2 / 13
第二話:光の中で
しおりを挟むサン・チェコ僧院の寄宿学校は、ロマホフの中心街から離れた静かな丘の上に立っていた。古い石造りの建物は緑豊かな庭に囲まれ、風が通り抜けるたびに木々が静かに囁くようだった。15歳のベニアミーナ・チェーヴァにとって、この場所はまさに「家」と呼べるものであり、彼女の心を包む安らぎだった。
彼女は僧院の中庭を駆け抜け、小鳥のさえずりに耳を傾けながら、花壇に咲く鮮やかな花々に触れるのが好きだった。修道女たちは彼女を優しく見守り、ベニアミーナの明るい笑顔と、澄んだ声で歌う聖歌に心を和ませていた。
「ベニアミーナ、今日は何を歌ってくれるの?」
修道女の一人、シスターカレンが微笑みながら声をかけた。
「今日は……そうですね、『アヴェ・マリア』を歌いたいです」
ベニアミーナは、シスターの問いに嬉しそうに応えた。彼女の瞳は純粋な喜びで輝いていた。
中庭に集まった少女たちは、ベニアミーナの歌声に耳を傾けるために静かに座り始めた。ベニアミーナは彼女たちを見て、心の中にある平穏を感じながら歌い始めた。その歌声は清らかで、空気に溶け込みながら僧院全体を包み込んだ。
「ほんとうに、ベニアミーナは天使のようね」
ある少女がぽつりとつぶやいた。
「本当に。彼女と一緒にいると、まるで私たち全員が守られている気がするわ」
別の少女も同意した。
修道女たちの教えは、ベニアミーナにとって何よりも大切だった。毎朝、修道女たちと共に祈りを捧げ、日中は他国語や聖書の教えを学んだ。彼女は学ぶことに喜びを感じ、与えられた知識を全て心に刻んでいった。
特に、修道女長のシスタークラァラは、ベニアミーナに深い信頼を寄せていた。ある日の午後、ベニアミーナはシスタークラァラと共に修道院の図書室で静かに本を読んでいた。太陽の光が窓から差し込み、古い木製の机に温かな光を投げかけていた。
「ベニアミーナ、あなたは本当に賢い子。きっと将来、神のもとで素晴らしい役割を果たすに違いないでしょう」
シスタークラァラは穏やかに言った。
「まだまだ、学ぶことはたくさんあります」
ベニアミーナは少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「でも、神様に仕えることができるのなら、それが一番の幸せだと思います」
その言葉には、何の偽りもなかった。彼女の純粋な心は、いつも他者を思いやり、信仰に満ちていた。
夜になると、修道院の鐘が静かに響き渡り、ベニアミーナは他の少女たちと一緒に夜の祈りを捧げるために礼拝堂へ向かった。礼拝堂の中は、ろうそくの光が静かに揺れ、ベニアミーナの心にさらなる安らぎをもたらしていた。祈りの中で、彼女は家族のことを想った。だが、この僧院での日々が、どれほど彼女を幸福にしているかを感じると、外の世界のことは一時忘れることができた。
「神様、どうか私たち全員をお守りください。そして、私の家族にも平和をお与えください」
無垢で清らかな祈りが彼女の唇から静かに漏れた。
ベニアミーナにとって、サン・チェコ僧院は安全で温かい場所だった。そこには愛があり、信頼があり、彼女自身が何者であるかを再確認できる場所だった。彼女の心は、この清らかな日々の中で、輝きを増していた。
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢に転生後1秒もなく死にました
荷居人(にいと)
恋愛
乙女ゲームの転生話はライトノベルでよくある話。それで悪役令嬢になっちゃうってのもよく読むし、破滅にならないため頑張るのは色んなパターンがあって読んでいて楽しい。
そう読む分にはいいが、自分が死んで気がつけばなってしまったじゃなく、なれと言われたら普通に断るよね。
「どうあがいても強制的処刑運命の悪役令嬢になりたくない?」
「生まれながらに死ねと?嫌だよ!」
「ま、拒否権ないけどさ。悪役令嬢でも美人だし身分も申し分ないし、モブならひっかけられるからモブ恋愛人生を楽しむなり、人生謳歌しなよ。成人前に死ぬけど」
「ふざけんなー!」
ふざけた神様に命の重さはわかってもらえない?こんな転生って酷すぎる!
