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第一章
第十九話 セツコの過去
しおりを挟む「聖女の護衛に就く15兵団副団長、ズェラシエだ」
「セツコです。よろしくお願いします」
強い意志を持った目をしているな、と思ったのが、ズェラシエのセツコに対する最初の印象だった。
「下がれ!」
「私は大丈夫! みんなを癒しながら、このまま進めます!」
浄化に行くと、兵団は魔物と戦いながら聖女を守る。しかしセツコは、皆を守り、魔物を浄化しながら進み、瘴気を取り払っていった。
「並はずれた神聖力だ。歴史上で最強じゃないか?」
「そうなんですか?」
「すごいなぁ、セツコ!」
団長であり辺境伯でもあるジェス・レッツランドは、年もだいぶ下のようだからと、セツコを娘のように可愛がっていた。よく彼女を褒めるとき、頭を撫でていた。髪が乱れる、と怒られるのがセットだったが。
「酒はいける口か」
「いけるけど、そんなに好きじゃない」
「そうなのか? じゃあこれ飲んでみろよ。チゴの実のミルク割りだ」
「チゴ……? ……ああ、イチゴ味、ってか甘っ!!」
「はははははっ!」
殺伐としているはずの浄化の旅だが、セツコがいることで、兵たちは皆笑顔だった。もちろん戦闘中以外のことだが。
「はぁ……」
「なんだ、またやりあったのか?」
「なんなの? 王子ってそんなに偉いの?」
「まあ、王子だしな」
「王の子ってだけでしょう」
「ははっ、言うねぇ」
王子と会ったあとはいつもげんなりしていたセツコ。人をけなさないと話ができないのか、とよく言っていた。セツコを貶め愚痴っているだけの、婚約者として出なければならない月一のお茶会は、苦痛でしかないとこぼしていた。
旅から戻ると、王宮で少しの休息と事務作業をしてまた旅に出る。それが一年ほど続いたあと、突然セツコ追放の知らせが兵団に届いた。
「は? 追放?」
「どうやら、王子がセツコを追い出したらしい」
「どうやらって、どうして」
「それが……」
婚約が嫌になり聖女を国から追い出したという話は、王宮を駆け巡った。
そもそも聖女は、瘴気を浄化するために召喚したのだ。王子との婚約のほうがおまけのようなものなのに、王子が独断で愚かな行動をした。それにより、国内では王子に対する批判が相次いで寄せられたのだが、この時国王は他国へ外交に行っていたため対応が遅れてしまったのだ。
「魔の森って、そんなとこ……」
「まあ、セツコの神聖力をもってすれば、切り抜けられるだろうが」
「だからって、こっちの都合で異世界から召喚したってのにほっぽり出すなんて!」
「ああ、わかっているズェラシエ。しかしな……」
「捜索にも出れないのか」
「……すぐに、魔物の対応に行かねば国が滅びかねない」
「……くっ!」
聖女がいなくなったということは、国内のほぼ全兵士が魔物討伐に向かうことになる。第15兵団だけでなく、ほかでもセツコの人気は高かったので、皆がセツコがいなくなってしまった穴を埋めるよう、国民の安全のためすぐに動いた。
「そんで、各兵団が瘴気ポイントの側に常駐してるってのが現状さ。他国に聖女の派遣を願い出たっていうけどな、誰が聖女を追放した国に手を貸すってんだ」
「そうか……」
セツコのこの国での扱いを聞いたジスは、憤りを感じたが、どうやら王子以外のものは好意的だったようで安心もした。
「で? お前さんといたときはどうだった。……笑って過ごしていたか?」
「ああ、セツコはーー」
ズェラシエの少し緊張した様子を見て、ジスは自分といたセツコのことを話し始める。ペガサスに保護され、作物や花や薬草を育て、妖精とも仲良くのびのびと暮らしていた。陽だまりにいるようなセツコの話をしていると、ズェラシエは優しい表情をしてそれを聞いていた。
「それで、セツコも俺を好いていてくれていると思いーー」
「待て、それはいい。そんな話は聞きたくない」
「いや待ってくれ、ここからが本番だ。俺とセツコはーー」
「いい! 黙れ! 俺たちのセツコのイメージを穢すな!」
「聖女といっても処女性はーー」
「やめろ生々しい!」
そうして二人は、セツコの話で盛り上がり、そのまま朝を迎えることになった。
ジスはズェラシエと別れ、まずはシェーレ国内を探してみることにした。
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