【完結】妃が毒を盛っている。

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第二十六話 帰還

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シュトルベルクを発ったその日の夜、デューレン辺境伯邸に到着。屋敷の皆が笑顔で領主の帰還を出迎えた。


「父上!」

「ウッツ、ただ今戻った。」

「お帰りなさいませ。」

「ああ。もう心配いらない。すべての病は取り去られた。」

「はい。ほんとうによかったです……!」


脅威が去ったことで安堵したウッツ・デューレンは、父の無事の帰還を喜びエルメンヒルデたちに感謝の意を述べた。

息子から、第一王子が来たことが知らされたのだが、とんぼ返りしたという王子に疑問符を浮べる辺境伯と違って、エルメンヒルデ一行は(病気にかかりたくなかったんだろうな……。)とあたりをつけて納得した。


「王都はまだ離れているからなー。」

「ここにきて急に実感したのでしょうね。」

「せめて何か物資でも持ってくれば面目も立つのに。頭悪いね。」


ヴィリ、エルメンヒルデ、ハイノ……言いたい放題である。


その後、皆で食卓を囲みまったりとした時間を過ごした。


「今日はゆっくり休んでください。」

「ありがとうございます。そうさせていただきますわ。」


デューレン邸で用意された部屋に入り、ひと息つくエルメンヒルデ。護衛も一緒だ。


「控えの間がありますので私はそこに。」

「部屋の前は侵入者アラームでいい?」

「ええ。皆夜は休んでちょうだい。」

「うす。」

「よしっ、寝るぞー!」

「あたしもー。もう寝る。」


ディルクとイーナは各自部屋に向かった。ハイノも、登録者以外が時間外に指定範囲に触れると警報が鳴るという魔道具をエルメンヒルデの休む部屋の扉と窓に設置してから退出した。


「ヴィリももう休みなさい。」

「りょーかい。」


見届けたことで安全を確認し、ヴィリも部屋を出た。

グレータがエルメンヒルデの入浴や寝支度を手伝い、2人も床についた。

そして何事もなく、夜が更けていった。





翌朝。

皆で、デンシュルク帝国料理が得意だというサリーナさんお手製の朝食をいただき、予定を話し合っている。

バルトロメウスは観光してから帰るとのことで、エルメンヒルデと共に町歩きをするという。
町中での護衛はヴィリとグレータが手を上げた。ほかの3人は屋敷に残るようだ。


「イーナはお土産探し一緒に回らない?」

「シュトルベルクで見たからいいやー。」

「そう? では何かあったらあなたにも買ってくるわね。」

「ありがとうエル様!」


ハイノは試したいものがあるそうで、デューレン邸の裏にある訓練所を借りると言う。ディルクはここで力仕事を手伝いつつサリーナさんにデンシュルク料理を習うそうだ。

そして第五の騎士たちは、薬草の運搬と、犯罪者の移送もあるので先に王都に戻るという。


「シュティルナー侯爵令嬢、妖精王様、この度はほんとうにありがとうございました。」

「国のお役に立つのは当然のことですわ。」

「……王都で、お帰りをお待ちしております。」

「ええ。道中気をつけて。」


今回、小隊長を始めとした第五の騎士たちは、エルメンヒルデに同行し彼女の人となりに触れた。優しく慈愛に満ちているが、悪は許さず国の法に則ってしっかり裁く。気高く美しく、そして頑固な面もあり可愛らしさも垣間見れた。
もともと騎士団は第二王子派が多いこともあり、この人を王妃にと強く思うに至った旅だった。

