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第二章
第十一話 セツコとメイナ
しおりを挟む聖力の満たされた神聖水の水面に、光の渦が巻く。
ザザーッと水音を立て、水が巻き上がった。
強い光があたりを照らしたあとにおさまると、そこにひとりの少女が立っていた。
「おお、成功だ!」
「えっ、……え??」
「聖女様!」
「は? セイジョサマ??」
制服を改造し、白シャツにミニ丈のプリーツスカート、そして染めた髪の毛はどピンクの少女。さすがの秀才ギャルでも、突然の出来事に困惑している。
「聖女よ、よく来てくれた」
「セイジョ、って言われても、私桐嵐だから女子高じゃ……」
「桐嵐? 超進学校じゃない」
「あ、はい」
王が話しかけても、メイナは頭に疑問符を浮べたままだった。横にいたセツコは桐嵐と聞いて、自分が行けなかった偏差値70の桐崎嵐山高校を思い出した。ちなみにセツコが通ったのは、都内ではわりと名の知れた、偏差値65の桜咲第一高校だ。
「私は常田節子。あなたも東京の人?」
「あ、えっと……滝本メイナ、です。東京です、けど……」
「ここはシェーレという国なのだけど、異世界召喚ってわかるかな?」
「異世界?」
「あんまり馴染みない、か」
見た目からしてラノベを読むような子には見えないし、とセツコは頭を悩ませる。事前知識があれば話しやすいのだが、どうやらメイナにそのあたりの知識はないようだ。
「とりあえず、お茶でも飲まない?」
「あ、はあ。まあ、じゃあ……」
メイナは、先ほどまで東京の繁華街にいた。それが、周りで何かが光ったかと思えば、この水面に立っていた。セイジョ、にも異世界、にも心当たりはなく、ここにいる人間を見回しても金髪銀髪赤青色とりどりの髪と目。話しているのは日本語だというのが、さらに脳を混乱させた。そんな中前に出てきたセツコは、黒髪黒目(茶色だが)の日本人顔の美人だ。名前も日本の名前だし、なにより自分が通っている学校を知っているようだった。ほかに選択肢はなさそうだな、とメイナはセツコにおとなしくついていくことにした。
「今、この国はあまり豊かではないから、大したものではないけど」
「クッキー?」
「そう。今朝作ったの」
「へえ、お姉さんが?」
「ええ。ところでそれ、地毛、じゃないわよね?」
「そう、ピンク可愛いっしょ? あーし、鎌倉流星好きで」
「鎌倉流星? わ、懐かしい。鬼ごっこのドラマ出てたの見てた! 母の地元が鎌倉だから、名前見てすっごいインパクトあって」
「鬼ごっこって、だいぶ前だよね? 流星くんがピンク髪にしてたドラマ知らない? 塾の講師の年上女子と恋するやつ」
「えー、知らないなぁ。私結構前にこっちに来てるから……えっと、6年くらい経つかな」
「まぁじか! それなら知らないかもね」
世間話から、召喚のことや、聖女のことをつなげて話していくセツコ。クッキーをつまみ、紅茶を飲みながらそれを聞いてひとつずつ理解していくメイナ。取り乱すことなく、きちんと自分の状況を把握していく。
「そう……帰れない、のか」
「ん……」
「ま、でも救国とかカッコイイよね」
「……そうだね。光の矢とか打てちゃうよ?」
「ははッ、それヤバっ!」
メイナには目標があった。進学校に通うくらいだからそれはそうだ。彼女は、医薬品開発研究者になるために頑張っていた。大学で専門的な知識を得て製薬会社に就職し、研究者になる、という道筋を立てていたのだ。それというのも、幼い頃に母親を一万人に一人罹るかと言われる難病で亡くしているからだ。まだまだ薬のない病気はたくさんある。そのため、死を待つしかないという人がいるのだ。メイナはそんな人たちを少しでも減らせるよう、新薬の研究を仕事にしようと思っていた。
「もともとね、病気で亡くなる人を助けられたらなーって思って勉強してたんだ。だから、聖女ってやつは、天職かもしんないね」
「うん、きっとたくさんのひとたちを、助けられるよ」
「へへっ」
こうして、シェーレに新たに召喚された聖女メイナは、自分の役割を受け入れ、セツコと共に国内の浄化の旅に出ることになった。
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