上 下
2 / 34
第一章

第二話 ジスとザルバロ

しおりを挟む
さて、ペガサスに連れて来られた傷だらけの騎士の話をするとしよう。

彼の名は、ジス・ベレロフォーン。第二騎士団の団長を務めているが、この国の第三王子でもある。


ある時、国内に怪獣キマイラが出現した。辺境の地で確認されたキマイラを討とうと近隣の兵たちで討伐にあたるが、いとも簡単に退けられてしまった。

その知らせを受け、地上からの攻撃は意味をなさないと学習した国の軍部が、ペガサスを従え上空からの攻撃を試してはどうかと王に進言した。
国政にはほとんど関わらない王はただひと言「好きにしろ」とだけ指示した。そして議会での話し合いののち、討伐隊として、魔物や魔獣の類の討伐を得意とする第二騎士団を派遣することにした。

王ゼシウスは言う。


「この金のくつわを持ちペガサスを従え、キマイラの討伐をしてこい」

「かしこまりました」


王家に受け継がれる『金のくつわ』。これを使えば、ペガサスは人をその背に乗せてくれるという。

ジスは、王からそれを受け取り、騎士団を率いて出陣することになった。


「ジスよ、此度の其方の働きに期待しているぞ」

「……は!」


王に、父に期待されて嬉しい。などと思うことはなく、ジスは騎士団長として礼をして退出した。


ジスは討伐の辞令を聞いてまず、王都警備を主とする第一騎士団のザルバロ・フィーを訪ねた。
ひと通り話をすると、ザルバロはため息をついて言った。


「なんだって第三王子でもあるお前が行くんだ?」

「……王子、というより俺は騎士団長として国に仕える身だからな」


この男、ザルバロ・フィーは、フィー公爵家の若き当主である。フィー家は、建国時に定められた公爵家のひとつで、シェーレとは逆の隣国マテアから王女をいただいている。ザルバロは、祖母がマテアの王女であるというとても高貴な血筋だ。初代まで辿れば、ジスとも血縁になる。

ザルバロとジスは年が同じで、幼少より通っていた貴族学園での同級生だ。王妃の息子ではないジスだったが、他の二人の王子と同じ教育を受けていた。国王によって、王子は皆平等とされていたのだ。

第一王子は王妃の子だが病弱だった。第二王子の母は、身分がないうえすでにこの世にいない。そして第三王子であるジスは、他国の神女しんにょであった母を持つが、こちらもすでに亡くなっている。継承権は年齢順であり、ジスは第三位だが、王に気に入られているという点で、ジスが王位に一番近いとされていた。


「俺は行ってくる。ここは任せたぞ、ザルバロ」

「ああ。ご帰還をお待ちしております、っと」

「ははっ、じゃあな」


母を早くに亡くしているジスは、フィー前公爵が後ろ盾となり保護していた。それもあって、ザルバロのことは幼少時より誰よりも信頼しているのだ。


おどけて敬礼して見せたザルバロに、笑顔で別れを告げるジス。


そしてその日、ジスはペガサスの元へ向かった。





しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件

実川えむ
恋愛
子供のころチビでおデブちゃんだったあの子が、王子様みたいなイケメン俳優になって現れました。 ちょっと、聞いてないんですけど。 ※以前、エブリスタで別名義で書いていたお話です(現在非公開)。 ※不定期更新 ※カクヨム・ベリーズカフェでも掲載中

山に捨てられた令嬢! 私のスキルは結界なのに、王都がどうなっても、もう知りません!

甘い秋空
恋愛
婚約を破棄されて、山に捨てられました! 私のスキルは結界なので、私を王都の外に出せば、王都は結界が無くなりますよ? もう、どうなっても知りませんから! え? 助けに来たのは・・・

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

完)まあ!これが噂の婚約破棄ですのね!

オリハルコン陸
ファンタジー
王子が公衆の面前で婚約破棄をしました。しかし、その場に居合わせた他国の皇女に主導権を奪われてしまいました。 さあ、どうなる?

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

聖女はただ微笑む ~聖女が嫌がらせをしていると言われたが、本物の聖女には絶対にそれができなかった~

アキナヌカ
恋愛
私はシュタルクという大神官で聖女ユエ様にお仕えしていた、だがある日聖女ユエ様は婚約者である第一王子から、本物の聖女に嫌がらせをする偽物だと言われて国外追放されることになった。私は聖女ユエ様が嫌がらせなどするお方でないと知っていた、彼女が潔白であり真の聖女であることを誰よりもよく分かっていた。

【完結】小国の王太子に捨てられたけど、大国の王太子に溺愛されています。え?私って聖女なの?

如月ぐるぐる
恋愛
王太子との婚約を一方的に破棄され、王太子は伯爵令嬢マーテリーと婚約してしまう。 留学から帰ってきたマーテリーはすっかりあか抜けており、王太子はマーテリーに夢中。 政略結婚と割り切っていたが納得いかず、必死に説得するも、ありもしない罪をかぶせられ国外追放になる。 家族にも見捨てられ、頼れる人が居ない。 「こんな国、もう知らない!」 そんなある日、とある街で子供が怪我をしたため、術を使って治療を施す。 アトリアは弱いながらも治癒の力がある。 子供の怪我の治癒をした時、ある男性に目撃されて旅に付いて来てしまう。 それ以降も街で見かけた体調の悪い人を治癒の力で回復したが、気が付くとさっきの男性がずっとそばに付いて来る。 「ぜひ我が国へ来てほしい」 男性から誘いを受け、行く当てもないため付いて行く。が、着いた先は祖国ヴァルプールとは比較にならない大国メジェンヌ……の王城。 「……ん!?」

処理中です...