神様どうせ避けられないなら死ぬ覚悟するからひとつ願いを叶えてください!
人生謳歌、前世失恋だらけだった恋も最悪人生で掴んでやります!
そんな中、転生してすぐに幽霊騒ぎ?って幽霊って私のこと!?
おい、神様、転生なのに生まれ直すも何も処刑された後ってどういうこと?何一つ学んでないから言葉もわからないし、身体だけ成人前って………どうせ同じ運命ならって面倒だから時を早送りしちゃった?ふざけんなー!
こちら気晴らし作品。ラブコメディーです。展開早めの短編完結予定作品。
(完結)私の夫は死にました(全3話)
青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。
私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。
ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・
R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。
(完結)姉と浮気する王太子様ー1回、私が死んでみせましょう
青空一夏
恋愛
姉と浮気する旦那様、私、ちょっと死んでみます。
これブラックコメディです。
ゆるふわ設定。
最初だけ悲しい→結末はほんわか
画像はPixabayからの
フリー画像を使用させていただいています。
悪役令嬢が望んだ処刑の日【本編完結+エンド後ストーリー複数完結】
荷居人(にいと)
恋愛
「君は最後まで反省をしないのだな」
反省などしてしまえば私は望んだ死に方などできなかっただろう。
「ええ、だって悪いことだと思ってないもの」
悪いことだとわかっていてやっていた。その上で悪びれもせずいるかのように振る舞ってきたのだ。演劇の悪役のように。
「人を殺そうとしてよくもそんなことを……!」
人を殺すつもりはそもそもなかったことなど悟らせはしない。ただ失敗してしまって残念だとばかりに最後まで私は悪を貫く。
「だって……邪魔だったんだもの」
「………っそんな態度なら処刑を取り止める必要などなさそうだな!」
だってそれこそが私の望むものだから。元婚約者にだって私は最後まで偽りの微笑みで悪の華となろう。
そして死を迎え、計画通りになったなら、私はようやく悪の仮面を脱ぎ捨てられるのだ。死と共に。
※連載中にしてますが、本編は一応完結です。
人殺し!………これは処刑よ?あなた頭がおかしいんじゃない?
naturalsoft
恋愛
この国の第一皇女シオン・グランツは次期女王になる事が決まっていた。
そして、王家主催のパーティ会場にて、とある騒ぎが起きた。
婚約者であり、王配となるアッシュ侯爵家の次男アード・アッシュが王家の遠縁であるミリア・ガーデン伯爵令嬢と一緒にエスコートしながらやってきたのだ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
連載の息抜きで書きました。
ゆるふわ設定なので鋭いツッコミはお許し下さい。
今夜、元婚約者の結婚式をぶち壊しに行きます
結城芙由奈
恋愛
【今夜は元婚約者と友人のめでたい結婚式なので、盛大に祝ってあげましょう】
交際期間5年を経て、半年後にゴールインするはずだった私と彼。それなのに遠距離恋愛になった途端彼は私の友人と浮気をし、友人は妊娠。結果捨てられた私の元へ、図々しくも結婚式の招待状が届けられた。面白い…そんなに私に祝ってもらいたいのなら、盛大に祝ってやろうじゃないの。そして私は結婚式場へと向かった。
※他サイトでも投稿中
※苦手な短編ですがお読みいただけると幸いです
恋人に捨てられた私のそれから
能登原あめ
恋愛
* R15、シリアスです。センシティブな内容を含みますのでタグにご注意下さい。
伯爵令嬢のカトリオーナは、恋人ジョン・ジョーに子どもを授かったことを伝えた。
婚約はしていなかったけど、もうすぐ女学校も卒業。
恋人は年上で貿易会社の社長をしていて、このまま結婚するものだと思っていたから。
「俺の子のはずはない」
恋人はとても冷たい眼差しを向けてくる。
「ジョン・ジョー、信じて。あなたの子なの」
だけどカトリオーナは捨てられた――。
* およそ8話程度
* Canva様で作成した表紙を使用しております。
* コメント欄のネタバレ配慮してませんので、お気をつけください。
* 別名義で投稿したお話の加筆修正版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる