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第二章

第三話 圧倒的な力

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シェーレの魔物被害は各地で広がっていた。瘴気の浄化ができないので、兵士たちが、湧いてくる魔物をひたすら倒すしかないのだ。聖女がいなくなって5年……皆が疲弊していた。

国の中心に位置する王都から南へ下ったところにあるリンドベルドの町。ジスがセツコを捜して訪れたのは3年ほど前のことだった。以前は、いろいろな商店が立ち並び酒場も遅くまで賑わっていたのだが、今やその面影は無い。


「ここも魔物に占領されたのね」

「ああ……俺が来たときは、とても賑わっていたんだが」

「女将さん、無事かしら」


セツコは以前、浄化の旅をしていたときここにも立ち寄っている。酒場の女将は気のいい人で、料理もとても美味しかった。レシピを教えてもらうため、料理教室を開いてもらったこともあるのだ。仲良くしていただけに、安否が気遣われる。

ゾゼはシェーレの南に位置する国だ。南側から真っ直ぐ王都に向かっているセツコたちは、途中、瘴気を浄化しなが進んでいる。目についた魔物も倒しながら来た。ここリンドベルドの側の浄化も済んだので、今は町の中にいる魔物を倒しているところだった。


「ここにも兵士がいないってことは、今の前線は王都手前のカロン河あたりかもしれない……」

「それはまずいな。河を越えたらすぐ王都じゃないか」

「そうね……急ぎましょう」


セツコは神聖力で、魔物をどんどん消し去っていく。ジスも父王が持っていた武器・雷霆らいていケラウノスを振るい、あたりの魔物を雷で貫いた。





リンドベルドから北上し、王都の手前にあるカロン河では、魔物と第15兵団が対峙していた。
聖女に付き従う第15兵団は、当然それに見合った手練ればかりだった。しかし5年に渡る攻防戦で疲れ果てている。通常の魔物だけならまだしも、魔物側には番犬ケルベロスを従えたテュポーンが、その戦線に加わっていた。


「ぐっ……」

「下がれ! 炎がくるぞ!!」

「アヴェヴァ・メロウ!」


テュポーンの火炎攻撃に対抗するように水魔法を舞い上がらせる兵団長レッツランド。辺境伯でもあるジェス・レッツランドは、魔法にも長けている。迫りくる炎を、水の壁で抑え込む。


「団長!」

「防戦一方ではいずれ疲弊して全滅する!」

「団長、俺が斬り込みます。援護よろしくっ!!」

「ズェラシエ!」

「はぁああああああああっ!!」


後方で構えていた兵団長すらも前線に出なければならない状況になった。これはまずい、と遠距離魔法の援護を受けて飛び出すズェラシエ。彼の剣は兵団一だ。


「イェロ・プラァグマっ」

「なっ……!?」


突然、テュポーンに向かうズェラシエの前に、光の壁が出現した。
ズェラシエが、驚いて声のした方を見ると、そこには真っ白なペガサスが見えた。


「ペガ…サス……?」

「下がってください!」


上空から降ってくる声には、聞き覚えがあった。ずいぶん懐かしく感じるが、仲間だったものの声だと、ズェラシエはすぐに気づいた。


「セツコっ?!」

「イェロ・ベリオス!」


セツコが唱えると、神聖力が矢となってテュポーンを貫く。それは尋常じゃない強さだった。


「すごいな……」

「聖力は、どの魔物も弱点だから。神聖力が使える聖女は相性最悪の敵なのよ」


共にペガサスに乗っていたジスは、セツコが落ちないよう抱えながら、次々放たれる光の矢の攻撃力に圧倒されていた。テュポーンを一撃で倒し、ケルベロスは光に溶けた。周りの魔物も、みな光の粒子になって天に昇っていく。

ぼうっと空を見上げていた一同の中、ズェラシエはいち早く正気に戻った。そして、だんだんと地上に近づいてくるペガサスにの背にジスの姿を見つけて声を上げた。


「ああ! お前、あんときの!!」

「その節は、世話になったな」

「知り合いだった?」

「酒を酌み交わした仲だ」

「そうなんだ」


ペガサスがカロン河の岸に舞い降りる。

セツコとジスが地上に立つと、兵士たちが集まってきた。




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