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第一章
第四話 聖女がいないシェーレ
しおりを挟む一方、セツコを聖女として召喚したが国外追放にしたシェーレ国では、異変が起こっていた。
聖女がいなくなって1年。各地の被害は、まだ報告されていない。
この世界には、人間界の隣に魔物の住む世界がある。
世界同士は普段は離れているが、たまに人間界に瘴気が漏れ出し、そこに通路ができてしまう。それは、魔物が人間世界に来たり、人間が魔物世界に迷い込んでしまったりする道である。
そのため、神聖力で瘴気を浄化し道を塞ぐことができる聖女が一国に一人はいるものなのだが、シェーレの聖女は少し前に亡くなっていた。だからこそ異世界招喚を行ってセツコを召喚したはずなのだが、王子の私情でセツコは国を出て行ってしまった。正確に言うと追い出されたのだが。
そのときのことを振り返ってみよう。
「セツコ! 貴様との婚約は破棄だ!」
「え」
「私はこの、麗しきカレンディと結婚することにした!」
「はあ」
婚約破棄を告げられた時、セツコの頭の上には疑問符がたくさん浮かんでいた。
聖女として召喚され、元の世界で仕事に生きていた彼女は、自分の身に起きた信じられない事象を素直に受け入れ、ここでも『聖女の仕事』として各地で瘴気の浄化を文句も言わずこなしていた。
婚約させられたことは知っていたが、王子とはほとんど会うこともなかったし、会った時も「好みじゃないな、この男」などと一国の王子に大変失礼なことを思っていたくらいだ。
「婚約破棄ですね。はい。大丈夫です」
「そうだろう! おま……え? だいじょうぶ?」
「ええ。婚約は無しでいいですよ」
「は……」
仮にも王子との婚約が、無しで大丈夫とは何事だ? と、今度は王子の頭の上に疑問符が浮かぶ。王子と結婚すれば王子妃から、この国ではこの王子が王位継承第一位なので末は王妃、国で一番尊い女性になれるのだ。誰もが羨む地位、なのに目の前の女はそれを簡単に無しでいいと言う。
「そんな、はず」
「もういいですか? 次の地へ赴かなければいけませんので」
「なっ!」
それはそうだろう。会えば見下した目で見てくるし、セツコを否定するような事しか言わない。何か話し始めたと思えば、文句や愚痴だらけだ。尊敬できるような人間ではなく、そこにいても邪魔なだけだった。セツコには、瘴気の浄化の仕事の方が大事なのだ。
女性にとっては一大事なはずの婚約破棄だったが、セツコは何でもない事のように言う。
そんな態度が、王子のプライドをギタギタに傷つけた。
「きさまっ……! 追放、追放だ!!」
「は?」
「婚約を破棄したうえで、この国からも追放だ!!!」
「何を言って――」
「黙れ! 王子である私を愚弄したのだ! 今すぐ国から出ていけ!!」
それからすぐ、王子の私兵に連れられて城を出ると、馬車に詰め込まれ、ゾゼとの国境にある魔の森に捨てられたのだ。
「……瘴気の浄化って、ほかにする人いないんじゃないの?」
捨てられた森で、独り言ちるセツコ。
それはその通りなのだが、頭に血の昇った王子は当然そこまで考えていなかった。
そうして1年が経ち、シェーレ国内の瘴気は、浄化する者がいないので当然増える。つまりは魔物の通り道がボコボコ開いている状態だ。
前聖女が亡くなってからセツコが来るまでと同じように、今はなんとか国の兵士が魔物を押さえ込んでいる。しかし、これ以上通路が増えたらどうなるかわからない。
早急に聖女の浄化が必要な状況だった。
「カレンディが聖女の代わりだと言っていたではないか!」
「そ、そうです父上! セツコの代わりの婚約者です!」
「代わりの聖女ではないのか?!」
「違います! カレンディにそんな力はありませんよ!」
「な、なんということだ……」
そんな会話がされたのはいつだったか、もう半年以上前のことだ。長い外交から王が戻ると、王子はセツコを追い出しカレンディを代わりに据えると報告した。しかしそれは、婚約のことで、聖女云々の話はしていなかったのだ。
その後国王は、息子の愚かな行為を咎め、すぐにセツコを呼び戻せなかったことを悔いた。が、悔いていても仕方がない。セツコの足取りはつかめないのだ。
新たな聖女を召喚しようにも、異世界招喚術はポンポン行えるような儀式ではない。他国に援助を求めるしかない、と近隣諸国に知らせを送っていた。
『どうか聖女をお貸しいただきたい』
しかし、それを受けた周辺国の上層部の面々は、シェーレ国で聖女召喚の儀が行われたことを知っていたので、皆疑問に思った。召喚された聖女はどうしたのか、と。
そういったことの調査が行われているため、未だに他国からの聖女の援助はなかった。それはそうだろう。少し前に召喚された聖女がどうなっているのかわからないまま、自国の大切な聖女を向かわせるわけにはいかない。数人聖女がいる国でも、だからといって帰ってきませんでしたではすまない。シェーレ国は、まだしばらくは国内の勢力だけで魔物と対峙しなければならないようだ。
「くそっ! セツコめ!! 仕事を放棄して何をしているのだ!!」
いやあんたが追い出したんだよ、とそこにいる誰もが思ったが口に出さなかった。
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