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第十六話 鍛錬場にて
しおりを挟む王宮騎士団。
その名の通り、王宮を拠点とする騎士団の総称だ。
その活動は多岐に渡り、要人の警護からパレードの指揮、魔物討伐までこなしている。
ほかにも騎士団はあるが、王宮・王都を拠点とする騎士はすべて王宮騎士団の所属になる。
今日は、病に臥せるまでは定期的に体を動かしに来ていた王が、鍛錬場に久しぶりにやってきて、騎士団長と打ち合っている。
もちろん、団長に匹敵するほどの力はないので、稽古をつけてもらっているという状態だ。
「やはり、思うように動かんな。」
「仕方ありません。2年も臥せっていたのですから。少しずつ慣らしていきましょう。」
元々武より知に長けた王なので、困らない程度には鍛えていたが、筋肉隆々戦は最前線というタイプではなかった。
「父上。」
「ハルトヴィヒか、エルメンヒルデも。」
「こちらにいらっしゃると聞いて。」
「第二王子殿下、シュティルナー公爵令嬢、このようなむさ苦しい場所にようこそ。」
ハルトヴィヒとエルメンヒルデが、王を探してやってきた。
「お体に異常はありませんか?」
「ああ問題ない。筋力が落ちたくらいだ。また地道に鍛えていくとするよ。ありがとうエルメンヒルデ。」
「ふふっ、よかったですわ。」
病み上がりで剣を振るうと聞いて少し心配していたエルメンヒルデ。妖精王の力で毒状態は回復したが、さすがに寝たきりで動いていなかったため筋力は落ちてしまっていたようだ。これは日々鍛錬していくしかない。
「第二王子殿下、お時間ありましたら是非うちのに稽古つけてやってください。」
「そうだな……」
「まあ! ハルトヴィヒ様の打ち合いが見れますの? あのしなやかな筋肉の動き……とってもきれいで素敵ですのよ……!」
「そ、そうか? 君にそこまで言われたら、ご期待にそえないとね。」
「嬉しいですわ! お願いしますわ!」
ハルトヴィヒは、剣の腕もなかなかのもので、力というより技で相手を倒すような戦い方をする。エルメンヒルデにはその動きがとてもきれいに見える、らしい。
何人かの騎士と剣を交えていくハルトヴィヒ。エルメンヒルデはそれを見て、「素晴らしいですわぁ!」などと感嘆している。
「やはり第二王子殿下の腕は素晴らしいですな。一個隊長以上だ。」
「あれも努力の賜物だな。」
「ええ。……それに比べて…」
「もしや、またジークムントが迷惑をかけたか?」
「ああ、いえ……迷惑、といいますか……」
言い淀む騎士団長に、先を促すよう視線を送る王。
「先日また、剣を振るいにいらして……。あの方のやり方はめちゃくちゃで、誰も相手をしたがらない。怪我をするのがおちですからな。第一隊長がお相手したのですが、危うく、というところでご機嫌を損ねたのか、剣を投げつけてお帰りに。」
「それは……すまなかったな。」
王は、息子の非礼を詫びた。気に食わないと、自分の思い通りにならないとそのような態度を取る第一王子。よほど母である王妃に甘やかされて育ったのだろう。
だからか、王宮に出入りするものは第一王子には近づきたがらないのだ。難癖つけて絡まれても相手が王子とあっては迂闊に反論できないし、態度が不敬だなんだと処分されてしまう。とんだ我儘王子だ。
「すてきですわ! 今の、今のもう一度見せてくださいませ!」
だいぶ興奮しているエルメンヒルデ。淑女の振る舞いは何処かへ行ってしまったようだ。ハルトヴィヒの剣捌きにきゃあきゃあ言っている。
「ははっ、お2人は仲がよろしいですな。」
「そう、だな。」
この国の未来は、こういうものたちに託したい。
国を発展させることができ、民にも優しい王妃と、皆の意見に耳を傾けて努力を惜しまない王。
ハルトヴィヒとエルメンヒルデならば、国のトップにふさわしい。
そう、強く思う王だった。
しかし、そうしたいがひとりで押し進められるものではない。当然王妃から待ったがかかるだろうし、第一王子派の面々も捨て置けるものではない。どうしたって、角が立たないようにというわけにはいかないのだ。
まだまだ譲位までにはやることが山積みだな、と王はため息をついた。
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