わるいむし

おととななな

文字の大きさ
上 下
4 / 46

4

しおりを挟む
 大学に着いた新汰はどこで時間を潰そうかと考えていた。
 奏汰には一限からと言ったがあれはその場を凌ぐための嘘。
 兄を騙すことに少々心苦しさを感じるが仕方ない。
 本性がバレてしまうよりマシだ。
 長時間いても良さそうなカフェテラスに決めると、新汰はそこへ向かった。
 昼食時は満席が多いが、朝の時間帯は比較的人も少なく席も空いている。
 新汰は端の方の席を選ぶと、スマホをいじりはじめた。
 しかし、数分もしないうちに誰かが話しかけてきた。
 「新汰くん!おはよ~」
 鼻にかかったような声に新汰は俯きながら舌打ちをする。
 だが、すぐに笑顔を貼り付けると顔をあげた。
 「おはよう、杏菜あんなちゃん」
 杏菜は了承も得ず、テーブルに荷物を置くと新汰の隣の席を陣取った。
 ズルズルと椅子を引くと新汰の方へ寄せてくる。
 「新汰くん早いね~今日って三限からじゃなかったっけ?」
 「うん、ちょっと早く目が覚めて。杏菜ちゃんは?」
 「一限から~。杏菜ね、ちょっと単位足りなくってピンチなんだ」
 杏菜は唇を尖らせるとシュンとした表情になる。
 そして新汰のことを上目遣いに見てきた。
 普通の男なら、女の子のこんな表情を可愛らしいと思うのだろう。
 だが新汰は違う。
 目を大きく見せるためのカラコンや素肌感のない厚い化粧、過剰なくらいつけた甘ったるい香水の匂い。
 男に媚びる服装や態度。
 その全部が嫌いで、可愛いなんて一度も思ったことがない。
 「新汰くんってすごいよね。成績も良いし、友達多いし優しいしかっこいいしコミュ力高いし」
 「そんなことないよ」
 「え~~嘘。新汰くんのこと狙ってるって子、杏菜の知る限り五人はいるんだけど」
 「そうなの?」
 誤魔化すように笑うと杏菜が詰め寄ってきた。
 「杏菜もその一人なんだけどな」
 両拳を顎の前でくっつけて杏菜が新汰を見上げてくる。
 パチパチと不自然な瞬きをする偽物のまつ毛に覆われた目。
 異様に濡れた唇。
 どれもが見ていて気持ち悪い。
 顔を背けたい気持ちをグッとこらえながら、新汰は訊ねた。
 「でも杏菜ちゃん、兄さんのことまだ好きなんじゃないの?」
 新汰の言葉に杏菜のぶりっこが一瞬揺らいだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

過去を知られた兄は、弟の愛を拒めない

すいかちゃん
BL
かつて男娼として生きてきた聡一郎。その事は家族にさえ言っていない。ある日。外国から弟の久人が帰ってくる。大人の男になった久人は、聡一郎の過去を知っていて…。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

風変わりな教師に買われた男娼は、花嫁として迎えられる

すいかちゃん
BL
男娼として毎日のように男に抱かれる和哉。ある日、美形の英語教師に買われる。その理由は、逃げた花嫁の代役だった。

若旦那からの甘い誘惑

すいかちゃん
BL
使用人として、大きな屋敷で長年奉公してきた忠志。ある日、若旦那が1人で淫らな事をしているのを見てしまう。おまけに、その口からは自身の名が・・・。やがて、若旦那の縁談がまとまる。婚礼前夜。雨宿りをした納屋で、忠志は若旦那から1度だけでいいと甘く誘惑される。いけないとわかっていながら、忠志はその柔肌に指を・・・。 身分差で、誘い受けの話です。 第二話「雨宿りの秘密」 新婚の誠一郎は、妻に隠れて使用人の忠志と関係を続ける。 雨の夜だけの関係。だが、忠志は次第に独占欲に駆られ・・・。 冒頭は、誠一郎の妻の視点から始まります。

令息だった男娼は、かつての使用人にその身を買われる

すいかちゃん
BL
裕福な家庭で育った近衛育也は、父親が失踪した為に男娼として働く事になる。人形のように男に抱かれる日々を送る育也。そんな時、かつて使用人だった二階堂秋臣が現れ、破格の金額で育也を買うと言いだす。 かつての使用人であり、初恋の人でもあった秋臣を拒絶する育也。立場を利用して、その身体を好きにする秋臣。 2人はすれ違った心のまま、ただ身体を重ねる。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

ド平凡な俺が全員美形な四兄弟からなぜか愛され…執着されているらしい

パイ生地製作委員会
BL
それぞれ別ベクトルの執着攻め4人×平凡受け ★一言でも感想・質問嬉しいです:https://marshmallow-qa.com/8wk9xo87onpix02?t=dlOeZc&utm_medium=url_text&utm_source=promotion 更新報告用のX(Twitter)をフォローすると作品更新に早く気づけて便利です X(旧Twitter): https://twitter.com/piedough_bl

処理中です...