ヴィリとダンデも、王都でまた飲もうと約束して別れた。


デューレン邸があるここケルンの町でも、エルメンヒルデはお土産を買ったり良い商品があればシュトール商会として仕入れを行うため、店を回っていった。


「この辺りの桐の木はとても良質なのよね。」

「材木屋でも初めるんですか?」

「楽器よ。」

「楽器。」

「木筝ね。細工がとてもきれいなものがあるの。楽器としても、芸術品としても価値が高いわ。」

「へえ。」

「せっかくなのだから、もう少し興味を持ちなさい。」

「ああ、まあ、お嬢が弾いてくれるなら聞きます。」

「また、あなたは……。」


興味がないのか適当に相槌を打っているが、エルメンヒルデの演奏なら聞く、というのは本心だろう。

桐でできた木筝をいくつか買い付け、家具屋では洋服箪笥を見て回り気に入ったものを購入した。


「仮面、木の仮面ね。」

「面白いですね。」

「そうね……たまにだけど仮面舞踏会も開かれるから需要はあるわね。」

「これも買いますか?」

「そうね。いくつかハーフマスクを買いましょう。」

「お嬢にはこのレースのやつがいいんじゃないですか?」

「ヴィリ、今私が買い付けているのは桐でできた品物だってわかっているかしら?」

「まあそうですけど。でもお嬢にはこれ。」

「こんなのどこで使うのよ。」

「そりゃ、あれですよ。夫婦生活がマンネリ化したときに――」

「ヴィリ、口を閉じて。」

「このレースの仮面だと、夫婦円満なの?」

「そりゃあそうでしょ。奥さんがこれつけてベッドで――」

「ヴィリ、黙れ。」


その後、お土産選びで女性陣には肌につける良質なクリームを選び、男性陣には履きやすそうな軽い革の靴を購入して宿に戻った。









王宮では、お忍びの旅から帰った第一王子が王妃である母に呼び出され私室に来ていた。


「それで帰ってきたというの。」

「だって病気になっちゃうよ。」

「勝手に出かけていったというのに……それではただ遊んで帰ってきただけではないですか。」


行き帰りで二週間ほど勝手に王宮を離れた第一王子ジークムントに、さすがに王妃は呆れていた。
聞けばエルメンヒルデを追いかけて行ったが追いつかず、病にかかることを恐れて帰ってきたのだという。
しかも行く先々の町で散財してきたのだから始末に負えない。


「今回のことは、病気で困っている人の力になりたかったからということになさい。」

「わかったよ。」

「ああ、あとあなたイゾルデのことちゃんとしなさいよ? 私たちの後ろ盾になっているグビッシュ侯爵のご令嬢なのだから、機嫌を損ねないでちょうだい。」

「でも、あの女は俺の好みじゃないんだよ。エルメンヒルデとの婚約ってなんとかならないの?」

「何度も言っているでしょう。あの子は無理なのよ。シュティルナー侯爵家は……もう、そのくらい自分で調べて理解しなさい。」


側妃ガブリエレの生家であるフロイデンタール公爵家。エルメンヒルデの母である現シュティルナー侯爵夫人フィーネは、フロイデンタール前公爵の弟の娘だ。側妃とは従姉妹同士だし、現フロイデンタール公爵は側妃の兄であるから公爵とも従兄妹同士になる。

そんな第二王子派筆頭の公爵家に縁続の娘など手に入るわけがないのだ。

しかしそれすらもわかっていない様子の第一王子。さすがの母も、もう一度いちから勉強し直したほうがいいと思わざるを得なかった。


「もういいから、お父様にもきちんと挨拶していらっしゃい。」

「わかったよ。」


しぶしぶといったふうに、王妃の部屋を出ていく第一王子。今度は父である王の執務室に向かった。





「勝手に出かけてすみませんでした。」


部屋に入るなり頭を下げる第一王子に、呆れてため息をつく王。横には宰相もいるし側近のシュティルナー侯爵もいた。


「第一王子殿下、恐れ入りますがいきなり入ってきて――」

「すまない。こちらで言って聞かせるから……申し訳ないが2人とも外してくれ。」

「「はっ」」


王の言葉に従い、2人は部屋を退出した。そんな基本的なことを宰相にわざわざ説教させるなど、親として恥ずかしい思いがあったからだ。


「いろいろと言うことはあるが、まずは自分で今の行いの何が悪かったかよく考えてくれ。」

「私は謝りに来たのです。謝っていけないことなどありますか?」

「……礼儀や手順の問題だ。」

「そんなことより、今回の私の勝手な外出の話ですが、これはアーヘン村の疫病を心配してのことなのです。」


相手の時間をもらって自分の話をするのならば、余程の緊急時なら別だが、通常まず許可を得なければならない。しかも相手は王だ。先触れを出し何の用件か伝えて返事を待つということすらできない第一王子に、呆れ果てる王だった。


「経由する町で必要なものを買って、デューレン辺境伯に届けに行きました。」

「……それは立派な行いだが、それならきちんと手順を踏んで行くようにしなさい。」

「はいっ」

「……よい。下がれ」


第一王子は、これで誤魔化せたと思いにこにこ笑顔で退出していった。

このように、第一王子には子どもに教えるようなことを未だに言わなければならないという現状だ。とても王が務まる器ではない。
しかしそれでも我が子である。王は、第一王子の行く末を思い、願わくば穏便に、収まるところへ収まってくれればいいと嘆息を漏らした。




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