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第一章
※第十話 光の妖精エコル
しおりを挟む「ああっ」
「いいな」
「ぜ、ゼシウスさまぁっ……!」
「ふん」
ゼシウスは、四つん這いになった女を後ろから揺さぶる。この女は見事なプラチナブロンドで、そこが気に入っていた。かつての最愛、メドゥラと同じ色だったからだ。
特に好色王として名高いゼシウスは、国王になる前から噂が絶えない男だった。
侯爵家のエリスと婚約していたが、ゼシウスは学生時代から様々な女性に手を出していた。エリスは、それでもそれらは遊びだからと容認していて、いちいち嫉妬することはなかった。
しかし結婚してからは違う。後継者の問題もあるので、正妃である自分以外を優遇されるわけにはいかなかった。子ができてからも、ほかの女に子が生まれれば争いの種になりかねないので、エリスは警戒していた。
そんなある日、ゼシウスが側妃を迎えることになる。それは、一目見て気に入った平民の娘を王宮で愛でたいから、といった身勝手な理由であった。特に、娘を側妃にと考えていた上位貴族たちからの反発は酷かったが、文句を言うものの娘たちが次々と斬られていったので、皆が口を噤み、平民の娘は王宮に迎えられた。
そして側妃に召し上げられた娘は、王の寵愛を受けるうちに男児をもうける。王妃の産んだ第一王子とは2歳しか離れていなかった。
その後、ゼシウスは貴族令嬢や、身分関係なく侍女や女官にまで手を出した。まさに節操無しの好色王である。
ギリシャスからメドゥラを連れ帰ってからのゼシウスはそれ一筋だったのだが、彼女を失ってからはまた誰彼構わず手を出すようになる。このプラチナブロンドの女は、どこぞの貴族家の何女だったか。実家の援助が期待できないので自ら身を立てるため女官として王宮に勤めていた。たまたま見掛けた彼女の後姿がメドゥラにそっくりだったため、王の寝所に連れ込まれ、ここしばらく軟禁状態だった。
「王。王妃が来る」
「エコルよ。足止めをしておけ」
「……わかった」
ゾゼの国に古くからいる妖精のひとり、光のエコル。今のこの国は……この王は好きじゃないと思っていても、代々仕えた王の中にはいい思い出もあるから、と義理で動く珍しい妖精だった。
最近のエコルの役目は、王がお楽しみの時に王妃を近づけないようにすること。相手が平民ならなおのこと、王妃は容赦なくそのものを始末する。それほど気にしているわけではないが、自分の抱いた相手が翌朝死体で見つかる、というのはなかなか気持ちの良いものではない。ゼシウスは、お楽しみの相手を王妃に見られないようにするくらいには、気を配っていた。
「エリス」
「エコル?」
「そう。あなたに贈りたい花があるの」
「花? ごめんなさいね、エコル。今……」
「とてもきれいよ。来て」
少々強引にだが、エコルはエリスを庭園に連れ出すことに成功した。そしてまた別の日、別の相手とお楽しみのときにも、ゼシウスに言われて、エコルはエリスを足止めする。
「蝶の集めた蜜で作ったクッキー。とても美容にいいの」
「そうなの、いただくわ」
しかし、女のかんが働いたときにかぎってエコルがやってくるのを不自然に思い始めた王妃は、ある日、珍しい葉でお茶を作ったというエコルを押し退けて、王の寝所へやってきた。
「ふ……う……」
「はは……っ」
「あ……ゼシ…ウス……さ………ああっ」
「もっと……て、みろ」
扉越しに漏れ聞こえる寝台の上での情事中の嬌声。エリスは手にしていた扇をへし折り、扉に投げつけた。
「そう、そういうこと」
「エリス……」
「エコル、あなたのことは友達だと、思っていたわ」
「……ごめんなさい」
「もう二度と! 私の前に現れないでちょうだい!!」
そうして王妃の怒りを買ったエコルは城を追われた。また、その時の女は、性交中に乱入してきた王妃によって連れ出され、王妃の私兵に王にされていたのと同じところを貫かれ絶命した。
王宮を追放されたエコルは、ペガサスの泉の聖なる水に呼び寄せられるようにやってきて、そこに住み家を作って暮らすようになった。
それから十数年後、隣国から追放された聖女だというセツコがやってくる。彼女の心の温かさに、光に惹かれ、その幸せを願うようになった。
「良き友人に、光溢れる未来あらんことを」
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エコル過去回でした。
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