯や掃除を全てやってくれる兄。
 それは兄としての義務かもしれないが、兄が自分のためだけにやってくれてると思うと新汰はこの上なく嬉しかった。
 当時は兄に恋人がいる気配は全くなかったし、彼が恋多き男だということはまだ知らなかった。
 このままこんな生活が続けられたら最高だ。
 そう思っていた矢先に現われたのが杏菜だった。
 杏菜は色んな男に声をかけまくる女だった。
 好みだと思った男に近づき、連絡先を交換しては仲良くなり付き合っては別れる。
 大学内では貞操観念の低い女として噂されていた。
 そのうち杏菜は新汰にも声をかけてきた。
 もちろん、新汰はそういう女が大嫌いだ。
 付き合う気なんかさらさらない。
 だが、邪険にして恨まれたりなんかすると後々面倒なことになる。
 仕方なく、のらりくらりとかわしながら友人関係を留めていた。
 ある時、しつこくせがまれ自宅へ招くことになった。
 あまりにも新汰が靡かないものだから、強行手段に出ようとしたのだろう。
 しかし、杏菜はあっさりと新汰から手を引いた。
 狙いを変えたからだ。
 そのターゲットこそたまたま自宅にいた奏汰だった。
 自宅に招いた日から数日後。
 奏汰から杏菜と付き合っていると聞かされた時は、はらわたが煮えくり返りそうだった。
 なぜよりによってあの尻軽の杏菜なんだ、と。
 同時に、自分の行動をひどく悔やんだ。
 杏菜をもっと手懐けておけば、自宅に招かなければこんなことにはならなかったのに。
 兄に杏菜は相応しくない。
 知的で落ち着いた大人の男の兄。
 一方杏菜は頭も悪く、尻軽で下品だ。
 どう考えても釣り合っているようには見えない。
 二人が一緒にいる姿を見るたびに、新汰の中で言い表わせないほどの憤りと、なんとかしなければならないという焦燥感が募っていく。
 そうして、思い詰めた新汰はある行動に出る。
 奏汰と付き合っている杏菜にキスをしたのだ。
 もちろん恋愛感情など一切ない。
 そしてこう言った。
 「ごめんね。杏菜ちゃんが兄さんのこと好きなのはわかってるんだけどどうしても我慢できなくて」
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