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第二章

第五話 王都へ

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「ところで、何でお前までいるんだ?」

「夫婦なんだ、片時も離れていたくない」

「夫婦……」


カロン河から王都まで、行軍して二日といったところだ。
最初の野営地で、兵団の残りの食料でセツコが料理を始めた。手伝っていたジスだったが、あとは煮込むだけだというのでその場を離れて火の側に腰をおろす。すると、間髪入れずにズェラシエが疑問をぶつけてきた。


「ほんとうはツバサも連れてきたかったんだがな。さすがに三歳の子を戦場に連れて行くわけにはいかないだろう? 仕方ないからレイラに任せてきた。レイラはザルバロの妹だし少し前に母になったから安心して預けられるだろう? ザルバロも、王に即位してから忙しくはしているが、あいつは妹ラブだからな。ひょっとしたらあの家にまで様子を見に来ているかもしれないな」

「は? ……え?」


何も知らないもの相手に、つらつらと話し出したジス。あまりにも情報量が多く、ズェラシエはフリーズしてしまった。


セツコとジスが夫婦?


子が、三歳? 


レイラが王の妹で??


王が、様子を見に???



何に驚けばいいのか、もうわからなかった。





「は? 王子」

「元、だ」

「マジかー……」


そしてさらに、ジスがベレロフォーン家の生き残りだと知って、とりあえずそこに一番驚いておいた。


「できたよー」

「ああセツコ、俺が運ぶよ」

「ありがと」

「夫婦……」


まさか一緒に戦っていた仲間が、『元』とはいえ王子と結婚していたなんて、と衝撃を受けたズェラシエ。しかももう子供もいるという。三歳……実際には間もなく三歳、だが。


「三歳……ん? え、じゃあお前、産まれる頃セツコを捜していたのか?」

「ん? ああ、そう……だな」


ジスはさすがにバツの悪そうな顔をする。
実際は違うが、これでは妊娠中の妻を置いて放浪していたみたいだ。

セツコは、食事をしながらそのときのことを話した。ジスが王子だと知って、自分では釣り合わないから身を引こうと思い離れたあとに妊娠がわかった、と。書き置きにあったから、きっと迎えに来てくれると思って待ちつつ、出産し、子育てしてた、と。


「それにしても結局一年くらいかかったものね」

「それは、すまん……」

「まあ、出産前に来てくれたとき、まだ自信が無くて隠れちゃったのは私だけど」

「その後俺も、セツコ捜しの旅といいつつ各国を回るのが楽しくなってしまってな」

「ふふっ、仕方のないひと」

「再会できたときにはすでにツバサを抱いていたから驚いたよ」

「誰の子だーって?」

「いや、確信はなかったが、俺の子だと思ったよ」

「あのとき?」

「ああ。とても神々しかったな……雲が晴れていって、セツコがツバサを抱いていて……」

「ジスってば」

「セツコ……」

「ちょいちょいちょい待て」


勝手にいい雰囲気になっているバカップルにツッコまずにはいられないズェラシエだった。


そして、兵団の仲間とセツコとジスが王都に着くころ、早馬ですでにセツコの来訪を知らされていた城では、聖女帰還に沸いていた。
一行が到着すると、城下町では大変な歓迎を受けた。そこに王の使者がやってきて、すぐ城に案内されることになる。


「こちらでお待ちください」


案内されたのは私的な応接室だった。

第15兵団の兵たちは皆城下町住まいなので、各家へ戻った。
兵団長レッツランドと副団長ズェラシエ、それにセツコとジスとペガサスが城へ来ていた。サイズ的に建物内に入れなかったペガサスは、城の中庭で遊んでいる。


「セツコはシェーレ王とは会ったことがあるのか?」

「ええ、一度だけね。召喚されたときに、挨拶されたわ」

「ふぅん?」

「ひとの良さそうなおじいちゃん、って印象かな」

「おじいちゃん……」


そう、シェーレ国の王であるポプティット・ルル・シェーレは、あの王子の親とは思えないほどなのだ。ひとの良さが顔ににじみ出ている。だからといってボーっとしている愚王なわけではない。精力的に各国との関係を良好に保っていたし、内政についても、きちんと国民の方を見ている。王子は遅くに出来た子だったので、甘やかして育てた結果、あのように出来上がってしまったのだ。

王はそのことに責任を感じているので、我が子の尻拭いはきちんとしてきた。セツコに対しては、行方もわからなかったのでどうしようもなかったのだ。しかし今回、セツコが聖女として来てくれるとゾゼから知らせが来た。シェーレ国内を浄化しながら北上し、第15兵団と合流して城に向かっていると、知らせが来た。これで王は、セツコがいたあの一年間の功績を讃えることができるし、我が子のしたことを謝る機会も得られた。

城兵が王の到着を告げる。


そして、扉が開かれた。


「待たせてすまない」


さあ、緊張の一瞬だ。





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