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第二章
第九話 ロミアランで
しおりを挟む「この辺りも、粗方すんだようだな」
「そうね。野営の準備、しましょうか」
「ああ」
ズェラシエとセツコは、破壊された町の中、魔物がいなくなったことを確認した。
王都を出て北上し、ザゴス領からペパストを回り、ジェジルに到着したところだった。出会った魔物を倒し、瘴気ポイントへ行っては浄化を行う。それを繰り返して半月ほどが経っていた。
「被害が大きいところは、あとは東のロミアランだ。一気にいけるか?」
「ええ、ジェス団長。ロミアランには王女殿下がいらっしゃるのですよね?」
「ああ。三女のペネロッペ殿下が嫁いだ領だ」
「なんとか持ちこたえているといいですけど……」
魔物退治が済んだ町や村は、避難していた人々を呼び戻して復興を進めていくことになる。避難できる場所がなく、魔物にやられてしまった人もたくさんいるが、シェルターがあるような町では、たくさんの人がなんとか命を繋いでいた。王都や他国に避難している人々も、直に戻るだろう。
そして一行は、ヘパストス侯爵が示した被害が大きい国内領地の最後のひとつであるロミアランに到着した。
「これは……」
「ひどいな……」
「一気に片付けるわよっ!」
「セツコが一番元気だな」
ロミアラン領に入った一行は、唖然とした。これぞ溢れると表現するに相応しいと言えるほど、魔物が溢れているのだ。
開いた口が塞がらないズェラシエに続いて、魔物や怪獣退治に慣れているジスもさすがに驚くほどの数だった。しかしセツコは、臆する間もなくサッとペガサスに跨り、少し上空へ駆けてから一気に畳みかけるように光を放つ。
「アギォ・フォス!」
聖なる光に照らされた魔物は粒子になって消える。セツコは広範囲に有効な神聖力を放ったが、それでも倒せたのは一部だった。
「先に瘴気を浄化します!」
「セツコ! ひとりで進むな!」
「っ!」
地上からジスが叫ぶ。
ペガサスの足に比べたら、皆足手まといのようなものだ。しかし、ジスは夫としても、愛するセツコをひとりで行かせるわけにはいかないのだ。
セツコはそれを感じ取ったのか、一度降りてきた。
「俺は連れて行け」
「ふふっ、そうね旦那様」
「イチャイチャしてんなコラ」
「セツコ、そちらは任せた」
「はい!」
ズェラシエのツッコミはスルーして、レッツランドに笑顔で頷いて見せるセツコ。二人を乗せてペガサスは、報告されていたロミアランの瘴気ポイントへ向かう。
シェーレ国最東のロミアラン領。瘴気が湧き出ているのは、東の国境の魔の森より少し南に下りたところだった。ペガサスはそこまで一気に駆ける。目的地に近づくと、禍々しい気が強くなってきた。
「あのあたりね」
「すごい靄だな」
「ええ……」
瘴気の側に来ると、生き物は皆気が滅入る。黒い気を睨みつけながら、セツコは浄化のために言葉を選んでいく。
「魔世界より出でし黒き道よ……」
セツコとジスを乗せ空を飛ぶペガサスの周りに、光が集まり始める。
「我は闇を照らすもの!」
光が強くなる。
「強い光に闇は消し去られる!」
大きくなっていく光。
「ディナド・フォス・ディアフォティーゾ!」
ひときわ強く輝くセツコの神聖力で、あたりは光に包まれる。
光がおさまると、禍々しい黒い靄は消え去っていた。
「セツコ」
「ええ、戻りましょう。ペガさん、お願い」
「心得た」
瘴気の浄化を済ませると、あたりの魔物も消え去っていた。それを確認してから、第15兵団の元へ急いだ。
「聖女様、ありがとうございました。凄まじいお力だ」
「いえ、私はできることをしただけですので」
「なんていい子なの!」
「えっ? きゃっ……!」
ロミアラン領主である辺境伯ラァガス・アテイナドが頭を下げると、セツコは謙遜でもなくそう言った。するとアテイナド伯に嫁いでいた現シェーレ王の三女であるペネロッペが飛びついてきたので、セツコは後ろに倒れそうになる。
「おっと」
「あ、ジス、ありがとう」
「あはっ、ごめんね」
セツコは領内の瘴気を浄化したあと兵団と合流し、魔物を倒しながら領主の館へ向かった。そこは、館というよりもはや要塞のような作りだったが。巨大な要塞は頑丈で、領民すべてが避難することができるようになっていた。食料や水も、大量の蓄えがある。
ここで辺境伯兵団と合流し、一週間ほどかけて皆で領内の魔物を倒すことができた。魔物が通る瘴気の道はすでにないので、これ以上増えることはない。
一行は館へ戻り、これでひと段落ついた、と喜び合っているところだ。
「ほーんと、セツコちゃんすごいのね! 神聖力、とってもきれいだった」
「ありがとうございます。ペネロッペさんの華麗な剣さばきもすてきでしたよ。女剣士……憧れます」
「まあまあまあ! なんてかわいいのっ!」
「ぐえっ」
「夫人、セツコの首が絞まっている。離れてくれ」
ジスは、そっとペネロッペをセツコから引き剥がした。
基本的に、女性兵士の登用枠はあるのだが、なかなか兵士になろうというものはいない。今回の戦いの中でも、セツコとペネロッペしか女性は存在しなかった。そんな二人がこの調子でわちゃわちゃやっているものだから、魔物との闘いの中での癒しだったようで、今も兵士たちは、二人をあたたかく見守っている。
「少しは休んでいけるんでしょ?」
「いえ、まだ危機にある町や村はたくさんあります。復興のお手伝いができないのは心苦しいですが、すぐ発たないと」
「いやいや少しくらい休んで行こうぜ? さすがに移動と戦いで、皆も疲弊しているだろ」
「そうだな。セツコ、休むのも仕事だ」
気がはやるセツコは、今にも飛び出して行きそうだ。しかしズェラシエとレッツランドは、兵士たちを休ませてやりたいと思っていた。
「セツコ、ラァガス殿に聞いたが、今館に避難してきている中に町の名物にもなっているハンブァーガーを作れる料理人がいるそうだ」
「えっ、ハンバーガーを?」
「ああ。それに、ショウリャンポウというーー」
「えっ! 小籠包!?」
「菓子職人もいるぞ。たしかマキャロンだったか、それーー」
「マカロンっ!!」
セツコが食べ物に釣られた結果、3日ほど滞在して皆の体力回復を待つことになった。
ペネロッペは大層喜び、セツコを着せ替え人形にしながら一緒に食事やティータイムを楽しんだ。
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