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17.助けに来てくれました。
しおりを挟む「ヨリコ、無事だね?」
「ジーク、さん……。」
王様の横を抜けて、ジークさんは部屋に駆け込んできて私の無事を確認してくれた。
「ごめん、怖い思いさせた。」
「いえ、あまり怖くはなかった、です。」
「そう?」
「はい。キモさが上回って……。」
「きもさ?」
「あっ、『気持ち悪い』ってことです。」
「ああ、そうか。」
「なっ、お前! 気持ち悪いだと?! めっちゃ言ってたじゃないか! 不敬だぞ!!」
通じてないようだったからよかったけどバレてしまった。でももうジークさんもいるし、怖くなんかないもんね。
「黙れジャラン。貴様、聖女殿を攫ってきたらしいな? ジークフリードが共にいたというのに何ということを……。私は『謝って連れ戻せ』と言ったはずだ。」
「お、俺はただ、その女を連れてこいと言っただけで……騎士団長! どうなっている!!」
「私は部下に『街で遊んでいる黒髪の聖女を連れてこい』と、最初に報告を上げてきたパニクル・ビオーテ伯爵令息に命じました。顔を知っている者が行ったほうが確実だと思いましたので。」
「えっ! お、俺?! パニクル・ビオーテですか?! いや、だって、街に隠れてたって報告を上げたら、城から逃げて仕事もせずに遊んでるって聞いたから、今日も本屋で遊んでるのかと思って……!」
私を誘拐したパニクル・ビオーテ。きっと自分の名前を覚えてもらおうという癖がついてしまっているのかな。こんなマイナス評価の局面でも名前言っちゃってるよ。
「まさか私が、こんな若者に恋人を連れ去られるとは……彼は騎士団ではエリートなのか?」
「いえ、対して秀でたところのない一団員です。」
「えっ、そんなっ、団長……!」
「ちょっとまてジークフリード、恋人と言ったか?」
「ええ陛下。彼女は私の可愛い恋人です。」
「なんと……!」
ええーちょっと待ってー。今そのくだりいらなくない? 恋人の振りはお城の人が私に手を出しにくいようにって作った設定だよね?? え、設定……だよね?
「そうか……女性に言い寄られ過ぎて女嫌いになったジークフリードに……恋人が……!」
ジークさん、女嫌いだったんだ。まったく気づかなかった。王様、感動して泣いちゃってるし、誤解されたままじゃまずい。ここは口を挟ませてもらおう。
「ちょっと待ってください。ジークさんとは恋人というわけでは……」
「えっ」
「えっ? ふ、フリでしたよね? 恋人のフリをするって――」
「またそんなことを言うのか?」
「え……??」
「本屋に行くのに君がデートと言ったではないか。私の贈ったワンピースを着てくれたし……それはもう、恋人だろう?」
「あっ、………いや、え??」
確かに本屋さんデートですねーって言った。
確かにもらったワンピース着た。
え? それってもう恋人なの?? この世界の常識がワカラナイ。
「それはもう婚約者だな。」
「そうでしょう? 兄上。」
「通常、貴族が異性と2人での外出が許されるのは婚約者同士だけだ。身につけるものを贈るのも、婚約者にだけだ。」
「えっ、そうなんですか……。」
王様が言うならそうなんだろう。けど、なんだかすごい嵌められた感がある。
「ま、まあとにかく、私は異世界の人間なのでここの常識には疎いんです。なのでジークさんとは、今は恋人でも婚約者でもありません。」
「なんと……!」
「そう……まだそんなこと言うんだね。でも『今は』ってことはこの先はわからないよね? これはやりがいがあるな。」
「えっ怖い。」
そんなところにやりがいを見つけないでほしいです。というか、人の話を聞いてほしい。
それよりも、王子とか騎士団長とか、パニクル・ビオーテとかどうにかしないといけないんじゃないかと思います。
「それで、陛下。そちらの聖女であり公爵閣下の恋人である女性に対しての誘拐と脅迫罪……になりますかな? 罪を犯した私どもに対する処分はいかように?」
真面目な人いた。
きっと、この人は真面目なんだろう。自分で考えて動ける人。それで、たまに選ぶ方向を間違えてしまうんだろう。
今回も、ジークさんではなく王子を信じて動いてしまった。上がちゃんとしていたら凄くいい部下なんじゃないかな。てかコイビトチガウ。
「うむ。ジャランは部屋に軟禁、ドミストス団長はしばらく謹慎せよ。追って処分を言い渡す。」
「そ、そんな……父上っ!」
「パニクル・ビオーテはいかがいたしましょう。」
「ああ、パニクル・ビオーテか、そうだな……ビオーテ伯爵に連絡しておこう。処分が決まるまでは伯爵家で謹慎していろ。」
「は、はい……。パニクル・ビオーテ、了解しました。」
それぞれの処分は、王様の一存で決まるわけではないらしい。きちんと議会を開いて話し合うとのことで、この場は解散となった。謹慎処分を言い渡された面々は、それぞれ監視がつくとのことで、騎士に連れていかれた。
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