上 下
29 / 34
第二章

第八話 二人目の乱入者

しおりを挟む

「あなたがさっさと浄化しないから、国外の商隊が城に来れないのよ?」


これでもかと胸元の開いた煌びやかなドレスを身にまとい、扇子で口元を隠し王子の向こう側に立っている美女。セツコが婚約破棄された元凶である。婚約云々については、セツコは気にしていないのだがカレンデュラは「聖女に勝った」と、思っている。


「カレン、今この女の罪を暴いているところだ。少し待ってくれ」

「罪? セツコに何の罪が?」

「なんだと?!」


ジスは、セツコを背に庇ったままヒュピテックを睨みつける。片手は剣に置いていた。ズェラシエは口を閉じたままだがいつでも剣を抜けるようにして構えている。レッツランドは、二人が手を出さなくて済むように王子との間に立っていた。


「この国に召喚され聖女として扱ってやった恩を忘れて、仕事を放棄してゾゼにいたんだろう!」

「よくもそのようなことが言えるな」

「なっ! いや、だいたいお前はなんだ! 俺は王子だぞ!!」

「まあまあまあまあ! とても素敵なお方!」

「は、……え?」


ジスとヒュピテックが険悪な状態のところへ割って入ったのはカレンデュラ。ゾゼでは国内随一の美貌を誇るジス。いい男好きには格好の標的だ。カレンデュラの態度を見て、ヒュピテックは唖然としている。


「ねえあなた、お名前は? この国の兵士ですの?」

、なにか?」


今度はセツコがジスの前にずいっと出た。夫、と言われたことと、何やら嫉妬しているかのようなセツコの態度を見て、ジスはにやけている。


「は? 夫? あなたの?」

「そうですが?」

「ああ、あなたも聖女の力が必要だからと結婚を迫られたのね? かわいそうに」

「なんですって?」


セツコが握りこぶしに力を込めたのに気づいて、傷ついてはいけない、とそっと手を取る。


「ジス……」

「あなたには用はないのよ。ねえあなた、ここにいても楽しいことはないわ。私の部屋でお茶でもいかが?」

「か、カレン! 何をーー」

「あなたは黙っていらして? 最近、新しいドレスも宝石もくださらないじゃない」

「そ、それはなかなか商品が手に入らず……だから! その女のせいなのだ!」


カレンデュラはジスに擦り寄り、ヒュピテックはセツコを糾弾する。二人のせいで、この場はめちゃくちゃになってしまった。


「いい加減にしろ!」


そう言って覇気を飛ばすジス。さすが元騎士団長、その気迫に皆が慄いた。


「俺たちはゾゼ国に助けを求めた貴殿らからの要請でシェーレを浄化しに来たんだ。このような茶番に付き合ういわれはない」

「ああ、ああすまない、ジス王子」

「えっ、王子?」

「元、だ。その呼び方はやめてもらおう」

「ああ、そうだな。ジス殿」


王子と聞いてヒュピテックとカレンデュラの顔色が変わった。カレンデュラの頬は赤く色付き、ヒュピテックは青くなっていく。


「まあ、あなた王子なの?」

「ゾゼの王子って、元王子って……まさか第二騎士団の……?」


生き残っているゾゼの元王家、ベレロフォーン家の王子といえば、第三王子ジス・ベレロフォーンだけだ。第三王子が団長を務めていた第二騎士団は、魔物や魔獣の類の討伐を得意とすることで有名だった。この国にも、団長のその剛腕は轟いている。
ヒュピテックは身震いした。しかしカレンデュラはさらにジスに興味を持ち、誘惑するようにしな垂れ掛かる。が、ジスはそれをスッとかわした。


「ちょっと」

「寄るな」

「なっ!」

「カレン!」


避けるジスに文句を言おうとしたカレンデュラだったが、鋭い目で睨まれ一刀されてしまう。そんな彼女の浮気ともいえる行動に激怒したヒュピテックはカレンデュラの肩に掴みかかるが、王がそれを遮るように声を上げる。


「お前たち、いい加減にしないか!」

「「ひっ!!」」


王の滅多に聞かない威圧感のある声に震えあがる二人。


「二人を拘束しておけ!」

「そっそんな、父上!」

「や、離して!」


文句を言いながら兵に連れられて退場していく二人。それを見送り、会議室に集まっていたものたちも下がらせた。そして扉が閉まったことを確認してから、王は再びセツコとジスに頭を下げた。


