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第一章
第十六話 反乱前夜
しおりを挟む時は少し戻り、反乱が起きる前夜のこと。
ジスは、ザルバロと酒を酌み交わしていた。
「ついに明日か」
「ああ……」
「お前はどうする?」
「わかっている。俺は、居ない方がいいんだろう?」
「ああ。なにせベレロフォーン家を討つわけだからな」
「……すまない」
「いや、悪いのはゼシウス王だ。生きられる道があるなら、そうしたほうがいい」
「……」
既に王家の血を引くものは、現王ゼシウスと第三王子ジスだけだ。外に蒔いた子種は数知れずだが。何件か、王の子だからと認知と継承権を求める声は上がっていたが、正式に認められている子はまだいなかった。
だからこそ、このタイミングで王家の入れ替えが行われることになったのだ。
ジスは、自分だけ逃げるということをなかなか受け入れられずにいた。ベレロフォーン家の血を引いている正統な王子なのだ。反乱が起これば、粛清される対象になる。
しかし、それはすでに三公の話し合いの場で、ジスは対象外だと定められていたし、反乱軍に加わる皆も納得している。
第二騎士団の団長として国に貢献した功績は、誰もが認めているのだ。
ジスを国王に、と推すものもいまだにいるが、神女の子ということで神殿の介入を許せばまたややこしいことになる。それに結局ベレロフォーンの血筋が後継者となれば、ゼシウスを亡き者にしても、継承権を主張するものが後を絶たないだろう。そういった理由で、ジスはゾゼの表舞台から消えるのが望ましいという結論に至った。
誰もそれを求めていないから、死ぬ必要はない。
となれば、やることはひとつだった。
「セツコを……捜しに行こうと思う」
「ああ、隣国からきた聖女か」
「別れも、言えなかった……いや、そもそも別れる気などなかったんだ」
「そうか」
王家のジスはセツコを不幸にする可能性があったので、妖精が彼女を隠してしまい、そのまま別れた二人。父王のことがあって、ずっと女性を遠ざけていたジスは、セツコが初恋で初めての恋人だった。だからか、どうしても忘れられないでいる。
王宮にはもういないほうがいいし、反乱が成功した後も、ジスは国政に関わらないほうが国の為になる。
この国にはもう、自分の居場所はないのだ。
ジスはただひとりの男として、自由に、好いた女のところへ向かうことを決めた。
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