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第二章

第八話 二人目の乱入者

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「あなたがさっさと浄化しないから、国外の商隊が城に来れないのよ?」


これでもかと胸元の開いた煌びやかなドレスを身にまとい、扇子で口元を隠し王子の向こう側に立っている美女。セツコが婚約破棄された元凶である。婚約云々については、セツコは気にしていないのだがカレンデュラは「聖女に勝った」と、思っている。


「カレン、今この女の罪を暴いているところだ。少し待ってくれ」

「罪? セツコに何の罪が?」

「なんだと?!」


ジスは、セツコを背に庇ったままヒュピテックを睨みつける。片手は剣に置いていた。ズェラシエは口を閉じたままだがいつでも剣を抜けるようにして構えている。レッツランドは、二人が手を出さなくて済むように王子との間に立っていた。


「この国に召喚され聖女として扱ってやった恩を忘れて、仕事を放棄してゾゼにいたんだろう!」

「よくもそのようなことが言えるな」

「なっ! いや、だいたいお前はなんだ! 俺は王子だぞ!!」

「まあまあまあまあ! とても素敵なお方!」

「は、……え?」


ジスとヒュピテックが険悪な状態のところへ割って入ったのはカレンデュラ。ゾゼでは国内随一の美貌を誇るジス。いい男好きには格好の標的だ。カレンデュラの態度を見て、ヒュピテックは唖然としている。


「ねえあなた、お名前は? この国の兵士ですの?」

、なにか?」


今度はセツコがジスの前にずいっと出た。夫、と言われたことと、何やら嫉妬しているかのようなセツコの態度を見て、ジスはにやけている。


「は? 夫? あなたの?」

「そうですが?」

「ああ、あなたも聖女の力が必要だからと結婚を迫られたのね? かわいそうに」

「なんですって?」


セツコが握りこぶしに力を込めたのに気づいて、傷ついてはいけない、とそっと手を取る。


「ジス……」

「あなたには用はないのよ。ねえあなた、ここにいても楽しいことはないわ。私の部屋でお茶でもいかが?」

「か、カレン! 何をーー」

「あなたは黙っていらして? 最近、新しいドレスも宝石もくださらないじゃない」

「そ、それはなかなか商品が手に入らず……だから! その女のせいなのだ!」


カレンデュラはジスに擦り寄り、ヒュピテックはセツコを糾弾する。二人のせいで、この場はめちゃくちゃになってしまった。


「いい加減にしろ!」


そう言って覇気を飛ばすジス。さすが元騎士団長、その気迫に皆が慄いた。


「俺たちはゾゼ国に助けを求めた貴殿らからの要請でシェーレを浄化しに来たんだ。このような茶番に付き合ういわれはない」

「ああ、ああすまない、ジス王子」

「えっ、王子?」

「元、だ。その呼び方はやめてもらおう」

「ああ、そうだな。ジス殿」


王子と聞いてヒュピテックとカレンデュラの顔色が変わった。カレンデュラの頬は赤く色付き、ヒュピテックは青くなっていく。


「まあ、あなた王子なの?」

「ゾゼの王子って、元王子って……まさか第二騎士団の……?」


生き残っているゾゼの元王家、ベレロフォーン家の王子といえば、第三王子ジス・ベレロフォーンだけだ。第三王子が団長を務めていた第二騎士団は、魔物や魔獣の類の討伐を得意とすることで有名だった。この国にも、団長のその剛腕は轟いている。
ヒュピテックは身震いした。しかしカレンデュラはさらにジスに興味を持ち、誘惑するようにしな垂れ掛かる。が、ジスはそれをスッとかわした。


「ちょっと」

「寄るな」

「なっ!」

「カレン!」


避けるジスに文句を言おうとしたカレンデュラだったが、鋭い目で睨まれ一刀されてしまう。そんな彼女の浮気ともいえる行動に激怒したヒュピテックはカレンデュラの肩に掴みかかるが、王がそれを遮るように声を上げる。


「お前たち、いい加減にしないか!」

「「ひっ!!」」


王の滅多に聞かない威圧感のある声に震えあがる二人。


「二人を拘束しておけ!」

「そっそんな、父上!」

「や、離して!」


文句を言いながら兵に連れられて退場していく二人。それを見送り、会議室に集まっていたものたちも下がらせた。そして扉が閉まったことを確認してから、王は再びセツコとジスに頭を下げた。


「ほんとうに、すまない……」

「あー、まあ。えっと、王さまも大変ですね?」

「……ふっ」

「あっ、なによジス」

「いや……すまない……ふふっ。大変ですね、って……ふっ……」


邪魔ものがいなくなってひと段落し、気の抜けたセツコらしい物言いに、ジスは笑いを堪え切れなかった。頭を下げた王も、どうしたものかと汗を流している。


「あっ、王さま、顔を上げてください」

「あ、ああ……ありがとうセツコ殿」

「いえ。まあ、あれが次の王ってちょっと、とは思いますけど……大丈夫なんですか?」


ズバリと言い過ぎだ。


「……アレについては、きちんと責任を取るつもりだ。我が国のことなのに、心配かけてすまない」

「まあお隣さんなので、影響が出ないよう祈っています」

「約束しよう」


王も、ヒュピテックについてはきちんと責任を取らせるつもりでいる。あの状態で王になろうものなら、セツコたちの住むゾゼにだって悪影響でしかない。その件は、シェーレ国内できちんと処理されることだろう。


「セツコ殿を召喚して5年が経つ。僅かずつだが、次の召喚に必要な聖力を神女たちで溜めていた。あと少しで何とかなりそうなのだ」

「そうなんですね! それはいい知らせです」

「国内を回り終わったら、足りない分の聖力をお借りしたいのだが……」

「はい、お任せください」

「……ありがとう」


シェーレをが正常な状態に戻り、次の聖女を召喚し引き継げば、この国も落ち着くだろう。

セツコは、ジスとペガサスとシェーレの第15兵団と共に、浄化の旅へ出発した。





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