「ほんとうに、すまない……」

「あー、まあ。えっと、王さまも大変ですね?」

「……ふっ」

「あっ、なによジス」

「いや……すまない……ふふっ。大変ですね、って……ふっ……」


邪魔ものがいなくなってひと段落し、気の抜けたセツコらしい物言いに、ジスは笑いを堪え切れなかった。頭を下げた王も、どうしたものかと汗を流している。


「あっ、王さま、顔を上げてください」

「あ、ああ……ありがとうセツコ殿」

「いえ。まあ、あれが次の王ってちょっと、とは思いますけど……大丈夫なんですか?」


ズバリと言い過ぎだ。


「……アレについては、きちんと責任を取るつもりだ。我が国のことなのに、心配かけてすまない」

「まあお隣さんなので、影響が出ないよう祈っています」

「約束しよう」


王も、ヒュピテックについてはきちんと責任を取らせるつもりでいる。あの状態で王になろうものなら、セツコたちの住むゾゼにだって悪影響でしかない。その件は、シェーレ国内できちんと処理されることだろう。


「セツコ殿を召喚して5年が経つ。僅かずつだが、次の召喚に必要な聖力を神女たちで溜めていた。あと少しで何とかなりそうなのだ」

「そうなんですね! それはいい知らせです」

「国内を回り終わったら、足りない分の聖力をお借りしたいのだが……」

「はい、お任せください」

「……ありがとう」


シェーレをが正常な状態に戻り、次の聖女を召喚し引き継げば、この国も落ち着くだろう。

セツコは、ジスとペガサスとシェーレの第15兵団と共に、浄化の旅へ出発した。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

自称マッチョな伯爵令息に婚約破棄された侯爵令嬢は、冒険者になります

みこと
ファンタジー
「ディアナ、貴様との婚約は破棄する!」まさにテンプレな婚約破棄宣言をしたのはヴォルフ伯爵家嫡男、カール。残念ながら、彼は私、シュナイダー侯爵家次女、ディアナの婚約者です。 実は私、元日本人の転生者です。 少し、いやかなり残念なカールはマッチョを自称し、何でも「真実の愛」を見つけたらしいです。 まぁ「ふ〜ん」って感じです。 マッチョって言うより肥満でしょう...私は細マッチョがいいです。むふ♡ 晴れて自由になった私は冒険者になろうと思います。

不憫なままではいられない、聖女候補になったのでとりあえずがんばります!

吉野屋
恋愛
 母が亡くなり、伯父に厄介者扱いされた挙句、従兄弟のせいで池に落ちて死にかけたが、  潜在していた加護の力が目覚め、神殿の池に引き寄せられた。  美貌の大神官に池から救われ、聖女候補として生活する事になる。  母の天然加減を引き継いだ主人公の新しい人生の物語。  (完結済み。皆様、いつも読んでいただいてありがとうございます。とても励みになります)  

虐げられるのは嫌なので、モブ令嬢を目指します!

八代奏多
恋愛
 伯爵令嬢の私、リリアーナ・クライシスはその過酷さに言葉を失った。  社交界がこんなに酷いものとは思わなかったのだから。  あんな痛々しい姿になるなんて、きっと耐えられない。  だから、虐められないために誰の目にも止まらないようにしようと思う。  ーー誰の目にも止まらなければ虐められないはずだから!  ……そう思っていたのに、いつの間にかお友達が増えて、ヒロインみたいになっていた。  こんなはずじゃなかったのに、どうしてこうなったのーー!? ※小説家になろう様・カクヨム様にも投稿しています。

義妹がすぐに被害者面をしてくるので、本当に被害者にしてあげましょう!

新野乃花(大舟)
恋愛
「フランツお兄様ぁ〜、またソフィアお姉様が私の事を…」「大丈夫だよエリーゼ、僕がちゃんと注意しておくからね」…これまでにこのような会話が、幾千回も繰り返されれきた。その度にソフィアは夫であるフランツから「エリーゼは繊細なんだから、言葉や態度には気をつけてくれと、何度も言っているだろう!!」と責められていた…。そしてついにソフィアが鬱気味になっていたある日の事、ソフィアの脳裏にあるアイディアが浮かんだのだった…! ※過去に投稿していた「孤独で虐げられる気弱令嬢は次期皇帝と出会い、溺愛を受け妃となる」のIFストーリーになります! ※カクヨムにも投稿しています!

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

今さら跡継ぎと持ち上げたって遅いです。完全に心を閉ざします

匿名希望ショタ
恋愛
 血筋&魔法至上主義の公爵家に生まれた魔法を使えない女の子は落ちこぼれとして小さい窓しかない薄暗く汚い地下室に閉じ込められていた。当然ネズミも出て食事でさえ最低限の量を一日一食しか貰えない。そして兄弟達や使用人達が私をストレスのはけ口にしにやってくる。  その環境で女の子の心は崩壊していた。心を完全に閉ざし無表情で短い返事だけするただの人形に成り果ててしまったのだった。  そんな時兄弟達や両親が立て続けに流行病で亡くなり跡継ぎとなった。その瞬間周りの態度が180度変わったのだ。  でも私は完全に心を閉ざします

処理中です...