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人気キャスターが梅雨入りを告げた六月の終わり。
朝食の席で兄の奏汰が照れ臭そうに告げてきた。
「恋人ができたんだ」
その台詞を聞いたのは今年になって三回目。
さほど驚きもしなかったが、新汰は努めて明るく感動的な声色で返した。
「わぁ!よかったね、兄さん。おめでとう」
祝福の言葉とは裏腹に、心はスッと冷めていく。
ジメジメとしたこの時期に、よくもまぁまた懲りずに恋人なんか作る気になったな。
そんな冷え冷えとした感情しかわいてこない。
「ありがとう、新汰」
新汰の心境など知る由もなく兄は嬉しそうに顔を綻ばせる。
まるでその恋人の顔でも思い出して幸せを噛みしめているかのような顔だ。
そんな兄を尻目に、新汰は作り笑いのままトーストを齧った。
高校卒業と同時に実家を飛び出した兄の奏汰。
その後を追うようにして弟の新汰も実家を飛び出すと、一人暮らしをする兄のマンションへ転がり込んだ。
新汰は近くの大学へ通いながらバイト、奏汰は鑑定士の仕事をしている。
鑑定士といっても様々な種類があるが、兄は宝石専門の鑑定士だ。
世の中には様々な宝石が存在している。
それらの宝石類を鑑定し、どのくらいの価値になるのかを判断するのが「宝石鑑定士」の仕事だ。
鑑定するだけでなく、それがダミーか本物かどうかを見極める目利きが必要とされるため、かなりの知識と信頼が求められる。
兄は昔からそういった物の価値やクオリティーを見極める能力に長けていた。
おもちゃの正規品と偽物を見抜いたり、スーパーでは魚や肉の鮮度なども的確に目利きしていた。
両親は普通の専業主婦と普通のサラリーマン。
そんな目利き能力はない。
兄は天才だと持て囃され、塾に通わされ習い事もたくさんしていた。
そんな兄の背中を、六つ下の新汰は誇らしい気持ちで見ていた。
賢くてスポーツもできて、おまけに引き締まった肉体と端正な顔立ち。
自分の才能に驕って横柄な態度をとったりもせず、常に謙虚で穏やか。
兄は完璧な人間だと思った。
むしろ兄ほど完璧な存在はいないのではないかと思った。
少しでも憧れの兄のそばにいたい。
そんな一心で新汰は兄のマンションから近い大学を受験し、望み通り兄のマンションで一緒に生活できるようになった。
しかし、すぐに完璧だと思っていた兄の欠点を知ることになる。
それは彼が付き合う恋人のことだった。
朝食の席で兄の奏汰が照れ臭そうに告げてきた。
「恋人ができたんだ」
その台詞を聞いたのは今年になって三回目。
さほど驚きもしなかったが、新汰は努めて明るく感動的な声色で返した。
「わぁ!よかったね、兄さん。おめでとう」
祝福の言葉とは裏腹に、心はスッと冷めていく。
ジメジメとしたこの時期に、よくもまぁまた懲りずに恋人なんか作る気になったな。
そんな冷え冷えとした感情しかわいてこない。
「ありがとう、新汰」
新汰の心境など知る由もなく兄は嬉しそうに顔を綻ばせる。
まるでその恋人の顔でも思い出して幸せを噛みしめているかのような顔だ。
そんな兄を尻目に、新汰は作り笑いのままトーストを齧った。
高校卒業と同時に実家を飛び出した兄の奏汰。
その後を追うようにして弟の新汰も実家を飛び出すと、一人暮らしをする兄のマンションへ転がり込んだ。
新汰は近くの大学へ通いながらバイト、奏汰は鑑定士の仕事をしている。
鑑定士といっても様々な種類があるが、兄は宝石専門の鑑定士だ。
世の中には様々な宝石が存在している。
それらの宝石類を鑑定し、どのくらいの価値になるのかを判断するのが「宝石鑑定士」の仕事だ。
鑑定するだけでなく、それがダミーか本物かどうかを見極める目利きが必要とされるため、かなりの知識と信頼が求められる。
兄は昔からそういった物の価値やクオリティーを見極める能力に長けていた。
おもちゃの正規品と偽物を見抜いたり、スーパーでは魚や肉の鮮度なども的確に目利きしていた。
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そんな目利き能力はない。
兄は天才だと持て囃され、塾に通わされ習い事もたくさんしていた。
そんな兄の背中を、六つ下の新汰は誇らしい気持ちで見ていた。
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自分の才能に驕って横柄な態度をとったりもせず、常に謙虚で穏やか。
兄は完璧な人間だと思った。
むしろ兄ほど完璧な存在はいないのではないかと思った。
少しでも憧れの兄のそばにいたい。
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しかし、すぐに完璧だと思っていた兄の欠点を知ることになる。
それは彼が付き合う恋人のことだった。
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